パートナー通信 No.52
Kちゃんの意見表明 小林 美代子
子ども日本語教室「未来塾」でもボランティア活動を続けている世話人の小林美代子さんから、Kちゃんの素敵なお話と子どもたちの写真が寄せられましたので紹介します。
伊勢崎市の子ども日本語教室「未来塾」(高橋眞知子塾長)では、昨年夏休み明けから、新しい試みとして「Show & Tell」の授業を取り入れました。
今、自分が一番大切にしている品物や、かわいがっているペット、又は、興味や関心のある事柄などについて絵や写真、文章、実物などをみんなに見せて、さらに、それがなぜ大切なのか、どんな風にかわいいのか・・・を自分の言葉でみんなにわかるように話して伝えるという授業です。
日本語を十分に獲得していない子どもたちにとって、日常的に遊んだり、じゃれ合ったり、おしゃべりすることはできても、みんなの前できちんと話すとなると、なかなか大変です。
まず文章で筋立てを作り、さらに血肉をつけて膨らまし、読み返して、練習に1ヶ月程かかる子もいます。そしていよいよ本番です。でき上がったひとから順番に発表します。
2学期も終わりの12月初めの土曜日、1年生のKちゃんが、いつもとちがう様子で、落ち着きがありません。
普段は決して笑顔を見せず、言葉もなく、表情は硬く、子どもといえども、こちらが戸惑いを感じる程です。
ところがその朝、教室に来ると、上着も脱がないで、なんだかもじもじしています。何か言いたそうにこちらを見ながら、胸の辺りに手をやっています。
「あれっ?それは何のメダル?」と聞くと、ちょっと恥ずかしそうに、ちょっと誇らしげにメダルをピッ!!と持ち上げて見せてくれました。
何と首から銅メダルを下げています。
「あのね、3番だったの」
とぽつんと一言!!
「すごいねぇ。走るの速いんだね。運動会のかけっこ? 何メートル走ったの?」と聞くと、
「運動会のかけっこじゃないよ。もっと走ったの。」
どうもピンとこないまま、よくメダルを見せてもらうと、「○○小学校マラソン大会 第3位」と刻印されています。
これまで自分から話をする子ではなかったので、少しずつ問いかけていくと、小学校の周りの道路を走って最後に校庭のトラックを1周したこと、その時は4番だったけど、頑張って一人追い越して3番でゴールできたことなどを、うれしそうに話してくれました。
さらに、宿題のプリントを挟んだクリアファイルをおもむろにかばんから出して、これ見て!と言う感じで、1枚の用紙をぺらっと出しました。
それは賞状でした。
Kちゃんの大きな目が読んで!!と誘いかけています。
私は授賞式さながらに読み上げました。
「すごいねェ、がんばったねェー」「うれしかったねェー」と。
いつもは誰にもあいさつもしないKちゃんが、周りの人達にうれしそうに笑顔でマラソン大会の話をし続けていました。その日は学習以外のおしゃべりも増え、声も大きくよく出ていました。
学習の後のカリキュラムでは、「Show & Tell」をすることになっていて、数人の子どもたちが発表の準備をしていました。
すると突然Kちゃんが言いました。
「私、このメダルのこと発表したい。マラソンで3番になったこと発表したいの。」
すでに発表者は決まっていたので、来週にしようか?と促すと、
「今日発表したいの。今日やりたいの!!」
と積極的な意思表示です。びっくりするような意見表明の態度に、舞い上がる程うれしくなりました。
今まで只の一度もこんな姿を見たことはなかったので、「じゃあ、作文はいいから、言いたいことを考えて最初に発表させてもらおうか?」と言うと、
「いつ? 今? 今すぐ話したい!!」
ともうノリノリのピッカピッカです。
さらに、2学期最後のおたのしみ会でやった、子どもの権利カルタのゲームでは、5、6年生も抑えて第1位に!!
6枚の札を取り、大きなクッキーをゲットしました。大きな瞳がさらに大きく輝きました。