パートナー通信 No.55

自治体訪問懇談と意見交換―⑦〔下仁田町&渋川市〕

 「子どもの権利条約に関する市町村アンケート(2010年)」にもとづく自治体訪問、子ども行政・教育行政担当者との「懇談・意見交換会」に引き続き取り組んでいます。下仁田町と渋川市への訪問を報告します。

下仁田町との話し合い〕(8月29日・木)

 下仁田町は東電福島第一原発の事故による放射線量が高い地域の一つでしたが、いち早く町をあげて町内全域の独自の測定も行い、国や県の補助金を受けてきめ細かな除染事業を進めていることから、「とりわけ子どもたちの健康を守る放射線被曝防止策」の積極的な例としてお話をうかがうことにしました。
 町側からは、町長、教育長、総務課長、健康課長と担当係2名、教育課長と担当係2名の計9人が出席。子どもの権利委員会からは世話人5人と地元のお母さん2人が参加しました。
 自己紹介のあと、まず保健環境係長から、19ページにわたる克明な資料と国に提出した除染計画を踏まえての説明がありました。
 2011年9月に文科省と群馬県による航空機モニタリングの測定結果の中で、町区域で0.20~0.50μSv/hの地域があると公表されたことを受け、10月には町独自で健康課保健環境係による道路・公共施設の測定を実施し、基準値を超える地域のあることを確認しています。同月中に国の「汚染状況重点調査地域の指定」を受ける方向を確認し、12月に指定が決定されています。2012年1月の臨時議会でサーベイメータの購入や除染業務委託などの補正予算を決めて、町内31行政区全ての詳細測定を実施、最高値では地上1mで0.48μSv/hという地点もありました。その結果、13行政区が平均空間線量で基準を上回り、直ちに「放射線量低減対策特別緊急事業費補助金」を国に申請し決定を受けています。残る18行政区は基準値を下回っていたが、子どもとお年寄りのためにも除染をして行こうということで、県の「震災等緊急雇用対応事業」を活用して町全域の除染を行っています。
 除染にあたっては、原発事故によるものは今までになかった追加被爆であり、環境回復をめざしてすべて取り除いていくという方針の下、まず保育園(3園)、小中学校(2校)、通学路を優先し、公園、児童遊び場、スポーツ広場、公共施設、民有地、住宅へとすすめています。住宅でも全世帯を調査しホットスポットの除染を行い、今年の8月末で除染を完了する予定になっています。

 内部被曝防止施策としては、食品に含まれるセシウムを測定する機器を町の保健センターに設置し、町内で生産された農畜林水山産物、市販品を除く食品、井戸水、農産物栽培土壌などを、また給食は週2回の測定を行って数値の公表も行っています。
 この取り組みをすすめるにあたって、当初から県立県民健康科学大学の倉石政彦准教授をアドバイザーとして委嘱していることも、他の自治体には見られないことです。
 町長や保健環境の担当者から、「目に見えない、直接触れてもわからない、そういうものが蓄積されて後々どのような害が出てくるかわからない。後手後手に回って後世に汚点を残してはならない。率先してやるべきで、お金には代えられない。下仁田町はネギとコンニャクが有名で風評被害も心配されたが、40年50年先を見通して対策をして行く決断をした」という話がありました。
 地元の参加者から、「学校給食安心対策事業」に群馬県も今年2学期から対象になったので、下仁田町もぜひ参加して欲しい。食品計測を基本20分で25ベクレルを基準にやっているが不安である。最低でも10ベクレル以下、計測は1時間に伸ばして欲しい。保育園の給食の測定と公表をして欲しい、などの要望が出されました。
 子どもの権利に関するテーマでは、教育委員会から、下仁田町人権教育推進協議会が主体となって取り組まれる人権標語・作文・ポスターの募集と優秀作品をまとめた冊子『ふれあい』が説明され、また、同協議会・PTA連合会・町教育研究所が中心となって行われる人権教育講演会は、夏休み期間に教職員・PTA対象に開かれ、今年度は「子どもの人権」をテーマに人権擁護委員の講演を聞き、いじめ問題の協議を行ったといいます。
 町をあげて下仁田ジオパーク登録推進や下仁田自然学校に取り組んでいますが、多くの町民が参加する活動発表会では中学生が活躍し、意見表明・社会参加の場になっています。中学生の提案で生まれたポロシャツを町職員が毎週木曜日に着用するそうです。
 子育て支援については健康課福祉係から、保育園の待機児童はなく、保護者の勤務実態に即して午前7時半から午後7時までの延長保育やお母さん方の緊急的な事情に応じた一時保育をしている。親子で自由に使える「かるがも広場」や「子育て街角会議」などを設け、母親同士の交流を図り、子育ての不安に対応する細やかな取り組みもしているという説明がありました。

