パートナー通信 No.61

2024年3月9日

子どもの権利条約批准20周年記念特集 ②
私と「子どもの権利条約」

子どもの権利条約批准20周年記念特集 ②

私と「子どもの権利条約」

 No.60「60号&20周年」記念特集を掲載しました。寄稿いただいたものを、「批准20周年」記念特集として継続して掲載します。

『わかりやすくいいかえた子どものけんりじょうやく』と『子どものけんりカルタ』を広く子どもたちのもとへ 小林美代子

◈はじめに

 1993年の会設立以来20年余りになります。その間、私たちが活動の大きな柱に据えてきたことは、子どもの権利を日常的に守り、社会全体に隅々まで浸透させたいということでした。しかし、会の歩みは遅々として、時には危機的な状況に追い込まれた時期もありました。でもその都度、志を同じくする強力なメンバーを世話人会へお迎えすることができ、大勢の会員の皆さんの知恵と行動力とエネルギーに支えられて、今日まで継続することができました。

◈2014年という年

 昨年2014年は国連で「子どもの権利条約」が採択されて25年、日本政府が批准して20年の記念の年でした。
 国際的にはパキスタンのマララ・ユスフザイさん(17)とインドのカイラシュ・サトヤルティさん(60)のお二人が、ノーベル平和賞を受賞されました。
 マララさんは、「ペンと本こそ、世界を変える最強の武器です」「戦車は簡単に造るのに、学校の建設はなぜこんなにも難しいのか」と、大人社会に向けて子どもの教育を受ける権利を強く訴えています。
 サトヤルティさんは、「子どもの夢を否定をすることほど大きな暴力はない。子どもに対するあらゆる形の暴力を終わらせよう」と、児童労働から子どもたちを救う活動をされています。子どもの権利擁護は国際平和の要であるという認識を一層深めた年でもありました。
 そして私たちの会もまた、積年の夢に向かって一歩踏み出すことができました。

その1

 2014年1月、パンフレット『わかりやすくいいかえたこどものけんりじょうやく』とフルカラー50音『子どものけんりカルタ』が完成しました。
 権利条約の条文は難しい文言で書かれていますので、わかりやすいことばに置き換えて子どもたちのもとへ届けたいという思いから、試行錯誤を重ねてきました。1996年パンフレット初版「こどものけんりじょうやく」を皮切りに、パンフレット改訂版や「あそべあそべカルタ」「子どものけんりカルタ」などの制作を経て、完成となりました。

 完成までの数年間、毎月1回の世話人会では出席者全員ですべての条文を読み合わせ、意見交換を重ねました。可能な限り条文の精神に忠実に、しかも子どもたちにわかりやすく、大人側の押し付けや強制でなく…など検討を重ねました。
 特に12条「意見表明権」、3条「子どもの最善の利益」、23条「障がい児の権利」、28条「教育への権利」、29条「教育の目的」などは、話し合いが白熱することもしばしばでした。さらに会員の皆さんからのご意見をいただきながら、「パンフレット」も「カルタ」も仕上がりました。どちらもまだまだ不完全なものですがたくさんの方々にお使いいただく中で、より完成度の高いものにしたいと思っています。

その2

 できたばかりの「カルタ」と「パンフレット」を飛躍的な形で活用していただける機会を得ることができました。「玉村町協働によるまちづくり提案事業」への参加の運びとなったのです。それは会員の関口信子さん(教育カウンセラー)と新装成った「カルタ」と「パンフレット」のとてもラッキーなドッキングに支えられて活動が開始されました。
 まず7月13日(日)「国際こども遊びフェスティバルin玉村」の盛大な開催です。関口さんを実行委員長に進められたこのイベントは300人近い参加者を得て、大きな感動の輪が拡がり、多国籍、多文化・多言語共生社会を目ざして、1日大いに楽しみました。
 世界の子どもたちの幸せのために作られた『子どものけんりカルタ』も遊びのメインに据えられて大活躍しました。当日使用されたカルタは、有効に活用してもらおうと、さらにセット数を増加して、後日玉村町の全小・中学校と高等学校、児童館、子ども支援の公的機関、ファミリーサポートセンター、図書館などへ提供されました。
 子どもたちや先生方、保護者のみなさまが子どもの権利について語り合い、学び合って、お互いに認識を深めていただくための一助になればと願っております。

玉村小学校4年親子行事に参加して

 12月、学校に提供された「カルタ」が活用され、玉村小学校4年の親子行事で『子どものけんりカルタ』を使った親子対抗カルタ大会が行われました。
 広い体育館には、子どもたちと保護者の方々がグループ(8~10人)毎に並んでいました。学年役員さんから紹介を受け、関口さんと二人挨拶をして、いよいよカルタ大会の開始です。

フロアーいっぱいに18グループが陣取り、関口さんの説明に聞き入っています。今回は、「絵札・読み札両方取り」です。全部並べて遊ぶこの方式は関口さんの発想で、読み札も取ることによって「カルタ」の文言が目と耳から入り、より心に残るようにと工夫されたものです。
「遊び方に決まりはありません。並べ方やルールはそれぞれのグループで相談して決めてください。創意工夫の精神でどれだけ楽しむか!!みんなの知恵を出し合うことが大切ですね。」
など、いくつかのお話があって、いよいよゲーム開始です。

「では、始めます。いいかな?」
「いいとも!!」前方のグループから気合の入った声が聞こえます。

 [い]  言おう 話そう/自分の考え
「自分の考えていることを素直に話すことはとっても大事だね。」
関口さんの短いフォローが入って、ざわめきと歓声があがります。
 [さ]  差別はされない/差別もしない
「いい言葉だね 学校でも 地域でもみんながこんな風に考えたらいじめなんかなくなるね。」

