子どもを誰ひとり見捨てない
温もりのあふれる社会に
-「子どもの貧困」の実態と支援体制を考える-

5 意見交流・討論

  • 上村: 筑波大学大学院の2年生です。北関東信越ユースミーティング実行委員会に入っています。

    今年の2月にユースミーティングを行いました。3年前にできた子どもの貧困対策基本法に基づいて、市や県が子どもの貧困への対応をしっかりと形にするよう求めるためです。私はあしなが育英会から奨学金を借りています。小学校3年の時に父親を亡くしまして、弟2人と母の4人家族の生活でした。経済的に困難でしたので、学校生活や部活などで苦しい思いをしたことも多々ありました。劣等感を持った高校生活でした。負けず嫌いの性格もあり、勉強だけは何とか頑張って大学に進学しましたが、奨学金で大学を卒業することができました。高校の時の奨学金90万円と合わせて570万円の奨学金を借りています。来年の4月からは群馬県の高校の教師になる予定です。自分の経験を生かしながら、教育に携わりたいと思っています。
  • 渋谷: 貧困によって十分な学力が得られないということがあるのでしょうが、手をかければしっかりとした学力を身に付けられるということですよね。私の定時制高校6年の経験でも同じことが言えると思います。中学校の時に手をかけられなかった生徒が、定時制高校ではきちんと学び卒業していきます。中学校の時に手をかけられない状況をもう少し知りたい。教師の目が進学とか学力テストとかそういうところに行ってしまって、手をかけるべき生徒に手をかけないというようなことがあるのではないでしょうか。
  • 守随: 館林で子ども育てネットをやっています。白鳥先生のお話は非常に感動的でした。子どもが豊かに育つためには、国の前に地域社会があり、地域社会の前に自分たちの住んでいるところがあるのだと思っています。水俣で作ってきた地域社会の実践や「スウェーデン型社会」を作った国を挙げての取り組みなどが参考になると思います。
  • 高橋: 高崎の「HOPE」の代表をしています。 

