パートナー通信 No.63

2024年5月25日

地域の活動紹介―①ひだまりサロン~社会の底辺で生きる若者たちをあたたかく包みたい~

今年度の「総会」第二部企画・交流討論会『子どもの貧困の実態と支援を考える』に参加した一般社団法人ヤング・アシスト『ひだまりサロン』の取り組みを紹介します

 ボランティアで若者たちの相談にのっていた平成26年の夏、福祉医療機構に活動が認められ、助成していただきながら、同年10月に若者が集うサロンをオープンすることができました。対象となるのは児童養護施設や自立援助ホームを退所した15歳~20歳代の若者たちです。
 彼らは社会経験が乏しいにも関わらず、頼れる大人が身近になく、孤独を抱えながら日々を過ごしています。また、そのほとんどが、近親者から受けた虐待によるトラウマを抱え、心に大きなハンデを負っています。家族がない・学歴がない・お金がない・経験がない・当然保証人もいない、無いないづくしの彼らが自らの力だけでこの社会を生きていく困難は想像を絶するものです。
 児童養護施設等は在籍中の子どもを養育するだけでなく、施設退所後も見守り続け支援するという大切な役割があります。しかし、日々の業務に追われる中、人員不足等様々な要因によって、膨大で長期的なアフターケア事業は、したくても十分にできないというのが現状です。
 そんな中、前橋市住吉町にオープンした『ひだまりサロン』は児童養護施設等を退所した子どもたちが気軽に立ち寄り、リラックスして様々な話をする居場所を提供しています。また、電話による相談を受け、生活・就学・就労を円滑にするために有効な社会資源を紹介し、病気や金銭面等で困った時には適切な支援機関に繋げます。施設を退所した子どもたちが生きる希望を持ち続けながら、健全な社会人になるための窓口として活動してきました。スタッフはほんの数名の小さな団体ながらも、今年の2月には、運営母体を一般社団法人ヤング・アシストとして登録を済ませ、責任ある団体としてこれまで運営を続けてこられましたのも、ひとえにご理解ご支援くださった方々のおかげです。

 この一年間、毎日、子どもたちの誰かがこの『ひだまりサロン』を必要としていました。その内容は、ただ顔を見せに来てくれた子から命に関わることまで幅広く、多種多様ですが、サロンに通い、サロンを拠点に、サロンスタッフに頼って、社会的自立への道を歩もうとする姿がそこにはあると確信しています。
 応談した事項は、「孤立感の解消」「人間関係トラブル解決の助言」「就活アドバイスやハローワーク等へ同行」「生活費管理のお手伝い」「申請・支払い等諸手続き同行」「体調が悪い時の受診先探し」「受診同行」「望まない妊娠」「未婚での妊娠」「出産の不安」「育児不安への助言」「ゴミ屋敷の清掃」「引きこもりの安否確認」等多岐に渡り、一人の利用者が抱える生活困難の要因が複合的だとわかりました。
 それらを並行処理したくても、本人の知的・社会的能力が不十分なために処理が追いつかず、一つひとつ一緒に優先順序を考え、対策を立てていかざるを得ませんでした。短期間では問題解決に至らず、生活と体調を安定させるのが困難な場合が多く、ほとんどのケースを現在も継続して支援しています。そのため、この年齢期の発達課題として当然求められる就職や進学に関して具体的解決に導くことはさらに困難を極めました。
 時には利用者が当法人を頼って、自傷行為や自殺未遂の連絡をしてくることや、帰る所が無いといった連絡を受けることもあり、当事者のもとを訪ねて緊急支援を行いました。
 対人恐怖等の理由で、安否確認や居所での面談が必要な子どものために、家庭訪問を行いました。その子どもの体調と生活安定のために必要な福祉や医療等諸機関へ同行し、諸機関から専門的援助が受けられるように、諸機関の担当者や主治医とのつながりをつくり出す仲介役・通訳も努めました。
 ごく一部ではありますが、個別の事例をご紹介します。

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Aさん:複数ある持病の治療のため、サロンスタッフに付き添われ通院を続ける中、福祉作業所での仕事も始まり、時に悩みながらも積極的に取り組んでいます。
Bさん:内面にいくつものハンデを抱え、周囲とのコミュニケーションが安定せず、今はアパートで充電の日々。サロンスタッフと一緒の時だけは外出することができます。
Cさん:結婚を機に県外へ。新しい命を授かった喜びをまずスタッフに知らせてくれました。
Dさん:良きパートナーに生活を支えられ、高卒認定試験へ向け意欲が生まれています。
Eさん:恋人との関係もアルバイトも好調ですが、金銭面に未解決の問題があり、スタッフと共に解決の道を探っています。
Fさん:育児に奮闘するも、自分自身の過去にとらわれ、生活全般に不安がつきまとっています。来春には子どもを保育園に預け、少しずつ働きたいので調べ始めています。
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 また、周知啓蒙活動として、「虐待の後遺症」「社会的養護」「発達障害」「アフターケア」に関わる情報の共有を図るため研修会を計4回開催し、講師に、当法人の子どもたちが大勢お世話になっている病院の副院長先生、発達障害の子どもたちの療育と就労支援を本県で先駆的に実現している臨床心理士さん、東京都で中核的なアフターケア事業を展開している施設の所長、各三氏を招き、それぞれの講演を聞きながら、具体的な助言をいただきました。なお、年明けには「児童虐待における社会の役割と課題」をテーマにシンポジウム開催を予定しています。社会的養護の対象となる子どもたちの多くは、過去に近親者等からの虐待の被害に遭っているという恐るべき現状を踏まえ、その予防と心の傷からの回復のために、社会ができることの可能性と課題を、医療・福祉等の諸機関に関わる方々や、さらには虐待被害の当事者の視点も交えて探っていきます。
 時に自暴自棄になりがちな子どもたちですが、たとえ状況は厳しくとも、一人ひとりの人生は誠実に生きるに値するということを伝え続け、彼らの人生の良き伴走者でありたいと常に願っています。人は愛された分だけ豊かになり、誰かを愛することのできる人へと成長を遂げていくように思います。貧困の責任を個人に押し付けることなく、社会の資源全体で彼らに愛を届けることにより、彼らが社会を愛し、支える一人ひとりになっていけると信じ、今後も活動を続けていきますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願い申し上げます。

    一般社団法人ヤング・アシスト
          理事長 佐藤昌明
   ひだまりサロン スタッフ一同
          ☎ 027-289-3771


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