パートナー通信 No.60

目次

子どもの権利条約批准20周年と子どもの権利 代表 大浦暁生

あけましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 国連に対する次回の「市民・NGO報告書」をつくる仕事がいよいよ本年から始まります。まだ基礎的な作業ですが、それに先がけ昨年12月6日と7日、「DCI日本」と「子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会」(以下「つくる会」)が合同で、子どもの権利条約批准20周年を記念する集会を開きました。昨年は日本が条約を批准して20年にあたりますが、DCI日本が設立されて20年でもあったのです。

 集会では、子育てや教育の場で子どもたちが現在どのような状況にあるかが具体的事例で示されるとともに、この20年で子どもの権利に関する考え方がどう変わり、また現在の社会状況はどうかという基本的な問題が提起されました。子どもの現状の事例は次ページに譲るとして、まず基本的な問題を考えてみましょう。
 子どもの権利への考え方がどう変わったかは、DCI日本の福田代表が話しました。意見表明権の解釈に関わりますが、以前は「自己決定的子どもの権利論」が主流で、子どもは自分のことを自分で決定すべきだとされていました。しかし2005年ごろから、ある年齢以下の子どもに自己決定はむりだという考えが出て、「助けてくれ!」といういわば「欲求表明権」をどう保障するかが問題になってきた、というのです。
 そこで生まれたのが「関係的子どもの権利論」で、大人と子どもの人間関係を重視する考え方です。つまり、大人は子どもの欲求をありのままに受け止め、それに応えてその実現に努力しなければならない。「受容的・応答的対応」とも呼ばれる理由でしょう。この関係性は子どもの自己肯定を促し、大人をも成長させる。「好きな人といっしょに生きる」という生物としての愛情を育み、生命を豊かにするというのです。
 愛情と生命を高めるとは初めて聞きましたが、なるほどと思えます。しかし、「関係的子どもの権利論」が子どもの自己決定の権利を尊重することと矛盾するとは思えません。親や教師など身近な大人に安心してなんでも言える関係が構築され、大人も子どもと率直に話し合うことができれば、子どもの自己決定の能力はむしろ伸びるのではありませんか。
 意見表明権に関わって集会第1日には、東日本大震災の津波で多数の犠牲者を出した石巻市立大川小学校の生存者・卒業生たち子ども6人が登場し、「大川小を震災遺構として残してほしい」と訴えました。この訴えを大人たちは理解してその実現に向けた行動を支援し、子どもたちも自分自身で関係方面に働きかける力をさらに強めてゆくでしょう。
 子どもをめぐる現在の社会状況については、「つくる会」の世取山事務局長が報告しました。現代国家は企業国家になっている、新自由主義を基本に規制緩和と法人税減税を進め、多国籍企業の利益を最優先している、といいます。そのしわ寄せは子どもにも及んでいて、競争主義が強まり貧困が広がるとともに、いじめ、不登校、校内暴力、自殺などが多発し、子どもが「孤立」する状況になっている、というのです。
 現状の具体例は次ページに示されますが、こうした状況から子どもを守る上で日本政府に対する国連の「第3回勧告」は実に有意義です。しかし勧告は、企業に対する規制や過度に競争主義的な教育環境の見直しを説くものの、子どもと大人の関係性の貧困を生存と発達の問題として論じていないなど物足りなさもある、と世取山さんは指摘します。
 今年から始まる国連への「市民・NGO報告書」づくりが私たちの大きな課題であることは言うまでもありません。子どもたちの現状を具体的に見据えながら、子どもたちを守る道も明らかにしたいものです。


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