パートナー通信 No.45

寄稿個人と地球の2つの大きな共通レベルで
付き合いたい

カイラン・ミックメーヒル      
(ICS理事長・大東文化大学教授)

ICSとは?

 インターナショナル・コミュニティ・スクール(ICS)に現在フルタイムで、5歳から17歳まで30人、放課後と土曜日にも30人の子供が通っています。フルタイムの生徒は日本の公立学校に通わずICSに毎日来ています。ICSは日本では無認可のフリースクールに当たるわけですが、アメリカ、日本、ブラジル、ペルーなどの教育を高いレベルで教えており、居場所だけではなく、オルターナティブな教育を目指し、ホームスクールと公立学校の中間にある第3の選択肢を子供に与えるのが趣旨です。ブラジルの文部省の認可を今申請中です。アメリカ認可の通信教育プログラムも長年実施して、アメリカの高校卒業証明書も取れます。ペルーのPEAD(外国に住む子どものための通信教育制度)の資格も取れます。

ICSの理念・教育法

 ICSが他のインターナショナルスクールと違う所は、①一つの国籍の子供や教育制度に向けていないところ、②裕福な家庭の子供に向けていないところ、③母国語だけではなく、その他の言語も習得できるカリキュラムであることです。 
 ICSでは、どの国籍の子供、重国籍の子供、日本人の子供も含めて歓迎しています。国籍別に子供を区別しない、差別がないことが理想という理念に立っています。国籍、国という概念を乗り越えた、個人と地球の二つの大きな共通レベルで付き合いたい(向き合いたい)からです。ブラジル人、ペルー人、アメリカ人、日本人、フィリピン人、韓国人、スリランカ人、ルーマニア人、アルゼンチン人、パラグアイ人などなど、色々な文化的な背景を持つ生徒がいます。
 私たちは、社会階級や保護者の地位などを超越した学校を作ろうとしています。12年間も私と会員・スタッフのボランティア労働や助成金などの確保のおかげで、親が月謝を払えなくても、どの子供でも受け入れができる体制ができつつあります。可能な限り保護者にもボランティアしていただき、月謝の足りない分を補ってもらっています。世界中で、ますます格差が激しくなり、金持ちの子供とそうではない子供の受ける教育の差も大きくなり、子供の将来の可能性を限定してしまっています。家庭の事情と関係なく、ICSは非常にレベルの高い、個別指導にあふれた教育をすべての子供に与えたいのです。

 ICSの多言語と多文化教育法は日本でも、世界でも珍しいと思います。子供たちは、日本語、英語、スペイン語、ポルトガル語のうち、2つから4つまでの言語による教育を受けています。それは、外国語としてだけではなく、社会、算数、理科などの教科の指導もそれぞれの言語で受けることができます。私の7歳の娘は今日本語と英語による教育を選んでいますが、13歳の娘がICSにいた時、彼女が英語・日本語・ポルトガル語を選び、ブラジル人並みにポルトガル語をできるようになりました。
 ただし、言葉に関しては、例えば、自分だけの子供が得するように、英語を完璧に学ばせるなど、という欲張り教育は目指していません。私がとても悲しく思うのは、ある言葉だけがほしいけれどその言葉の人や文化は要らないという今の世界の強い傾向です。「英語」はほしいけれど、外国人(その背景)は要らない、「スペイン語」を勉強したいけれど、ペルー人と友達になりたくない、つまり、外国語を自分だけのための特技にしたいだけという自己中心的な態度があります。
 ICSの理念は、その1人1人の子供の文化やアイデンティティを大切にしたいので、それらの言葉・文化を学ぶ、という人間を中心に置いた多言語・多文化教育です。言葉が、人間を大切にするための・相手を理解するためのものとして学んでほしいのです。ですから、どの言葉も大事であり、言葉を混ぜても良い、言葉が完璧ではなくても、相手のことを誠実に思ってコミュニケーションを図れば、気持ちが100%伝わります。これは英検1級を取るより誇るべきことだということです。

外国籍の子どもたちが日本の教育システムのなかで置かれている状況

 外国籍の子供のアイデンティティ、文化、母語は日本の教育制度でまったく無視されています。外国人の親にとって、日本の学校に自分の子供を入れるのは、自分の子供のアイデンティティを失うことと同じです。日本語教育一辺倒の教育制度では、自分の子供が完全に日本人化されてしまうからです。自分は外国人なのに、自分の子供は日本人になってしまい、親の文化、経験、知恵、言葉、外見、すべてを否定してしまいます。すべての子供は祖先があり、その祖先と親の苦労と努力の上に立ち、その知恵と価値観に触れ成長していくのです。子供が親の人生を出発点として旅立ちするということが、人間(親、子供)の最高な喜びと生き甲斐となります。日本の学校に自分の子供を入れ、同級生と先生にマイノリティの文化と言葉を認めてもらえず、いじめを受けたり笑われたりした場合、結果として自分の親を否定してしまい、代々の親子という一番根本的な絆が崩れてしまいます。

不登校、自宅待機は親だけの責任なのか?

 外国人の子供の不登校という問題の大きな原因の1つが、そこにあると思います。外国人学校などの月謝が払えない、でも日本の学校には行かせないで自宅待機をするという外国人の親を批判する日本の行政や教育者の方がいます。
 しかし、親にとって自分の子供との関係が崩れるということがどんなに悲劇なのかを分かっていないと思います。皆さん想像してみてください。例えば他の国へ行き、子供が日本語を忘れてしまい、他の国の言語しか話せなくなり皆さんの文化を忘れてしまったら。祖父、祖母と孫との会話が成り立たなくなったら。想像しただけでも胸が痛くなります。
 ある日本人は、外国人保護者の考えが、子供の日本語習得の足を引っ張っている、無責任だ。親が邪魔しなければ、子供はちゃんと日本語を習得し、日本人と同じようになってくれる。親から離して、施設で預かり、徹底的に日本人化してあげたほうが良い、という人もいます。
 これは外国人、つまり移民者やマイノリティの家族の人間性や人権をまったく無視するという話しであり、ファッシズムや植民地時代を思い出します。マイノリティはマジョリティと違い、自分たちの文化や言葉をしっかり保持する権利がある、それが当たり前です。
 外国人児童の不登校の問題を解決するには、日本の教育制度を変えなくてはならないという責任を取ってもらいたいと考えています。

子どもたちの声

 ICSの子供は他の子供と変わりません。医者になりたい、弁護士になりたい、工学者になりたい、みんな大きな夢を持っています。
 しかし、日本の中での現状として、親と同じ工場勤めになってしまう可能性が高いのです。多文化・多言語の子供たちが日本で色々な資格を取りやすくし、活躍できる機会を増やす必要性があります。
 日本人の帰国子女が特別扱いを受けられるようになったのと同じように、移民者や滞在者の子供のために入試の枠など作るべきです。今、日本が裕福になっているのは、多くの親達が派遣社員としてこの20年以上、日本の経済に大きく貢献したことにも起因していると思います。
 可能性を与えることによってマイノリティの親達、子供達に対しての恩返しになるでしょう。

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