パートナー通信 No.51

『よかった会』の夏休みの集い 自分を見つめること 他者に共感すること

 

 本誌でも何度か紹介している、読み聞かせのお母さんたちの集りから生まれた『よかった会』の夏休みの集いが、8月23日、高崎市(旧群馬町)の国府公民館で開かれました。お誘いを受けて世話人会から4人が参加しました。午前中は斉藤一郎先生(小学校教師)の講演、午後は子どもたちの作文教室、と心に染みる一日でした。

 

◇はじめに

 「夏休みの集い」の案内に、子どもの権利条約のことを、今の学校・先生・子ども・保護者のことと結びつけてくれているようなお誘いの言葉がありましたので紹介します。

 7月に斉藤さんの講演を聞き、たいへん感動しました。1人でも多くの保護者のみなさんに聞いてほしいと思いました。『自分を見つめる』ことは、時には自分を否定することでもあり、過酷なときもあります。『他者への共感』は、子ども・保護者・同僚・管理職と、共存感覚なくしてはできない、どちらもたいへん難しいことかもしれません。斉藤さんの話を聞くと、すぐにも自分にできることが見えてきます。

 『間違いや、失敗は誰もがするもの。自分へのさまざまな縛りや思い込みも誰にもあるもの。そこから、本質は何かに気づき、自分が解放されたとき、自分自身も、子どもたちも一緒に変容していくのだ』と斉藤さんは話しています。そして、どのような学校でも、どのような担任でも大丈夫なのだということにも気づかされる話です。

参加された方の感想から

❤講演の参加の誘いが来た時は、作文が何のためになるのだろう、自分が生徒の時は作文を嫌々書いていた記憶しかないし、聞きに行ってもつまらないのではと思っていました。
 会場に行って最初に、野性味溢れる人が作文の何を語るのか不思議でしょうがありませんでした。
 話を聞き始めると先に感じたものは消え、文面だけを見ると面白おかしい作文でも、深く読み取れば子どもたちの感情、経験、想いなど様々な情報を知り得ることを知りました。
 しかし、このような作文は自分を素直に表すことができる低学年だけだとも思いました。
 初めは2時間も聞いていたら退屈で寝ちゃうかもしれないと思っていた講演も、終わってみると話を聞き入ってる自分がいました。
 次回があるのであれば参加したいと思います。

加藤 裕磨さん(大学生)

❤2時間以上の時間でしたが、私は短く感じました。
 話し方は独特で、不思議に思うこともあったけど、ひとつひとつ丁寧にお母さん達の不安を取り除いて行く考え方や、姿勢は 斉藤先生の人柄が出ていると思います。
 聞いていて、長い時間飽きさせないのは、伝えたい内容の多さだったり、ある意味、教師として人を惹き付ける力、魅力?があるんだろうと思いました。
 ちょっと太めで髪の薄い、自分の恥ずかしい事さえも、笑い飛ばし、笑いながら、ネタにしてしまう性格と、温かみのある声に安心感を覚えるのは子ども達だけではないんだと思いました。
 休憩を取ることなく、話し続けて、飽きさせない内容の豊富さと間の取り方はじめ、問題意識の高さや考え方にとても感心し、勉強になりました。ありがとうございました。またお逢い出来る機会を楽しみにしています。

三木 京子さん(保護者)

渋川北小1年 おしえ のどか

自分を見つめること

斉藤 一朗

 

『よかった会』のあとすぐに、お話されたことを『パートナー通信』にも紹介してくださるようお願いしました。運動会の直前というたいへんお忙しい中にもかかわらずご執筆いただいた斉藤先生に心からお礼申し上げます。

 

 8月23日、高崎市引間町の国府公民館で『よかった会』という母親を中心とした会に招かれました。そこで2時間ほど話をさせてもらいました。その会に参加していた小林美代子さんから『パートナー通信』への原稿依頼を受けました。『よかった会』で話をしたことをまとめてほしいという依頼でしたが、とても2時間の内容を2ページにまとめることができません。そこで、一つのことを書かせてもらいます。

 学校で子どもの権利が侵害される場面はさまざまあります。そのひとつに学校の管理があります。子どもたちを一律に統制する中で権利が侵害されることがあります。権利が侵害されるおそれがある時、それを直接批判しても、なかなか意見を受け入れてもらえません。それは、その行為をしている人たちの根本に恐怖心があるからです。
 管理というのは、その心情を見つめてみますと恐怖心から出発しています。例えば、学校の授業で行われる、水泳指導を考えてみます。子ども達はプールに入るために、家庭でプールカードに体温などの健康状態を記入し、保護者の印をもらって来なければプールに入れません。

 今では当たり前になっているプールカードですが、私が、20数年前、教員になった頃には、勤務していた学校にはプールカードなどありませんでした。プールに入るたびに、なぜ保護者にプールカードに記入させるかと言えば、水泳指導中に事故など何かあった時に責任を追及されることをおそれているからです。プールに入れたのは保護者の意志だと、責任をのがれたいからです。逆に言えば、何かあれば保護者から追及されるからです。ですから、「プールカードはなくしましょう。」という意見を仮に出したとしても、決して意見は通りません。

