パートナー通信 No.54
自治体訪問 懇談と意見交換―⑥ 〔館林市&富岡市〕
今年度も、「子どもの権利条約に関する市町村アンケート(2010年)」にもとづく自治体訪問、子ども行政・教育行政担当者との「懇談・意見交換会」に引き続き取り組んでいます。懇談・意見交換の主なテ-マは、子どもの権利条約の広報と職員の研修、子どもの意見表明と社会参加、子どもの貧困と家庭での虐待、学校などでのいじめ・体罰など人権侵害の救済、子どもたちの放射線被曝防止策、の5点です。
〔館林市との話し合い〕(5月30日)
市側は保健福祉部こども福祉課長ほか1名、教育委員会から教育総務課長、学校教育課長ほか1名、生涯学習課長ほか1名の計7人が出席。子どもの権利委員会からは世話人6人が出席し、地元の会員・市民の皆さん7人が参加しました。
両者の自己紹介の後、大浦代表から小冊子『市町村アンケート結果の要点と意見』をふまえながら館林市のアンケート回答の内容も考慮して、課題や質問事項を提起しました。
広報や研修については、まず子育て支援係から昨年11月の「児童虐待防止強化月間」、広報紙による市民へのアピールや市のホームページの活用、市民ホールのバナー広告・チラシ配布などを行ったと説明がありました。教育委員会の話では、毎年8月に行われる「人権に関する研修会」に全教職員が参加するとのこと。学校内のことだけでなく社会人権という観点で市の人権推進委員や一般市民も一緒に参加するということでした。
いじめについては、アンケート調査や教職員の見守りなどにより、小・中あわせて毎月7~8件ほどが認知されています。県の「いじめ問題対策推進事業」を受けて、邑楽館林地区の小・中・高を含めた「いじめフォーラム」という形で、子ども自身が自分たちでできることを考え交流し、各校の子ども自身の活動に生かせるような取り組みを予定しているとのことです。
子育て支援では、今年度から「ファミリーサポートセンター」が開設されます。「家庭児童相談室」では2名の嘱託職員が虐待、要支援・要保護などに対応。最近は発達障がいのある子どもの相談も増えています。年間60件を受付、累計で360回を超える相談・対応になっています。虐待は7件あり、児童相談所と連携した一時保護が3件あったそうです。
「子ども議会」は昨年度で13回目の実施。市内11小学校区の子ども会代表22名が子ども議員です。環境問題、交通・通学路問題、いじめ問題、観光産業問題など自由な質問が出され、市長、教育長が答弁しています。3つの児童館では年間を通していろいろな教室を開いているが、反省会などで意見を集約し次年度の計画に生かしています。県内でも珍しい取り組みが「通学合宿」で、地域の公民館に泊まって、子どもたちが中心に食事や宿泊のすべてを企画・実行しながら学校に通うというもの。現在4つの地域で行われていて、地域の人びとが子どもたちの主体性を大事にしながらサポートしています。夜には先生がたも学習や天体観測などのサポートに入るそうです。
体罰問題では、今回特にすべての学校に「ガイドライン」に基づいた研修を具体的にどのように実施したかまで報告を求めています。これは人権に関わる問題で、体罰は教育的指導ではない。教育的効果はないという認識を先生がたに改めて持ってもらうよう言っている。しかし、時間が経って意識が薄れてはいけないので、教職員間での連携が大切になるといいます。
放射線被曝防止策については、平成23年11月に基準値を少し上回った3か所は直ちに除染処理を行いました。すべての小学校の通学路の合計1579地点で測定を行っているが、全部下回っています。給食についても昨年度は82回、132検体の測定を行ったが、いずれも不検出とのことでした。
