パートナー通信 No.60
- 1. 2015年1月/No.60(通算76号)
- 2. 子どもの権利条約批准20周年と子どもの権利 代表 大浦暁生
- 3. 「合同記念集会」2日目の報告から 加藤彰男
- 4. 『パートナー通信』60号 &
子どもの権利条約批准20周年記念特集 ①
私と「子どもの権利条約」 - 5. 「あなた方は、今、変革の実践の中にいる」 河嵜清松
- 6. 『パートナー通信』60号
おめでとうございます 淡路明子 - 7. 「ひだまりマルシェと世話人会」今村井子
- 8. 孫や娘の成長と共に 渡辺百合子
- 9. 『子どものけんりカルタ』 原画作者・次百(つぐも)さん
- 10. 会員を増やしてゆきましょう 藤井幸一
- 11. 6年生と「子どもの権利条約」を学び、
その精神を刻んだ卒業制作 関口信子 - 12. 子どもの権利条約が、
私たち群馬の日常になるまで 石橋峯生 - 13. 全国保育所給食セミナーin群馬が開催されました! はと保育園 園長 平石美奈
『パートナー通信』60号 &
子どもの権利条約批准20周年記念特集 ①
私と「子どもの権利条約」
子どもの権利条約批准20周年記念特集 ①
「60号&20周年」を記念して、寄稿をお願いしました。これまでの活動をふりかえり、また、今を考えながら、私たちの活動の未来を展望してゆきたいと思います。
「あなた方は、今、変革の実践の中にいる」 河嵜清松
記念特集ということで、文集『利根川』20号(1998年8月)に発表した「国連子どもの権利委員会(1998年5月)傍聴記」から、一部書き直し、書き加えをして紹介したいと思います。
国連子どもの権利委員会「本審査」とは
今回の国連審査は、条約44条(締約国の報告義務)に基づき、条約発効から2年以内に(その後は5年ごと)「この条約において認められる権利の実現のためにとった措置およびこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告」について行われた。
審査は、15名の権利委員のうちイスラエルのカープ議長(女性)ら7名出席により、日本政府代表団(赤尾信敏ジュネーブ駐在大使を代表とする貝谷俊男・外務省人権難民課長ら15名)に対する質問という形式ですすめられたもので、生まれて初めて海外に出た私はジュネーブの国連欧州本部第8委員会室の2階傍聴席に、日本から参加した高校生たちを交えて陣取った。
英語と同時通訳の日本語がイヤホーンを通してリアルタイムに聞き取れるので、日本政府代表の答弁がいかにもお役人的な文書の読み上げだけに終始していたかがはっきりとわかり、途中でカープ議長に「文書で出ている報告書はすでに読んでいます。ここでは、委員の質問に答えなさい」と注意される始末。
質問は、条約に対する日本政府の基本姿勢、日本社会における子どもの人権をめぐる実態と問題点、学校教育、いじめ、登校拒否、体罰問題、子どもをめぐる出版・映像などのメディアの問題、アイヌ・在日朝鮮人、少年司法、児童福祉、民法上の諸問題、日本におけるNGOの位置づけなど、100項目以上にわたるものでした。
このやりとりのなかで特徴的だったのは、きわめて消極的で貧困な日本政府の条約に対する基本姿勢が鋭く問われていたことです。日本政府報告は、条約が言う『子どもを保護の客体から権利行使の主体』に移行した点が明確でない・・・という指摘は、まさに図星。
日本政府に厳しい勧告
審査の後に出された勧告内容を要約してみると、
- *日本の子どもたちは、過度に競争を強いる教育制度の中でストレスにさらされ、発達障害におちいっている。
- *条約3条(子どもの最善の利益)、6条(生命への権利、生存・発達の権利)、12条(意見表明権)、29条(教育の目的)および31条(休息・余暇・遊び、文化的・芸術的生活への参加)に基づいて、過度なストレスや不登校を防止し、戦うための適切な措置をとれ。
- *条約2条(差別の禁止)、3条(子どもの最善の利益)、12条(意見表明権)を、子どもにかかわるすべての法的・行政的・司法的施策の策定実施において適切に反映させよ。
- *子どもの十全な権利主体としての地位を強化せよ。
- *政府は子どものための総合施策を講ぜよ。
- *NGOと緊密に交流・協力せよ。