[き]  きみもたいせつ/ぼくもたいせつ
「一人ひとりがみんな大切な人なんだよ。お互いに大事にしようね。」

 [そ]  それが第一/子どもにいいこと
「これは特に大人に分かって欲しいことばですね」

 子どもたちの心を知り尽くした手慣れたリードは見事です。子どもたちのテンションはぐんぐん高まり、歓声とざわめきも一段と大きくなります。
 一人のお母さんが赤ちゃんを抱っこして歩きながらグループを見守っていました。赤ちゃんはスヤスヤと心地良さそうにしています。ところが1回戦の終盤、あまりの大歓声に突然、パッ!!と目を開けてしばし観戦?…。そしてまた、スヤスヤスヤスヤ…。関口さんが新しいカードを読む直前だけ、一瞬、全体がシーン!!と無音状態になります。
 「次!いくよ!」と言えば「いいとも!!」を返しながら1回戦が終了しました。
 気が付けば最前列のグループのお父さんは敷いていた座布団を後へ押しやり、ひたすら前のめりになって子どもと頭突き状態でカードを取り合っていました。その結果、「子どもに負けて悔しい!」との感想でした。時間配分も見事に仕切った関口さんは2回戦に挑戦します。

 1回戦に比べ子どもたちと関口さんのやり取りはさらにテンポアップし、体育館の空気はヒートアップしていきます。最初お客様のようだったお母さんたちが子どもと真剣にカードの取り合いをしています。みんな、童心にかえって無我夢中という感じ。着ていた上衣を脱ぎ捨てる子や、紅潮したほっぺの笑顔が何とも愛しい子、ゲームが終わってもまだ決着のつかない親子など、会場はしばし興奮が冷めません。
 終始マイクを握り続けた関口さんの最後の迫力は、会場を走って感想を聞いて廻ります。ハイ!ハイ!大勢の子どもたちの手が挙がり、拾い切れない程です。
「絵札チャンピオンになってうれしかった。」「勝ってうれしかった」…など率直な声が多く出された中で、次のような感想も聞かれました。
「カルタにあったように、わかってほしい子どもの気持ちです。」…会場の拍手が一段と大きかったような気がしました。
「子どもの権利について勉強できて良かったです。」…拍手!!
「ぼくはあまり取れなかったけれど、他の人がたくさん取れてよかった。」…拍手!!
 大半の子どもたちにとって、初めて出会った『子どものけんりカルタ』なのに、カルタに込められた大切なおもいをしっかり受け止めてくれているんだなあと胸が熱くなりました。
 「ことば」のもつ力、そのことばを使って語りかける力、そして受け止める力が相互に作用し合い、こんなに素敵な時間と空間を創り出すことに感慨深い思いでいっぱいになりました。

 終了後、談話室で伺った学年の先生方からの感想はさらに私たちを元気付けてくださいました。
◎28年間教職に就いているが、今日のような親子集会は初めてです。子どもと保護者が一体となってカルタ遊びを楽しんでいました。本当の意味での親子行事をすることができました。単にカードゲームとしてのカルタ遊びに興じただけでなく、その上に何か全体を包み込む温かい空気が拡がっていくのを感じましたね。
◎普段は物事に集中できないで散漫なAちゃんが最後、びしっ!!と関口先生の方を向いて話を聞いていたのでびっくりしました。…などです。
 私たちにとってもこのような機会を設定していただいたことに心より感謝いたします。

 『子どものけんりカルタ』の実質的なデビュー戦となった親子集会でした。今回初めての「絵札・読み札両方取り」の親子対抗ゲーム、果たしてどんな風に展開するのか、不安でいっぱいでしたが、結果はそんなことを見事に吹き飛ばし、爽快な気分に満たされました。
 絵札チャンピオン、読み札チャンピオン、合計チャンピオン、子どもチームチャンピオン、保護者チームチャンピオン…と1回のゲームでたくさんのチャンピオンが誕生するのも子どもにとって楽しい遊び方だったと思います。
 子どもたちと保護者のみなさま、学年の先生方、貴重な体験をさせていただきまして、ありがとうございました。

先生や役員さんのアンケートより

〔先生方〕

 カルタに書かれていることばがとても心に響くものであり、ゲームを楽しむだけでなく、心の教育につながるものであると感じました。
 読み札を読んだ後の解説がとても分かり易く、心を温めてくれるものであり、会場の雰囲気がとても温かくなっていました。
 最後に子どもたちに感想を言わせたことも人権について親子で考えるよい機会になっていたと思います。

〔役員さん〕

 ノーベル平和賞を受賞したマララさんの演説にとても感動し、タイムリーに興味をもって参加させていただきました。
 大人にも通ずる文言ばかりで、子どもを育てるという事は、大人を育て、世の中を作っていく事だなと感じました。
 教えて下さる先生方も、たくさん子どもたちをほめて下さり、温かい気持ちで過ごせました。

◈おわりに

 2014年3月~12月までの10ヶ月間、さまざまな活動を目の当たりにして、たくさんのことを学ばせていただきました。新しい種播きの作業が始まったような気がしています。「子どもの権利を守り、子どもにやさしいまちづくりを!」という息吹と共に新しい年度への期待が大きく膨らんでいます。
 どうか、みなさん、「パンフレット」と「カルタ」をもっともっと拡げてください。教室で、ご家庭で、地域のさまざまなところで、子どもたちとご一緒にお楽しみいただければ幸いです。


inserted by FC2 system