パートナー通信 No.51
自治体訪問懇談と意見交換 報告―③
第3回県内市町村アンケートの結果をふまえた行政当局との話し合いは続いています。県当局との話し合い及び前橋市および藤岡市との話し合いについては、 『パートナー通信』No.48と No.49で紹介しましたが、その後7月19日(木)に高崎市、8月30日(木)に安中市との話し合いが行われました。
いずれの話し合いも和気あふれる雰囲気の中で、世話人だけでなく地元の会員が何人も参加して積極的かつ率直に発言し、話し合いはいっそう身近で実り多いものとなりました。今後とも話し合いのときには、その自治体にお住まいの会員にご案内を差し上げますので、ぜひご出席ください。
【高崎市との話し合い】
市側からは福祉部子ども家庭課長、教育委員会学校教育課長、同青少年課長をはじめ計7人が出席。子どもの権利委員会からは世話人6人のほか、地元から保育関係者4人の参加があり、計10人の出席となりました。
自己紹介のあと、大浦代表が小冊子『市町村アンケート結果の要点と意見』に基づき、高崎市のアンケート回答も考慮しながら問題を提起し、市側がそれに答える形で話し合いが始まりました。特徴的なことをいくか報告します。
まず話題になったのは、2010年2月13日に制定された『たかさきこども憲章』でした。「わたしたちは、一人ひとりの気持ちを考え、笑顔いっぱいの平和なまちにしていきます」を第1項目とし、自然を大切にした緑あふれる街づくりや、地域の伝統を守る新しい文化の創造など、全部で5項目から成る簡潔な憲章です。テーマを決める段階から、各学校は子ども同士で討議しました。
その討議をふまえて、市内の全小中学校86校の代表が意見を発表し合い、最後はこども議会で議決しました。この憲章に応え、大人たちも2011年4月1日に『こども都市宣言』を市議会で制定、「安心して子どもを産み育てることができる」都市、「子どもの人権を尊重し子どもたちが様々な可能性に挑戦できる社会」をつくると宣言しています。こうした一連の動きは、他の自治体も大いに参考にすべきでしょう。
高崎市も藤岡市と同じように、人権標語や絵画などのコンクールを小中学生を対象に行い、入選作品は「人権啓発カレンダー」にして配布しています。2012年版の現物をいただきましたが、さまざまな人種の人びとが手をつないでいる見開きの絵のほか、「ありますよ小さな僕にも大きな人権」といった標語が毎月一つずつ掲げられています。
次の大きな話題は、各地で大問題になっている子どものいじめと自死で、子どもへのアンケート調査や少しでも不安があれば先生方が対応を心がけるなど、市側から未然防止策が話されました。世話人からは、「どちらが良い、悪いでは解決しない」「いじめる側の子がたいへんなものを抱えていて、いじめという形でしか自己表現できないという問題もある」「いじめをした子もされた子もともに被害者だ」「大人、教師が子どもたちの思いを丸ごと受け止めること、そして子ども同士の触れ合いがなければいじめはなくならない」などの視点が出されました。
虐待の問題については、年ごとに増加している中で、「要保護児童対策地域協議会」や児童相談所をはじめとする関連機関の連携と役割分担を明確にして、未然に防ぐ努力をしている、との答えでした。参加者から「まったく面倒を見てもらえず、アパートに置き去りにされていた子の事例」や、「相談に行った際に、担当者がもう一歩踏み込んだ対応ができる態勢がほしい」、あるいは子育て支援に関わって、発達障害や不登校など、大勢の中で普通の行動が取れない子どもたちへの課題も出されました。非行の問題では、市立青少年補導センターの所長も勤める青少年課長が「チーマー・暴走族の子だって根は悪い子じゃないんですよ」と実感をこめて話すなど、子どもに密着した発言もありました。