 プールカードを記入させると、クラスの中にプールカードを忘れて来る子が出てきます。その子はプールに入れません。水泳指導を受ける権利を奪われます。そこで、保護者に電話をかけ、許可をもらったりします。そういうことをしていますと、職員会議で、
「プールカードを忘れた子の保護者に連絡をとらないでください。」
という提案がされたりします。これは、「あの先生はこうにしてくれたのに、あの先生はこうにしてくれない」と言われることを怖れているからです。もとは、恐怖心なのです。恐怖心から管理するのです。管理というのは一律に統制して、自分が批判されることから、逃れるという行為のあらわれです。しかし、当人は、恐怖心から管理しようとしていることをあまり意識していません。潜在意識の中に隠されているからです。ですから、恐怖心から行っている管理を、子どものためとすり替えてしまいます。

 相手の恐怖心がわかれば、変えるべきものは、相手の心情です。相手の心情は批判や正論で変わりません。相手の、内面を見つめてみればこわくて、こわくて仕方ないのです。こわくて、こわくて仕方ない相手に、できることは、安心させてあげることです。
 では、どうしたら安心させることができるでしょうか。
 それは、その問題を自分のこととして見つめることで答えが見えてきます。他人の問題として切り離している限りは相手の共感は得られないからです。自分の問題としてとらえた時、出来事は違っていても同じテーマや共通の恐怖心が潜在意識の中にあることが見えてくるからです。

 例えば、私の中に、子どもを自分の思い通りにしなければいけないという思い込みがあります。そして、子どもが自分の思い通りにならない時、子どもに怒りをぶつける時があります。
 今年の一学期、4時間目に、生活科で野原に散歩に行きました。教室に帰ってきて、給食の準備に取りかかるはずでしたが、用事があって職員室に行きました。
 教室に戻ってみますと、子ども達は、散歩に出た開放感のまま、給食の用意をせず遊んでいました。私は、自分の思う通りに給食の準備をしていなかった子ども達に怒りをぶつけました。
 その日、怒りをぶつけた自分に対して、なぜそんなに怒ってしまったのか見つめてみました。すると、自分の中に、『子ども達は、自分が見はってないと勝手なことをする。だから、思い通りになるように、自分が決めてやって、その通りするのを見はっていなければいけない。』という思い込みがありました。ここに、子どもたちを管理することに走らせる恐怖心があります。そこで、このような認識に対して、『いや、子ども達は、まかせれば大丈夫なんだ。』という修正を行いました。
 「子どもたちに任せれば大丈夫なんだ。」ということを深める機会が、『よかった会』で話をした「3年生とのケンカを子ども達にまかせてみること」でした。3年生が2年の教室に、一人の子が殴られたことを憤慨して押しかけてきました。それに対して、3年生の担任の先生と連絡を取り合いながら解決の仕方を子どもたちに任せてみました。すると、子どもたちは、お互い話し合って、解決の仕方をドッジボールで勝負することに自分たちで決めていきました。その結果として、お互いの、とても豊かな交流となりました。

 そして、このような出来事を職員室で話すことによって、『子どもを思い通りにしなければ、子どもはダメになる』ということから、『案外子どもにまかせればうまくいくものだ。』という共感を得られることに多少なったようです。
 本当は、子どもに任せれば大丈夫なのです。現場にいるわれわれは、そのことを実際の出来事を通して語っていくことが出来ます。そして、遠回りに見えるかもしれませんが、そのことが、相手の恐怖心から来る管理を、「管理しなくったって、子どもに任せれば大丈夫なんだ」という認識に変えていくことが出来るのかもしれません。そして、子どもたちの権利として様々な意志決定権を取り戻していくことが出来るかもしれません。
 また、もし「子どもたちに任せれば大丈夫なのだ」という安心感が教師に広がったとき、子どもは教師のパートナーに変わるはずです。管理し、自分の思い通りにする相手から、自分を助けてくれる協力者に変わります。本当はそのほうが、教師も楽しいんですがね。
 「子どもに任せれば大丈夫なんだ。」という認識が広がるといいですね。

参加されたお母さんがたの感想の中から
もう一つ(抜粋)

 ・・・とてもとても楽しかったです。今までに聴いた講義のなかで、一番よかったです。・・・感想を早く伝えたくて、24日に書き始めたんですが・・・色々書いてみたらまとまりなさすぎて、何を書いていいのやらわからなくなり&本当に伝えたいことをもう少し考えたいので、とにかく、みんなの【生の声】を伝えておきま~す。
 ―Sさんメール「いや~今日も楽しかった❤リラックマ先生の笑い声が耳に残ってる」。Hさんメール「ホントに楽しかったよ。よい夏休みの締めくくりになった☆」。Eさんメール「リラックマ先生最高(クマ&❤)♪。Tさんメール「今日はお世話様でした(ニッコリ・ニンマリ)色々ありがとうございました」。Mさんメール「リラックマ先生、とても良かったね❤」―
 会の後の…放課後!…みたいな(笑)時間がまた楽しい♪♪子どもたちも学年・性別を超えた大勢の子どもたちで遊べるし、親たちも飯塚先生やみんなと話せるの楽しいです。♪ 
 子どもたちにも親たちにも『放課後』大事ですね。・・・

田村 由美子さん


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