パートナー通信 No.49
2012年度 定期総会議案 の紹介
5月20日(日)午後1時30分から、前橋市総合福祉会館で2012年度の 「定期総会」を開催します。提案予定の「総括・方針」の部分を紹介します。 お手紙でご意見をお寄せいただいたり、総会にご出席いただいて討論にご 参加くださるようお願いいたします。
Ⅰ 2011年度 活動のまとめ(案)
1 国連子どもの権利委員会「第3回最終所見・勧告」の学習と普及
「第3回最終所見・勧告」についての4回目の学習会は「教育の領域に関すること」について行いました。日本の「高度に競争主義的な学校環境(教育制度)の問題」に関しては、過去2回の勧告と同じように第3回最終所見でも「懸念」が表明され、「子ども間のいじめ、精神障害、不登校・登校拒否、中退および自殺」と具体的な問題を列挙し、「大学を含む学校システム全体の見直し」を勧告しています。その際に、子どもの権利条約第29条「教育の目的」および「教育の目的に関する一般注釈1号(2001年)」への考慮を促していたので、改めてそれらについても学習しました。
いわゆる「新自由主義改革」による悪影響がさまざまな領域に広がり、子ども期の剥奪と人間関係の崩壊を来たしている。それに加えて東日本大震災や原発事故が深刻な影響をもたらしている。
この教育をめぐる困難な状況に対して、子どもたちの教育活動に直接関わる教職員が、父母・保護者と共同して実践的にこの問題解明にあたり、子どもたちの「最善の利益」に資する教育活動を学校現場から創り出していくことの大切さが認識されました。そして、少なくない教職員がこの課題に答える創造的な実践に取り組んでいる。これをより広く、子どもたち、保護者・市民、教職員みんなで共有できるようにすることが、私たちの大切な仕事であると理解しました。
また、今日の困難な状況を、子どもたちのありように目を注いで切り開くキーポイントは、「子どもたちの意見表明権」の尊重と言えます。今回の勧告のパラグラフ43・44「子どもの意見の尊重(子どもの参画)」に再度目を通しました。
2 県内市町村「子どもの権利アンケート」調査と自治体訪問
国連「第3回最終所見・勧告」の採択を受けて、2010年秋から群馬における「第3回県内市町村子どもの権利アンケート」調査を開始し、2011年9月『アンケート調査結果』と『調査結果の要点と群馬子どもの権利委員会の意見』の2つの冊子としてその成果をまとめました。
この調査結果を踏まえて、群馬県当局および市町村との意見交換会をスタートさせました。
- 2011年11月24日(木)県当局との懇談:県側からは生活文化部少子化対策・青少年課3人、健康福祉部子育て支援課2人、教育委員会義務教育課2人の担当者が出席、子どもの権利委員会から7人が参加しました。とくに重点がおかれたのが国連勧告の広報と研修の問題で、「新任管理職研修や教員の初任者研修で触れた」との説明があり、「初任者だけでは不十分で、もっと広く知らせてほしい」と要望しました。もう一つの重点はいじめや虐待への対策で、「要保護児童対策地域協議会」については、2008年4月から全市町村に設置が義務付けられていること。県の「いじめ対策室」では電話相談が2010年度で611件で、高止まり状態である。各学校でのいじめ問題アンケート調査を毎月実施するよう指導しているなどの説明がありました。さらに、行政と民間の連携については、互いの立場を尊重しながら理解を深めようとする姿勢、いじめや虐待について子どもがまともにものが言えるには、教師と子ども、親と子どもがいい人間関係を保っていくことなどの必要性が話し合われました。県当局からは子育て支援課が2010年3月に出した子ども権利ノート『あなたのおはなしきかせてね!』、『群馬県人権教育充実指針』、小学校の保護者のための人権教育資料『みんなの願い』などの資料をいただきました。
- 2012年2月2日(木)前橋市訪問:市側からは福祉部こども課2人、教育委員会義務教育課2人、市民部いきいき生活課から2人の担当者が出席、子どもの権利委員会から4人が参加しました。
- 2012年3月15日(木)藤岡市訪問:市側からは健康福祉部長、健康福祉部子ども課2人、福祉課1人、教育委員会学校教育課1人、生涯学習課1人の担当者が出席、子どもの権利委員会から5人が参加しました。(前橋市・藤岡市への訪問の詳細は、本紙3ページをごらんください。)
