パートナー通信 No.63
「子どもの権利条約カルタ」英語版
~小学校でのチャレンジ~綾部 文(東京都葛飾区立中青戸小学校)
事務局担当・加藤が、今年の春に開かれた英語教育のゼミで綾部 文さん(小学校テーマ別英語教育研究会会員)の「子どもの権利条約カルタ・英語版」の実践に出会いました。お忙しい教育活動の合い間を縫って子どもたちの学びの様子をまとめてくださいました。
1 「子どもの権利条約」を教材に
取り組みのきっかけは、小学校外国語活動を「皮相的な『コミュニケーション』英語に終わらせたくない」という思いからでした。行事や他教科での学習を通しての社会的事象(憲法)への関心の高まり、自分の意見をもち、表明する大切さに気づきはじめた子どもたちには、「子どもの権利条約」を学ぶ学習は知的関心に応えるものとなりました。
ただ、内容が多岐にわたり、理解が難しい事柄もあるうえに英語まで、という懸念はありました。しかし、そのハードルがかえってやる気に火をつけたようでした。何となく聞いていた「ABCの歌」よりも、この学習の先にはもっと面白い何かがある、と感じとってくれた様子です。では、実際の学習の流れや子どもたちの作品、感想を紹介します。
2 歌や名詩を声に出して
この年、音楽会があり、震災をテーマにした合唱や合奏に取り組む際に、被災地の様子やふるさとを思う気持ちへの理解を深める学習をしました。歌にこめられた思いを考える下地ができつつありました。
また4年生では10歳になることを記念して二分の一成人式を行い、『生命は』(吉野 弘作)という詩を音読して、自分の名前から一字を選んで掲示物を作り、名前の由来や将来の夢を発表するという活動に取り組みました。国語科でも、戦争を扱った教材の理解を深めるために、『私が一番きれいだったころ』『惑星』『六月』(茨木のり子作)をクラス全体で繰り返し音読しました。
「子どもの権利条約」を学ぶにあたり"Beautiful Name"(ゴダイゴ歌)の日本語・英語(歌えるところのみ)を歌い、ひとりひとりの名前の大切さに気が付いたところで、世界には名前をつけてもらえない子どもたちがいる、という絵本のページを紹介しました。「子どもの権利条約」という世界的な取り決めにきちんと明記されている権利なのに、それが守られていないことに、大変ショックを受けた様子でした。そこから、他にどんな権利があるのだろうか、という興味へとつながっていきました。学習の始めに毎回歌ったのですが、この歌のおかげで子どもたちの心が開き「子どもの権利」というテーマと子どもたちを結びつけてくれました。
3 学習の流れ
導入では、権利とは「だれもが持っている」「どんな人にも与えられている」ものと確認してから、どんな権利が保障されているのかを考えさせ、今日のアルファベットとして「子どもの権利条約」に出てくるキーワードを紹介していきました。ポスターを提示して、その権利が他の権利とどのように関連づけられるかも図の中で確かめました。このポスターは、この単元のはじめに「権利」という言葉から思い浮かぶことをクラス全体でイメージマッピングしたものです。自分たちの意見や疑問から始まった学習であるということが学習意欲を高めました。
キーワードや条約の内容をできるだけ簡単にワークシートに書き込ませて、どんな条約と関連しているのか確認しました。
そして、実物投影機で写真や挿絵などを提示しながら世界の子どもたちの様子がわかる話や「子どもの権利条約」の絵本のページを読み聞かせて、今日の言葉とリンクさせ、視覚的な情報を補いました。
A―Zまでひととおり学習したあとに、自分たちのオリジナル絵カルタを作りました。アルファベット順にキーワードを絵にすることで、キーワードとなった言葉の意味を確認して、条約の内容の理解を深めました。
4.中青戸小学校4年1組版カルタ
(どのようなカルタになったのかキーワードを紹介します。)
5.取り上げたトピックについて
「子どもの権利条約」が作られた背景を理解するため、学習するキーワード(アルファベット)に沿って、世界の子どもたちの状況を絵本や写真集を使って学びました。
以下はキーワードと資料とした文献です。
- 児童労働(A・R)「サッカーボールをつくる子どもたち」・スモーキーバレー
- わたしはだれ?(B・I・J・N)
- ストリートチルドレン(C・D・R)
- 考え、行動する子どもたち~国連子ども特別会議(E・G・O・V)
- マララさんのスピーチDVD
- 難民キャンプの学校(S・T・R)
- くらしに役立つ勉強をしょう(Q)
- 子ども兵士になって(P・W・R) 〈トピックのために使用した文献〉
『アフガニスタン1000の瞳』(高原イラスト館八ヶ岳)
