パートナー通信 No.56
地域の活動紹介―① おはなし配達人 花岡麻子さん
今日のお届け先は…
会員の花岡麻子さんは、ご自身を「おはなし配達人」と名づけて読み聞かせなどの活動をされています。いつも『パートナー通信』へお寄せいただくお便りに、活動の様子が記されていましたので、昨年12月2日、編集部・加藤がおはなしのお届け先へご一緒させていただきました。
元気にペダルを踏んで坂道を登っていく生徒たちに混じって、心地よい朝の冷気を楽しみながら前橋市立富士見中学校(富澤勝則校長)へ向かいました。今日のおはなしのお届け先は同校の特別支援学級です。
初冬の陽光がやわらかく差し込む教室には、絵や粘土・クラフト作品などが飾られていて、生徒たちの日々の生活の様子が思い浮かべられます。いまこの教室には情緒障がいや知的障がいのある生徒5人が通っています。
8時20分、始業の挨拶のあと、花岡さんのおはなしがスッと始まります。
すりはする なにをする
するりする うりをする
・・・
谷川俊太郎の詩が2つ、「すり」と「たそがれ」。軽やかなリズムに乗った音の繰り返しが生徒たちの耳へ心地よく入っていきます。
つぎはなぞなぞをします。いちばんうえの字を気をつけて聞いてね。
ひかるほしは
とおいそら
でも ぼくはうみにいる
・・・
書かれたものを見ればすぐに分かりますが、 耳で聞いて音の記憶をたどるので、その楽しさがどんどん膨らんでいきます。和田誠の『こと ばのこばこ』からのなぞなぞを3つ。
思わず笑い声がこぼれる楽しい音の空間の次は「音のない世界」へ。『ぞうのボタン』(上野紀子)と『りんごとちょう』(イエラ・マリ、エンゾ・マリ)という、2冊の言葉のない「絵だけの絵本」です。花岡さんは、5人の様子をみながらゆっくりとページをめくってゆきます。絵本の世界が静かな教室に広がりだしていく感覚です。
そして、最後は素話『歌うふくろ』(スペイの昔話)。母さんからもらった珊瑚の首飾りを泉に置き忘れた娘と大きな袋を持った老いぼれ乞食のハラハラ・ドキドキのお話でした。
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あっという間の20分間でした。そのあと、校長先生、読み聞かせに参加している星野紀子さんからお話をお聞きしました。
校長先生:朝読書もしていますが、一日を落ち着いて始めたいですね。大きな学校ですから、まず支援教室から始めてみました。みんなお話を聞くのを心待ちにしているんですよ。感受性の強い子どもたちですから、一人ひとり受け取り方は違っても、とてもいいみたいです。地域の方がたとの連携を強めるということも大切なことと思います。11月には「前橋学校フェスタ」でうちの生徒が小さな子どもたちへの読み聞かせもやりました。
星野さん:今度は中学校ということで構えてきたのですが、反応は小学校と同じで目がキラキラ輝いて、本当に元気をもらっています。知っているお話でも読み手が違うとまた面白いんですね。『わんぱくだんシリーズ』やいもとようこさん(絵作家)など自分の好きな本も読んでいます。
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中学校支援学級読み聞かせの会について
花岡麻子
この会のはじまりは、校医の歯科医の先生が新しく赴任された校長先生に、中学でも読み聞かせが出来ないだろうかと話してくださったことがきっかけでした。この歯科医の先生は小学校でずっと読み聞かせを続けてきた方で、ご自分のお子さんが卒業した後も読み聞かせの楽しさにひかれてずっと続けておられる方でした。それからもう一つ、この新任の校長先生が前任校でお母さんたちに呼びかけてそうした実践をはじめていらした方でした。
その上、私は前から中学生にこそ、実のある読書、自分の生き方を模索しているこの人達にこそ、読書からそのヒントを得て欲しいと願っている者でした。
この三つがピタッとあわさって、まず支援学級からとはじまったのでした。本当に幸運でした。
私はやみくもにつっ走るほうなのですが、事務局長役を引き受けてくださる仲間が「少しづつ」とうまくブレーキを掛けてくださるおかげで、ゆっくりではありますが、良い方向に向かいつつあると感じています。
来年度にはこれを少しづつ広げて、一年生だけにでも実現できるよう読み手をふやしていきたいと考えています。
人生の難問に初めてつきあたる思春期に、生きる力とヒントをきっと与えてくれる優れたヤングアダルトの本に切に出会って欲しいと願っている一人の大人として、そのキッカッケの一つになって欲しいと思っています。
生徒さんたちはどう感じているのでしょうか。
私は年齢が生徒さんたちと60年近く離れているせいか、また、ほとんど、詩を読み、素話(すばなし)を語るせいか、その反応が良くわかりません。この頃やっとその場の雰囲気が柔らかく感じられるかなという程度です。
他の読み手の記録をみると、集中して良く聞いてくれたとか、素直に絵に反応してくれた、また、絵本の世界を楽しんでくれた等と書かれています。生徒さんたちが楽しんでくださっているのは確かなようです。すぐれた絵本や語り継がれた物語は年齢を選ばないものです。朝のひとときが楽しい時間になることを願いつつ続けてゆきたいと思っています。
自己紹介
私は今は、保育園にでかけて、年長さんにおはなし(素話:主に昔話を覚えて語る)とわらべうたを届けたり、乳児とそのお母さんにわらべうたを伝えたり、遊んだりしています。
小学校では「詩は楽しい、おもしろい」と知って欲しくて、詩の朗読、暗誦と素話を持って、各々月に一度4校へでかけています。
詩をなぜ読むようになったかというと、文庫を開いていらした先輩(小林茂利さん)からすすめられたからでした。取りかかるまでには長い時間を要しましたが、実際に読んでみると、これがとても気持ち良いものなのです。小学校での読み手のお母さんの中にも、詩を読んでくださったり、絵本になっている詩の本を子どもたちに読んでくださる方も少数ではありますがいらっしゃるようです。
わらべうたは、私がもともと歌が好きということもありますが、わらべうたには先人の知恵が豊かに込められていて、外に出た脳といわれる指先を、遊んでいるうちに(訓練ではなく)よく動くようにしたり、知らず知らずのうちに物の名前や人間の体の部分を覚えたりすることができます。昔話と同様、子や孫世代に伝えてゆきたいと思っています。
富士見町内の中学生に読んでみたい、あるいは小学校にでかけて子どもたちと絵本を楽しみたいという方は、私が仲介役になりますので、私にご連絡ください。中学校の部は私に、小学校の部は私から各小学校の読み聞かせのグル-プへおつなぎすることはできます。
電話と住所を記しておきます。
ごまめ文庫 花岡麻子
電話 027-288-6141
住所 前橋市富士見町横室888-6