3 子ども向けリーフ『こどものけんりじょうやく』、『こどものけんりカルタ』再改訂作業
子どもの権利条約を分かりやすい言葉にした、子ども向けのリーフ『こどものけんりじょうやく』(改訂版)が作られて10年が経過しました。在庫がなくなりましたので、『三訂版』の制作に取り掛かりました。『改訂版』を基本しながら、「まえがき」の検討が終り、各条文の表現の検討に入るところです。また、『こどものけんりカルタ』は、読み札の言葉をより分かりやすく、短くした「ショートバージョン」を新たに作る取り組みを進め、会員からの意見をいただきながら、ほぼ完成にこぎつけました。(本紙9ページをごらんください。)
4 「第19回全国教育研究交流集会in群馬」の企画を復活して
東日本大震災のため中止された「第19回全国教育研究交流集会in群馬」で予定されていた2つの企画が復活開催されました。
- 公開シンポジウム『自然・地域の再生を通して 教育の未来をきりひらく』
2011年6月18日(土)、前橋プラザ元気21で「公開シンポジウム」が開催されました。サブタイトルを『3・11を体験して考える』として、東日本大震災・原発事故の問題を踏まえた充実したシンポジウムとなりました。コーディネーターを務めた梅原利夫さん(和光大学副学長)は、「3・11から100日経った私たちの悩みや思い、希望への手探りが示されたように思う」と語りました。シンポジスト4人の発言(概要)は以下のとおりです。 - 飯塚祥則さん(元前橋市立小学校教諭)は、作文教育の実践を踏まえて「引き出すことと受け止めること」について、「私が良いと思い込んでいたものとは対極にあるものからでも子どもたちは育っていく。子どもをありのままに受け止めることが大切だ。私が作文の指導法を変えたことによって、現在の子どもたちは、以前の私には想像もできないほどの表現意欲に支えられて、教師が手を加えない自然でありのままの表現が可能になりました」と述べました。
- 松井孝夫さん(元県立尾瀬高校教諭)は、尾瀬高校・自然環境科で創り出したユニークな体験型環境教育の取り組みを紹介し、その3年間の学びを積み上げて生徒たちは「自分がどのように活動すればよいのか、具体的にイメージできるようになる。自分がどのように学習すればより良く改善されるか、理解できるようになる。自分自身を正しく評価し、自分の成長を自分で確認でき、学びの楽しさ(充実感)を実感するようになる」と述べました。
- 布川了さん(田中正造記念館名誉館長)は、「あの3月11日に足尾鉱山の堆積場が崩壊し有害物質が渡良瀬川に流れ込んだ。足尾鉱毒事件は今もある」と語り、また、福島第一原発事故を見て思い出したという「鉱毒哀歌」の一節「鉱毒事件は人のわざ/人と人にて止むものを/しかも乱暴の果てしなく/人の命を仆(たお)しゆく…」を紹介されました。足尾鉱毒事件と福島第一原発事故の共通性を指摘しながら、田中正造や渡良瀬川鉱毒事件に関わる、地域に根ざしたさまざまな研究・シンポジウムなどの活動も紹介されました。
- 朝岡幸彦さん(東京農工大農学研究院教授)は、群馬の3人の実践を「それは自然や地域という風土に根ざしながら、私たちが失ってしまったものを取り戻すための教育である」と提起しました。飯舘村の美しい里山の景色を示しながら、「人は千年以上にわたって自然に働きかけ、こういう生態系を作ってきた。」「かつてはもっと素直に自然や山と一体になってものごとを考えたり感じられたりしていた。そういう感覚を我々は失った。だから日本人は"キツネに騙されなくなった"。」と述べ、「学びほぐし(unlearn)」という新しい概念を紹介されました。
- 島小学校での『群馬の教育・文化創造-その歴史と現在・未来』
「第19回全国教育研究交流集会」で予定された10の分科会のうち、第10分科会だけが復活開催されました。時は2011年7月3日(日)、場所は群馬の教育を語る際に欠かせない島小学校(現在の伊勢崎市立境島小学校)でした。
松本美津枝さんの司会で、まず田中武雄さん(共栄大学教授)が群馬の教育の歴史を中心に提起を行い、つづいてかしの木保育園の高橋弘子さんと伊勢崎市立南小学校の吉村明美さん、さらに境島小学校の元教諭桜井英比古さんと現職の中林均さんが、それぞれの実践を報告しました。こうした報告を通して、「島小教育」を受け継ぎ、選び抜かれた教材をみんなで学びながら、子どもたちが生き生きのびのびと成長発達してゆく群馬の教育の特色が、明らかになっていきました。 - 「記録集」(民主教育研究所刊)の発行