(報告 加藤彰男)

渋川市との話し合い〕(10月10日・木)

 市側は保健福祉部子ども課から課長ほか1名、教育員会学校教育課から課長他1名と生涯学習課から課長の計5人が出席。子どもの権利委員会からは世話人6人が出席しました。地元会員の参加はありませんでした。各出席者の前の机には、人権教育資料の冊子や人権教育啓発カレンダーなど、7点もの資料が手回しよく置かれています。
 冒頭挨拶の中で、大浦代表が、「行政と民間という立場の違いはあるが、ともに学びあい力を合わせて子どもの幸せのために努力しましょう」とこの意見交換会の趣旨を説明し、自己紹介のあと、事前に合意されたテーマをめぐって懇談にはいりました。
 まず目をひいたのは、机の上に置かれたカラフルなカレンダーでした。B3判1枚の大きさで、下のほうに今年4月から来年3月までのカレンダーがあります。日曜と祝日は赤ですが、12月10日(火)の世界人権デーには特別に赤い星が付いていました。
 おもしろいのはその上のほうで、「渋川市人権尊重ポスター展入賞作品」として、小学生から高校生まで16点の作品が所狭しと並んでいます。このコンクールは今年度で21回目ですが、1431点もの応募があったそうです。それぞれのポスターには「育てよう笑顔があふれる世界」、「生きてるだけで100点満点」といった標語が書かれ、さまざまな角度の絵と標語を楽しめます。

 このポスター作りが子どもの意見表明の一つの場であり、それをカレンダーにして配布することが市民への広報活動であることは言うまでもありません。渋川市は一般市民を対象にした人権講演会も行っており、2011年度には子どもの人権にしぼって、「児童虐待から見える子どものこころ」の話を社会福祉施設の施設長から聞きました。
 子どもの意見表明に関しては、渋川市は以前から「子ども議会」を開催しており、10年前に訪問したときはこれが話し合いの中心になりました。今年も8月に開かれ、各小中学校から2名ずつの代表が、英語指導助手のことや通学路の問題、はては渋川市の知名度向上策まで、意見を出し合ったといいます。出されたさまざまな実情や意見を実際の行政にどう生かすか、これはむしろ大人たちの課題ではないでしょうか。
 子どもの貧困については、ひとり親家庭597人に児童扶養手当を支給するなど、きめ細かい経済的支援措置がなされています。おもしろいのは、ひとり親家庭を激励する東京ディズニーランド行きツアーが実施されたことで、52組122人が参加しました。
 家庭での子ども虐待に対しては、子ども課の中に「家庭児童相談室」を設けて、相談員4名が対応しています。月30件ほどの相談のうち約1割が虐待関連だそうです。また、「要保護児童対策地域協議会」のほか、中学校区ごとに学校・家庭・地域の「三者連携推進協議会」があり、絵本読み聞かせやあいさつ運動など独自の活動をしています。
 学校での人権教育は、教育委員会が6月に人権教育協議会を開いて方針を決定し、教職員に事前研修を行っています。講演会などのほか、『心にきれいな花を』と題する手引き書を配布して実践例も紹介し、12月の世界人権デーに合わせて授業を行うのです。「いじめ」についてはアンケート調査で早期発見と対応に努めていますが、子どもがアンケートに本当のことを書ける人間関係が教師との間に必要だ、と教育委員会は指摘します。
 「結局は教師の人権意識がポイントで、教師が子どもに対してどんな言葉を使うかも重要だ」と指導係主事は言いますが、「体罰を考えるシンポジウム」で山西哲郎さんが「部活動にしても、先生と言葉で対話できる間柄であれば体罰は出てこない」と発言されたことを考え合わせても、うなずける発言ではないでしょうか。

(報告 大浦暁生)


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