    講師が18名、事務的なことを手伝う人が1名、生徒が12人で、学習塾「HOPE」で学習指導をしています。今年度で4年目になります。地域でどのように組織を作るかということの大切さに同感です。群馬県ではその点で非常に遅れている。埼玉県とは大きな差があると思います。これは「格差社会」の表れであり、住んでいる人たちの地域をどのように作っていくかの考え方の違いではないでしょうか。子どもを最優先に考えていく必要があります。若者を育てなければならないのです。
  • 宗像: 太田女性ネットの代表をしています。ボランティアの任意団体で、一人親のお子さん、外国人のお子さん、不登校のお子さんに無料の学習指導をしています。食べ物にも困っているお子さんもいます。貧困の格差はつくづく深刻だと感じます。白鳥さんたちのような仕組みを作る必要性を感じます。県内にも無料の学習塾はいくつかあります。皆さんのご支援をお願いします。
  • 深沢: 前橋協立病院で小児科医をしています。健康格差を問題にしてきました。群馬県では15歳未満は医療費無料という全国一の制度があります。親が国保を滞納していても子どもは問題なく医療を受けられます。しかし、教育のところではいろいろと問題があると思っています。それで、無料塾をやる必要性を感じ、いろいろ模索しているところです。
  • 白鳥: 現職の先生方の研修会等に行く機会がよくあります。今、現場の先生は「元気がない」のですね。ここ20年間、現場の先生に対して、文科省とか教育委員会とかが、一人一人の先生がこんなに頑張っているからいろいろ問題を持っている子どもたちもちゃんと支えているよということで励ますことがないのです。職員会議は無しになりました。先生方はA,B,C,Dで査定されます。査定の基準は、そのクラスで遅刻が少ないとか、下足入れにきちんと下足が入っているかとか、教育の本質とはかけ離れたものです。教師が困難な子どもを支えてきたことを励ます施策とかはないのです。教育の中にビジネス論理が入れられ、教師は「元気がなくなって」いるのです。それでも、頑張っている先生はたくさんいます。しかし、困窮者の自立支援を企画・立案するのはあくまでも福祉課です。また、子どもの貧困については全ての政党が何とかしようという点で一致します。議員を含め、いろいろな方法で働きかける必要があります。善意のボランティアには限界があります。行政・政府は認めます。後は、我々が行政をどう動かすかです。
  • 高橋: 今まで助成金とか寄付金を基にして運営していました。生徒からはお金をもらっていないし、会費とかもありません。ボランティアというのは無理だと思います。たまたま見つかった場所を使っていますが、水道・光熱費などの諸経費を考えていくと、いずれは潰れることになります。公的な場所を見つけなければなりません。行政と地域の人たちが一緒になって子ども、特に弱者の子どもを育てていかなければならないのです。
  • 守随: この前、深谷で障害者の施設のお祭りがありました。足利では子どもが主人公で、子どもが企画する行事がありました。「子どもの権利条約足利」というのもあります。そういう様々な活動から学んだり、「紡いでいく」ことも必要です。「教育委員会は不要なのか」という本がありますが、その本の重要性を考え、少しでも多くに人に読んでもらおうと頑張っています。そういう基本的なことを共通の認識にしていく活動も必要です。
  • 倉林: 行政との関わりの話が深まってきていますが、行政の関係の方がいらっしゃっているので、お話を聞きたいと思います。
  • 群馬県健康福祉課: 前半の講演を聴いて、いろいろ考えさせていただくことがあり大変勉強になりました。各担当でそれなりの取り組みはしてきましたが、子どもの貧困という切り口で、新たに子どもの貧困対策推進に関する計画を立ち上げようとしています。教育委員会や民間の皆様の協力を得ながら、しっかりと取り組んでいきたいと考えています。ただ、県のやることですので、予算とかの関係もあり、すべてやれるかどうか難しい点もあります。
  • 群馬県健康福祉課: 行政と連携していくうえでの前提条件があります。生活困窮者自立支援法の事業では、委託を受けるためには法人格を有していることが必要です。任意団体という位置づけでは委託を受けられません。今年度はすでに済んでいますが、来年度に向けてでも、担当部局に気軽に相談していただきたい。子どもの貧困対策推進法もできています。この法律では、学校が「プラットフォーム」になると位置づけられています。その他いろいろな制度が出来ています。皆さんの積極的な関わりをお願いします。
  • 白鳥: 埼玉県では2010年にそういう事業が始まりまして、私たちの団体は2010年に大学の研究者、教員、元教員などで一般社団法人を作りました。そして、企画・提案の入札に臨みました。派遣の系列の団体とか大手の予備校も入札に参加しました。私たちのメリットは、大学と関係がありまして500~600名の学生ボランティアを確保できるということ、ボランティア教員が60名程、教室だけの面倒を見る教員・元教員が100名程いるということでした。ただ、退職者の方に協力をお願いするのはかなり困難でした。退職者の方は「疲れている」のですね。特に小中の先生は、さんざん夜遅くまでやったから、「教える」と聞いただけで体が震えるといってもいいのではないでしょうか。去年までは、埼玉県が主催する事業で各市の福祉事業所等が協力するものでした。 この4月からは法律に基づく事業で、町村部(23町村)は県が主催し、市部(28市と政令指定都市)では市が主催する事業となりました。現在、私たちは13町村部・27市部で事業を行っています。主催団体が市単位になったことで教室の数が3倍以上増え、60カ所以上になりました。
  • 宇敷: 沼田から来ました。子どもたちが、学校が楽しみでやって来る、学校で楽しめるということが大切だと思います。ここ10年ほど「たんぽぽ」の収集・観察・展示をやっています。このような簡単なことでも、子どもたちはいろいろな発見をし、学習します。そして学校が楽しくなるのだと思います。最近頭にきたことがあります。教員の評価の自己申告の欄に「困難な目標を1つ入れなさい」というのができたのです。そんなものが目標になるのでしょうか。
  • 塚本: 館林でフードバンクの活動をしています。食品があったらもう少し気持ちが楽になるのではないかという方が結構います。シングルマザーの方で病気があったりすると仕事がなかなか見つからないのですね。見つかっても非常に低い賃金です。子どもの面倒を見る時間はないし、とにかく食べ物があるとうれしいと言っています。寄贈していただける方から無償でいただいて、必要とされる方に無償で配っています。直接渡す場合と間に人が入って間接的に渡す場合があります。利用同意書が得られないために残念ながら配布できない方もいます。
  • 佐藤: 中学を卒業した後の子どもたちの面倒を見ています。私たちにとっても、中学の間に将来に向かってスタートできる基本を作っていただけるとありがたいです。 
    中学を出た後では子どもたちを元に戻すのがなかなか難しいのです。
  • 富岡: 群馬弁護士会に所属しています。日弁連で子どもの貧困問題を担当したことがあります。今日の皆さんのお話を聴いて、それぞれがその地域でできることをいろいろやっていることに元気づけられました。子どもの支援が必要だとわかっていながら、なかなか具体的・有効な活動ができないでいるというのが実情です。貧困の連鎖を食い止めるという視点から見ると、子どもの学習支援というのは1つの切り札かと思います。そして、その支援は早いほうがいいですね。小学生から始める必要があります。一部の労働環境は、派遣などにより、ますます悪化し、子どもの問題もますます深刻になっているとしみじみ感じています。
  • 白鳥: 貧困の連鎖をストップするためには、各家庭にもっと暖かみのある給料でもっと親に余裕のある生活をしてもらう。そういう下支えが必要だと思います。当面、今を生きている子どもたちが困難を抱えているとしたら、行政を含めて社会が支援していかなければなりません

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Posted by gkodomo


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