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?ベトナム帰還兵が語る「ほんとうの戦争」』(講談社)
『いま、地球の子どもたちは-2015年への伝言:①売られていく子どもたち【貧困と飢餓】②学校へ行けない子どもたち【教育】』(新日本出版社)
6.学習のまとめに
前述の二分の一成人式のクラス発表で、自分の名前の由来と将来の夢を発表しました。この時には、ひとりひとりの名前の意味を英訳して、それがだれなのか考えるというクイズ"Who’s who"をしました。名前に込められた願いやその大切がわかり、その大切な名前や国籍が与えられていない状況へ思いをはせてほしいと伝えました。
またオリジナルの絵カルタを作ったので、大カルタ大会を行いました。
これまでも、カルタの絵カードがたまると、グループごとにお互いの絵を見合ってタッチするというゲーム"One Each"をして、それぞれの子がその言葉から連想する絵柄を見合って楽しんでいました。それまでは、扱っている単語を発音するのはまだ難しかったので教師が読み上げ、タッチする形式でした。A-Zまでの学習がすべて終わったところで、いよいよ、ひとり何枚か作る形でグループごとに1セットのカードを作り、カルタ大会をしました。
この時、読み札用にと、それまでと同様に教師が読み上げることを想定して前述の一覧表を渡したのですが、そこで驚く申し出がなされました。
「先生、自分たちで(英語のカードを)読みたい!」
読み手も子どもたちとなり、カードに書かれた言葉を、時に教え合って、発音していました。カード取る枚数を競うのではなく、大切な言葉を言える喜びがありました。
グループ内だけではなく、他のグループも混ぜての大カルタ大会も行いました。
7.What is important to grow and change?
今回の学習で学んだA-Zの言葉の内容をふまえて、Yes とZeroのカードとする言葉を考えて、表題のテーマをまとめとしました。Noで多かったのが、Drugs, Warでした。恐怖、犠牲になる命、いじめ、差別もありました。
YesではFiends, Health, Medical Care, Love、 圧倒的に多かったのはFamily そしてEqual です。この言葉を子どもたちは、とても好みました。差別の問題にもつながりますが、公平であることは子どもの世界ではどれほど重要なのか、感じました。
8.子どもたちの感想
子どもの権利条約が世界で共通しているなんてびっくりした。/
英語のことを知ってもっと歌を歌いたい。/
世界にはこんなに働かされ ている子どもがいると知ってびっくりした。もっと親の手伝いをしようと思う。/
差別はいけない。皆、平等がいいと思う。差別せずに遊んだりしたい。/
子どもだけでなく大人も子どもも平等だといい。/
名前と国せきは大事だと思った。/
とくに大切なのが名前と医りょう。だれもがもっているものをもってないのは悲しいと思った。/
意見を言えなければ食料や大事なものをもらえなくなってしまう。/
わたしもわたしより小さい友達を大切にしたい。/
大人になっても子どもを大切にしたい。/
うまれてからすぐ死んでしまう子たちがかわいそうだと感じた。医りょうは必要だと思った。/
世界の人が健康に生きてほしい。/
意見、権利、勇気がないと生きていけない。/
意見があると生きていける。/
ぼくたちぐらいの子が戦争に行っているなんてひどいと思った。/
子どもの権利を守っていない国があってびっくり。/
子どもの権利が守られていない子どもがいるのを知っ たので、それはちゃんと守ってほしい。/
しっかり意見を言って、まちがったことを伝えていきたいです。/
はやく英語をしゃべれるようになってこまっている人としゃべりたい。そしてたすけたい。/
もっとたくさんいい言葉を教えてください。
9.全体のまとめとして
「もっとたくさんいい言葉を教えてください」と書いてくれた子にどうしてそう書いてくれたのかを尋ねると、「私は(塾などで)英語を習っていないから。せっかく覚えるならばいい言葉を覚えたいと思った。」と話してくれました。すべての子どもたちにEqualだといえる教育を目指し、学習を通じて子どもたちが教えてくれたことをヒントに教育活動を続けたいと思っています。
(その他の参考文献)
『THE RIGHTS OF THE CHILD』(GITCユニット)
『小学校テーマで学ぶ英語活動BOOK2』(町田淳子・瀧口 優:三友社出版)
『こどものけんり「子どもの権利条約」こども語訳』(名取弘文:祐学社)
『すべて子どもたちのために』(キャロライン・キャッスル:ほるぷ出版)