地元の参加者から、「市内の総合病院から産科がなくなり、小児科は平日外来のみ。お産ができるクリニックが1つだけで、邑楽館林地域では産科・小児科の24時間体制の急患・入院受け入れができていない。子どもの命にかかわる深刻な状況にあり、病院、医師、看護師、行政、地域の人たちなど、さまざまな力を集める取り組みを始めている。」「先生がたの、お互いの感性や子どもを見る目や授業の力を磨き合う、開かれたフォーラムができないものか。」「子ども・子育て会議を生かして子どもたちにとって本当にいい制度になるよう願っている。」などの発言がありました。
〔富岡市との話し合い〕(7月18日)
市側は総務部総務課の主事が世話役をつとめ、健康福祉部こども課から課長ほか1名、教育委員会から学校教育課長ほか1名と生涯学習課長ほか1名の計7人が出席。子どもの権利委員会からは世話人5人が出席しました。地元会員の参加はありませんでした。
自己紹介の後、大浦代表が『市町村アンケート結果の要点と意見』に沿いながらも富岡市のアンケート回答や最近の状況にも配慮して、問題点を整理し他の市町村の実例などもあげて提起しました。
まず、人権や子どもの権利への意識を高める問題では、小学校5年生で人権ポスターコンクールを実施していることが関心を呼びました。優秀作品は上信電鉄の車体に描かれて走ったそうです。
ポスター制作は子どもの意見表明でもあるわけですが、ほかに意見表明の場として「少年の主張」発表会があり、つい先日も市内の6中学校から12名が700人近い聴衆の前で熱弁をふるったといいます。以前には「子ども議会」もありました。
しかし、さらに関心を集めたのは、市内に2つある児童館でした。子どもが運営に直接関わってはいませんが、工作、エアロビ、音楽鑑賞などの行事に子どもが自由に参加できるようにし、子どもの反応を見たり意見を聞いたりして、運営に生かしているそうです。児童館は開放的で、自由の場としていかに遊びを保障するかが児童館の役目なのです。児童館は公民館とも言えるし、子育て支援にも大きな役割を果たしているのです。
駅前の児童館の敷地には子育て支援センター「親と子のスマイルサロン」があって、非常勤の職員が常駐し、いつでも相談に応じています。児童虐待防止週間には講演会なども行っているのですが、それでも子どもへの虐待はふえる傾向にあり、一昨年は15件、昨年は21件の報告がありました。情報を関係者で共有して、対処しているといいます。
学校教育に話を移しますと、教育委員会は「富岡市の学校教育」と題するリーフを発行して広く配布し、教育の基本方針を明らかにして市民の理解を求めています。それによりますと、「変化の激しい社会を夢や希望を持ち主体的に生き抜く子どもを育てます」が基本で、「生きる力をはぐくむ指導の充実」と「地域に根ざした信頼される学校づくり」が2つの大きな視点となり、さらに今年度の重点として、自己への「プライド」と他者への「リスペクト」、それに「ふるさと学習」に力を入れるとしています。
学校教育課長の説明では、子どもたちが主体となって活動する授業づくりをとくに重視し、教材研究に基づく発問で子どもたちに考えさせたいと言います。学校行事でも子どもたちを主体としたいし、「プライド」は自尊感情の重視、「リスペクト」はよりよい人間関係の構築だということでした。いずれも子どもを主体とするみごとな姿勢だと思います。
とりわけ興味をひいたのは、「たてわり班活動」でした。同じ班の中に1年生から6年生がいるもので、上の子は下の子の面倒をみますし、6年生が中学に行けば小学校と中学校との連携も生まれます。ただ、こうした努力の中でも不登校の子どもはいるもので、現在全体で20人ほどだとのこと。その多くは学校には来るが教室には行けないそうです。「いじめ」ではないというが、はたしてそうか、という疑問も権利委員会の参加者から出ました。
最後に放射線被曝防止策について。国の測定基準より厳しく地上5cmで測定、事故直後には11校が基準を超え、直ちに除染作業をおこなった。給食は食材も含めて検査に配慮している、とのことでした。
(報告:大浦暁生)
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