パートナー通信 No.49
「子ども日本語教室・未来塾」とA君
ボランティアスタッフで参加した小林美代子さん・小林千鶴さんにレポートしてもらいました。
「子ども日本語教室・未来塾(塾長:高橋眞知子)」は伊勢崎市を拠点として活動するNPO法人「Jコミュニケーション(理事長:高橋清乃)」によって今年(2012年)4月に開設されました。日本語での理解が不足している外国籍の子どもたちが、それぞれの在籍校で教科学習にしっかりとついていけるように、ボランティアスタッフが日本語指導を中心としたサポートをしています。
オープンに先立ち、11年12月~12年3月まで4ヶ月間のプレ教室が実施されました。その間に登録された子どもは27名です(小1~中3)。国語、算数を中心に教科書やドリルを持参し、熱心に勉強する子どもたちを前に教科学習への強い意欲を感じました。と同時に、「ことば」の壁を気にせず安心して居られる空間や、マンツーマンに近い状態で関われる大人が居ることへの心地よさもあるのでしょうか、回を重ねる毎にほほえましい変化を見せてくれました。
*A君のこと
直前に日本語指導者養成講座を受けただけの私が、ボランティアとして未来塾で初めて小学6年生のA君のサポートについた日は、算数の『反比例』について教科書を使って説明することから始まりました。教科書では導入として、すでに学習している『比例』と比較してみよう、と投げかけているのでそれに従い、まずは「比例ってもうやったよね?覚えているかな?」と聞いてみました。A君は無言のままちょっと首をかしげただけです。「さあ…どうだったかなあ」という感じに。しょっぱなから反応の鈍さに挫けそうになりながら「じゃあ、どこに書いてあったかな?」と本人にページを探してもらおうと振ってみたところ、「さあね…」という感じに首をかしげてなんとなくページをぱらぱらしているだけでした。そこで、「じゃあさ、目次を見てみようか!」と誘い、やっと単元を発見し、「では、復習してみよう」と『比例』の説明をして、教科書の例題を一緒に考え、いちいち「わかったかな?思い出した?」と顔を覗き込んで反応を見つつ不安な気持ちでひたすら話しかけました。
その日の後半に、やっと最初の問題の『反比例』に戻り、気を取り直して、教科書の簡潔に書かれた説明文をかみくだき図や表を書いて、A君が「わかった!」と言ってくれるのを待ちましたが、やはり首の動きは「うん!」でも「いいえ」でもなく、「さあ、どうかなあ…」という感じ。話せば話すほどこちらが不安になる状態のまま終わりの時間となり、「また来週ね」と言ったものの、まったく手応えが感じられず、先を考えると重たい気持ちになりました。
ところが、A君はほとんど毎回塾に来てくれて、だんだんと表情が柔らかくなり、問いかけに対して答える声も少しずつ大きくなってきました。新たに同学年の男の子たちと一緒に学習するようになると、自らやりたい教材を提示したり、みんなで競って次々問題を解いて「早く丸を付けて!」と言わんばかりにこちらをしっかり見てくれるようになりました。
A君の日本語は日常会話ではほとんど支障がないようなので、算数や国語が分からないのではなく、少し時間をかけて丁寧に説明をして、本人がじっくり考えれば分かることやできることがたくさんあるんだ、と気付きました。ただ、学校では一つ一つの事柄にたっぷり時間を割いて全ての子どもたちに理解させることは難しいのだろうということも容易に想像できました。
A君が持って来る教科書の中からすでに学習しているはずの箇所について時々「覚えてる?」と聞くと「さあ…私は一切知りません」というように肩をすくめてジェスチャーすることもあり、内心(えっ?それはマズイでしょ)と思いながら、「じゃあ、なにが書いてあるか一緒に読んでみようか」と言うと、コクッとうなずき、読み合わせをしているうちに「そういえばやったかなあ…」という表情になってくるのでした。