パートナー通信 No.52

自治体訪問懇談と意見交換報告―④

  

 第3回県内市町村アンケートの結果をふまえた行政当局との話し合いは一昨年11月に、県当局と行ったのを皮切りに、昨年は2月に前橋市、3月に藤岡市、7月に高崎市、8月に安中市、そして10月18日(木)には沼田市、11月22日(木)には太田市をそれぞれ訪れて、懇談と意見交換を行いました。どの話し合いも率直に発言しながらも互いに相手から学ぼうとする姿勢が感じられ、実り多いものでした。
 安中市訪問までの様子はすでに『パートナー通信』に掲載しましたが、沼田市太田市の訪問についてここにご報告いたします。

  

【沼田市との話し合い】

 市側は健康福祉部子ども課から課長と子育て支援係長ほか1名の3人、教育委員会から学校教育課長と社会教育課社会教育係長ほか2名の4人、計7人が出席。子どもの権利委員会からは世話人5人が参加しました。
 自己紹介のあと、大浦代表が小冊子『市町村アンケート結果の要点と意見』に基づき、沼田市のアンケート回答も考慮しながら、条約と勧告の広報、いじめと虐待への対応、放射能への対策、の3点に重点をしぼって問題を提起し、話し合いに入りました。
 広報については、全戸配布の『広報ぬまた』に年4回「人権ってなんだろう」というコーナーを設けて、さまざまな角度から人権問題を取り上げており、とくに12月の世界人権デーに重点を置いて広報活動をしているとのことでした。また、3ページの『人権教育推進方針』を全教職員に周知させ、校長会でも話し合っているといいます。
 どちらの資料もいただいて読んでみましたが、具体的な問題としては「差別」と「いじめ」に重点が置かれているように見受けられました。とくにいじめは沼田市が重視している問題で、教育委員会は18ページにわたる『沼田市いじめ問題対策マニュアル』を作成して全教職員に配布し、「基本認識」に始まって、「未然防止」「早期発見」「解決まで」「組織対応」など、あらゆる面から詳細に述べ、対応できるようにしています。
 さらに、月1回のアンケート調査も実施していますが、アンケートが成功するには子どもがホンネを言える信頼関係が教師と子どもの間に必要だ、という視点が作文教育なども例にして権利委員会の側から出されました。
 つづいて話は、家庭での子ども虐待とも関連して子育て支援の問題になり、まず、低所得者層に対する保育料を国の基準より低く設定しているなど、沼田市が経済的支援に力を入れていることが話されました。
 「要保護児童対策地域協議会」の設置のほか、家庭児童相談員による相談も行なわれ、昨年は22件(その2件は虐待問題)で、うち5件ほどは今年に継続して相談活動が行なわれているといいます。
 すばらしいと思ったのは、市が38ページにおよぶ『子育てガイドブック』を発行して妊娠した女性に手渡し、妊娠の段階から子育てと子育て支援のことが具体的によくわかるようにしていることでした。 また、市の子ども課はNPO法人の「ごったく広場」と協同して、「沼田市子育て支援ネットワーク推進協議会」を組織しています。 市の施設を使って各種のイベントや講座などを行なっていますが、とくに保健福祉センター3階に設置した「子ども広場」では、講演会のほかに、歌とリズム、簡単な工作などを毎週やっているようです。 (後日この「沼田市子育て支援ネットワーク推進協議会」の講演会を訪問取材した報告を、本号の4~5ページに掲載しています。)
 放射能の害から子どもたちを守る取り組みについては、運動会に間に合うように校舎と敷地内の除染を進めたといいます。国の援助は、旧利根村地域など国が指定した汚染地域にしか出ない、とのことでした。
 話し合い終了後、市役所から5分ほど歩いて「ごったく広場」へ行ってみました。利根沼田地域のボランティアセンターになっていて、「おしゃべり茶店」とも言い、100円のコーヒーや500円のカレーうどんなどがメニューに並んでいます。事務局の真下さんらスタッフの女性たちとおしゃべりし、『ごったく広場ニュース』や『沼田子育てネット』などの情報紙もいただきました。

【太田市との話し合い】

 市側は福祉こども部から部長とこども課長ほか1名の3人、教育委員会から教育部長と学校教育課長の2人、計5人が出席。子どのもの権利委員会からは世話人5人が参加しました。
 自己紹介のあと、大浦代表が小冊子『市町村アンケート結果の要点と意見』に沿いながらも太田市のアンケート回答や最近の状況にも配慮して、問題点を次の5点に整理し他の市町村の実例などもあげて提起しました。授業などで子どもの権利の啓発、児童館などの運営に子どもの意見の反映、いじめや虐待への対処、地域や民間団体とのかかわりかた、放射能から子どもを守る方法、の5点です。
 まず、条約の周知、あるいは子どもの権利意識の向上をめざす取り組みですが、12月の「人権の日」を中心に学校で集中学習をやるといいます。しかし人権一般として取り組んでおり、子どもの権利に特化してはいません。「子どもの権利条約」の学習をもっと進める必要があることが確認され、権利委員会がいま進めている子ども向けに条約をやさしく書きかえたものが出来上がったらほしい、という要望も市側から出されました。
 つづいて児童館のことですが、太田市では15の地区すべてに児童館が1つずつあり、それぞれが特色ある『児童館便り』を出しています。子どもの意見反映は、たとえば「子ども将棋大会」のような事業をすると、終わったあとで事業の検証をしますが、そのとき子どもたちからアンケートをとって事業の改善に役立てているといいます。
 いじめ問題は、ちょっかいを出す程度でも「いじめ」ととらえ、月1回のアンケート調査も実施して、早期発見に努めているとのことです。しかし基本的には子どもと教師が日常的ないい関係をどう作るかだ、という認識が市側にも権利委員会にもありました。
 家庭でのこども虐待への対応は子育て支援とも重なり、ひいては地域とも関わってきます。太田市では民間の保育園などの協力を得た「子育て支援センター」が17か所あるほか、行政が主導し民生委員が中心になって行なう「子育てサロン」が各地にあり、それには高齢者も参加するといいます。いじめや虐待の総合的な対応組織として「要保護児童対策地域協議会」もありますが、学校や地域でのこうした日常的な活動は重要です。
 最後に放射能対策では、2012年2月に食品検査機2台を購入して、4月から給食の検査をしていますが、基準値を超えたことはまだないといいます。除染にも取り組んで、グランドの表土をけずって、とりあえず深いところに埋めているそうです。
 なお、資料として『太田市次世代育成支援行動計画・後期計画』という2010年4月発行の143ページにおよぶ大冊をいただきましたが、時間がなくて説明をお聞きすることはできませんでした。帰宅してページをめくっていると、「個別事業」の34番目に、「子どもの権利条約の普及・啓発(生活そうだん課)」とありました。

(まとめ・文責:大浦暁生・加藤彰男)


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