復活開催された「公開シンポジウム」「第10分科会」の詳細はもとより、全国交流集会で予定されていた他の分科会の概要や展示される予定だった子どもたちの作品などを収めた『記録集』が、2011年9月23日に民主教育研究所から発行されました。(残部僅少。入手ご希望の方はお早めにご連絡ください。)
5 第43回全国保育団体合同研究集会
2011年8月6日~8日、前橋市・高崎市を中心に「第43回全国保育団体合同研究集会in群馬」が開催され、全国から7531人が参加しました。群馬の参加者は3390人でした。群馬子どもの権利委員会も、世話人の阿比留さんをはじめ保育に関わっている多くの会員が大奮闘しました。第1日目のオープニングフォーラムでは、東北の震災・原発事故の体験報告から「生きる」ことの意味、保育の仕事の専門性、保育所の役割の大きさなどを受け止め、「子ども・子育て新システム」の制度化では、本当に「子どもの権利」を生かすことはできないとの理解を深めました。第2日目は、21の講座やシンポ、40の分科会が展開され、子育ての基礎的学びから保育の専門的な学びまで、市民と保育関係者がひとつになって学びを深めました。第3日目は、湯浅誠氏の記念講演「手をつなごう!子どもたちに希望にみちた社会を手渡すために」、構成詩「群馬の保育の歴史」、音楽劇「オキクルミと悪魔」の感動的な全体集会を成功させました。
6 地域の活動との交流
- 地域の保護者と子どもたちの集まり
一昨年度の「総会」で講演をいただいた飯塚さんの実践は、お母さんたちの「読み聞かせの会」や「同学年の親たち」のつながりから、前橋、高崎、さらには渋川地域へと広がっています。
この「集まり」では、誰か指導的な人がリードするのではなく、母親たちも教師もみんな同じ人間として同じ現実に立ち、子どもの育ちや勉強についての不安や悩み、疑問を率直に出し合える間柄になっています。であるからこそ、そこに集う大人たち一人一人の変革の場でもあると言えます。
この大人たちの姿に接する子どもたちも、安心して自己表現できるのでしょう。「受け止めてもらえる」ことが子どもたちの感性や思考をどれほど豊かに育むかを見事に証明しています。親子ともどものたくさんの作品の中からいくつかを『パートナー通信』に紹介させていただきました。
子どもたちを中心にして保護者も教師も表現し合い、受け止め合い、変革し合う関係性を、家庭に、そしてとりわけ学校に取り戻していくことの大切さを痛感させられました。 - こどもの詩コンサート
飯塚さんや群馬作文の会のかたがたの実践から生まれた子どもたちの詩が、赤松泰子さんのメロディーとひとつになって、素晴らしい空間を作り出しました。2012年2月11日、群馬県青少年会館で「こどもの詩コンサート」が開かれました。自分の詩が赤松さんの温かい歌声にのって会場いっぱいに伝わっていく、お友達の心がピアノ・フルート・パーカッションの音色と溶け合って伝わってくる。子どもたちもお母さんたちも大満足のコンサートでした。(赤松さんのCDなどについての情報は「群馬子どもの権利委員会のホームページ」から「赤松プロジェクト」へリンクできます。) - 桐生小学生いじめ自死問題
2011年12月15日(木)、桐生市内にて3人の世話人が、上村明子さんのお父さんや裁判を支援する会のかたがたとお会いすることができました。まず、お父さんから、明子さんの学校での様子、いじめの実態、学校の対応などを詳しくお聞きしました。支援する会のかたからは、口頭弁論の様子や裁判の進行などについての説明を受けました。私たちは直接裁判に関わることはできませんが、子どもたちの人間としての尊厳を擁護する立場から、いじめの事実の究明と子どもたちにどのようなケアがなされたのか、今後どのようなケアが必要かなどを明らかにすることが求められています。 - 外国籍の子どもたちの日本語教育との連携
小林世話人の桐生小学生いじめ自死問題に関連するシンポジウムへの参加をきっかけに、NPO法人「多言語教育研究所:インターナショナル・コミュニティ・スクール(ICS)」との交流が始まり、2011年4月から石橋世話人の「連続出前授業」などに発展しました。またICSとのつながりのなかから、伊勢崎市のNPO法人「Jコミュニケーション」の日本語教育指導者講習会(2011年9月から11月)に複数の会員が参加し、その後の「子ども日本語教室」との連携も進んでいます。