最後に、出席した保育園関係者から、現在政府が進めている保育制度改革では子どもたちの保育がバラバラにされ継続的な保育が出来なくなる、などの心配が語られました。特に2歳児までに小さな集団でゆったり満たされて育っていくことで得られる自己肯定感が大切で、これが小中学校での成長・発達に続いていくことが望まれる、また、保育園の取り組みも巡りめぐって親を支える支援センター的な取り組みが重要な仕事になっている、などが出されました。
【安中市との話し合い】
市側からは保健福祉部長、保健福祉部子ども課長、同課子ども育成係長、それに教育委員会教育部長の4人が出席。子どもの権利委員会からは世話人5人のほかに、地元から2人が参加して計7人の出席となりました。高崎市のときと比べて両者とも人数は減りましたが、話し合いの内容はそれに勝るとも劣らないものでした。
いつものように自己紹介のあと、大浦代表が小冊子『市町村アンケート結果の要点と意見』に沿いながらも、安中市のアンケート回答と出席者の関心も考慮して、問題を整理し提起しました。とくに重点を置いたのは、条約と勧告の広報、いじめと虐待の防止、放射能への対策、の3点でした。放射能の問題は地元の強い関心と要望に応じたものでした。
住民への広報については、光陽館(人権擁護のための隣保館施設)発行の『光陽館だより』77号(2010年3月26日)に、「子どもの権利条約」の概要と1条から6条までが紹介されていることが市側から話され、現物も配られて大きな関心を呼びました。条約の概要と条文は日本ユニセフ協会のホ-ムページからとったもので、条約をわかりやすく砕いてあります。しかも挿絵は、安中一中の子どもが描いたものなのです。全戸配布ですし、7条以下の条文も順次紹介してゆくといいますから、実にすばらしいことです。
「いじめ」については、アンケート調査、生活記録ノート、スクールカウンセラーなどの対応が説明されましたが、世話人からは一歩踏み込んで、子どもたちにアンケート調査をしても、率直に本音を言ってくれるかが問題で、子どもと教師との間に日頃から信頼関係ができていなければならない、との意見が出されました。参加した母親からは、「いじめられている子や親の不安感を、先生がもっと受け止めてほしい。学年・学校全体での取り組みが感じられない。いじめをしている子の育ちにもしっかり目を向けてほしい」との発言がありました。
家庭での子ども虐待防止と子育て支援のため市は家庭児童相談に力を入れており、たとえば2009年には160回の相談がありましたが、発達障害関係が多く、不登校の問題もあったといいます。子どもの育ちの様子を記録し、子育てのさまざまな事項をチェックできる『子育て支援ファイル』を2歳児以降の保護者に配布していて、「子育てハートフルライン」をはじめさまざまな相談窓口や子育て支援センターへの連絡方法なども丁寧に紹介されています。
放射能の不安については、保育園と学校の線量を測量して除染しているほか、給食の食材の検査を午前中に行って体内被曝の防止に努め、プールの水もしっかり検査しているとのことでした。しかし、松井田地区など山間部の近くではまだ線量値が高く、内部被曝の問題を意識したさらに細やかな測定と除染を進めてほしい、との要望がありました。校舎の耐震化については最優先の予算措置で取り組んでおり、2015年か16年までには完了できるといいます。
最後に、地元の参加者から身近な問題を自由に発言していただきました。まず、児童館設置の要望が強く出され、校舎の耐震化が終わったら検討するという回答でした。しかし、保護者の多くが孤独な子育てを強いられている現状で、安心して集える場がぜひともほしい、差し当たり隣接する富岡市・妙義児童館との共同利用を考えていただけないか、とこの地に住み子を持つ母親の真に迫る発言がありました。
また、図書館について、性描写の激しい携帯小説のような本を小学生でも手にとれる心配がある、蔵書などの内容は充実しているが、館内の標示などが少し厳しすぎて叱られている感じがするなど、職員の配慮をうながす要望も出ました。
(文責:大浦暁生・加藤彰男)