最終所見では、日本政府報告の積極的側面を3点評価しているが、「主たる懸念事項を23項目」も指摘している。その中には、「本委員会は、既存の「子どもの人権専門委員」制度が政府からの独立性および子どもの権利の実効的な監視を十全に確保するための必要な権限を欠いていることに留意する。(第10項)」…のように、見せかけの制度に鋭い指摘を『~留意する~』という表現で出している。さらに、「本条約が権利の十全な主体としての子どもという観念を重要視しているということを、社会のすべてに、また、子どものみならず大人の間に広報し、かつ、それに対する広い認識を促進するために取られた措置が不十分であることを懸念する。(第11項)」…というように、私たちが「ぐんま子どもの人権委員会」としてパンフレットの配布(県内有志のカンパで印刷・発行した)をしたり、高校生を含めた集会を開いて、条約の精神を広げてゆく努力をしているにもかかわらず、日本政府の「学校にポスターを貼ったり子どもに関係する職員の研修をしているから十分に周知徹底している」という報告が、いかにも空々しく聞こえるのである。
高校生の発言はカープ議長の進行で
5月27日の昼休み時間から30分を、日本から参加した3人の女子高校生(東京の養護施設から。京都の桂高校生。私服登校ができる北海道の高校へ転校を余儀なくされた高校生)が、カープ議長から両隣の席に着くよう指示された。議長が、他の委員たちの了解のもとにプレゼンテーションとして設定したもので、各委員の着席を確認して開会している。
この時、日本政府代表は何故か3~4人しかおらず、団長や課長クラスの姿は見えなかった。傍聴席にいた高校生数人のなかからは、「なんで日本政府はいないのか?」と、憤懣の声も。
日本の高校生からの実態報告を聞いたロシアのコロソフ委員は、「あなた方の話はたいへん感動に満ちているものでした。でも、事態は考えているほど悪くないと思います。というのは、少なくとも、あなた方3人は、国際社会の面前で、自分の意見を表明する機会を持てたのだから、たいへん幸せなことですよ。人生にはいろいろなことがあるのだから、そんなに思い詰める必要はないですよ。ロシアには次のような冗談話があります。
権力を持った者との話し合いって何を意味するか分かるかい。それは、校長室に入るときは自分の意見を持っているが、出てくるときには校長先生の意見を持って出てくることだよ。みなさんの幸運を祈ります。」と発言した。
また、スウェーデンのパルメ委員からの最終コメントは、(実は、27日は日本語の通訳が遅れて時間切れとなり、3人の発言をもう一度、第二日目に設定してくれた)
「昨日に引き続いて、より詳しく2回目の話をしてくれてありがとう。これは私たちとの対話の始まりですが、この対話は同時に、あなた方が日本に帰ってからの法律改正の始まりでもあります。あなた方は変革のために一歩踏み出すことを願っていますが、あなた方は私たちとだけ対話しているわけではありません。あなた方は、ここにいる日本からの私たちの友人や、さらに締約国である日本政府とも現に対話をしているのです。その人たちは、いま、こうしてあなた方や私たちと会った後は、以前のままではなくてきっと変化しています。ちょうど、私たちがあなた方に会って変わったように。本当にありがとう。」
と、日本の高校生の意見を大事にして、しかも彼女たちの勇気ある行動が、日本を変えてゆく力になっていることを評価している。本当に心温まる励ましの言葉である。
3人の女子高校生を両脇において、その発言をやさしく見守っていたカープ議長が、最後に言った言葉は、
「私は、あなた方が将来変革の途に着くのではなくて、すでに現在変革の実践の中にいるものと確信しています。」
であった。
事実をねじ曲げた某週刊誌
子どもの権利条約に対する当時の日本社会の状況の一つとして1998年6月に発行された某週刊誌のことに触れておきたい。 「『制服廃止』を訴えて国連に叱られた日本の『甘ったれ』高校生」というタイトルの記事が書かれた。現場に居た私は、中身を読むうちに腹の底から怒りが湧いてきた。明らかに意図的な事実のねじ曲げと偏見、独善的な評価をもとに、真面目な高校生や国連子どもの権利委員会に対して、失礼極まる記事を仕立てていたのである。