パートナー通信 No.65

学習の中で心つないで
-4年1組の子どもたちと 玉村町立玉村小学校 牛島 寛子

 関口・小林両世話人が「子どものけんりカルタ」の出前授業に出かけた玉村小学校4年1組の担任・牛島寛子先生から、「4年1組人権カルタ」づくりや音楽物語「ごんぎつね」などに取り組んだ、3学期の子どもたちの様子をお寄せいただきました。

 12月末に関口先生と小林先生に来ていただいて、子どものけんりカルタを親子行事で行いました。子どもはもちろん、親の方も子どもそっちのけで、カルタに夢中になりました。
 グループでのカルタ取りの次に、体育館全体を使っての4チーム対抗ジャンボカルタ!! カルタとりそのものも楽しかったのでしょうが、親も子も笑顔、笑顔のわけは、やはり、子どものけんりカルタの言葉にあったと思います。
 一人ひとりが本当に大切。そんな意識を高めていけたらな…と思いながら冬休みに入りました。

4年1組 人権カルタを作る

 1月7日、新年の始まりは、すてきな朝になりました。それは…。
 体育館には、音楽の先生の弾くピアノの曲が静かに美しく流れていました。次々と入ってくる各学年の子どもたちは、始めは楽しそうにおしゃべりをしていましたが、やがて静かに背中を伸ばしてピアノの曲に聞き入り、全校の子どもたちが全く静かになりました。そしてピアノの曲がやみ、集会が始まりました。
 なんて気持ちのいいスタートでしょう。いいものを感じ取り、自分で行動できる玉小の子どもの豊かさを感じました。
 集会後に教員同士で感想を伝え合った時、音楽の先生は、笑って、
「私は、ただ練習してただけなんだけど…。あまり大きい音出しちゃ悪いと思ったし、あの曲は、ああゆう曲だから静かに弾いてたんだよね。でも、いいスタートだったから、今度からもそうしよう。」
と言うので、みんなで笑い合いました。
 さて、4年1組では、子どものけんりカルタの中のいくつかをその後も口ずさんでいる子もいて、子どもの心に残ったかな~と思ったので、
「4年1組の人権カルタ作ってみる?」
と話すと、
「わーい!! 作る!作る!」
と、その日のうちに一人、1つ2つ作り、その他、思い浮かんだものも加えてほとんどできてしまいました。
 その後、2週間ほどかけて、少しずつ時間をとっては、B5版の大きな紙に清書し、絵札も作ってついに完成!あとは、私がパウチをして仕上げればよかったのですが、これが、なかなか時間がとれないまま、2月が過ぎて行きました。

 この間、6年生を送る会に向けて4年生たちは、音楽物語「ごんぎつね」に夢中で取り組んでいたのです。

音楽物語「ごんぎつね」に取り組む

 音楽のI先生は、
「…音楽や絵画は、芸術って言うのだけれど、芸術には百点がないんだよ。上手になったと思っても、もっとできる、もっとできるって上をめざしていくんだよ。」
と言って、みんなの合唱を引っ張ってくれました。4年生82名と音楽の先生と合唱を創る日々は、本当に真剣勝負でした。兵十やごんの気持ちを二部合唱で表現していくのです。パート別に歌う時はできても、合わせた時に本当に美しい二部合唱にするには、耳をすまし、自分の音を正確にさがし、口の中をしっかりあけていい歌い方をしなければなりません。I先生の伴奏で担任3人が合唱指導や演技指導をし、大人も子どもも汗をかいて歌いました。
<子どもの感想から>
○「私は、ごんぎつねの歌がすごいと思いました。兵十になったり、ごんになったり、色んな役になって歌っているからです。歌ってすごいと思いました。」(R子)
○「…歌う時にふりつけを入れながら歌ったりしてすごく大変でした。二部合唱の時、つられちゃったりして大変だったけど、段々できるようになって…略…またいたずらをしに来たなというところは、兵十がすごくおこっているのが感じられました。先生にもっと口をあけてと言われたから家に帰って鏡で自分の口の大きさを見てみたら、小さかったので、次は、もっと口をあけようと思いました。」(H男)
○「…一番心を込めて上手に歌える場所は、最後のごん おまえだったのかの辺りです。先生が"語って"と言うと、前の練習の時、ものすごくよく歌えて、その時にごんの気持ちを考えると感動しました。」(Y子)
 2月半ばのある日、一曲目の二部合唱が初めて最高に美しく響きました。 (これが、二部合唱だ!)みんな、そう思ったと思います。兵十の合唱も、怒りを込めて歌えたので、低い姿勢の演技も入れて歌ってみました。
♪兵十はふと顔を上げ…でパッと顔をあげ、♪こないだうなぎをぬすみやがった…と怒りの歌をしゃがんだまま歌い、「よおし!」の声の後、♪兵十は立ち上がり、火縄銃をとると…を立ち上がりながら歌っていくのです。(要求しすぎか…)とも思いました。(無理だったらやめればいいや)と思っていました。立って歌う合唱ですが、すごく迫力があったのでチャレンジさせたくなったのです。やってみました。すると…さらにすごいではないか!パッと顔をあげるところ、思い思いの姿勢で前にせまって歌ってきます。目は、前にいる私を通りこして…「ごん」を見ている目でした。
 歌い終わったとき、I先生が、
「みんな、すごい!すわって歌ったら声が小さくなっちゃうかと思ったら、さっきの立った時の迫力と全く同じだよ。すごい!」 そう言ってほめてくれました。(やれる…!)と思いました。
 送る会当日は、緊張で少しかたくなってしまい、くやしい思いをしたみんなは、それぞれの気持ちを書いてきた日記を読み合い、心を一つに、あの時の二部合唱の迫力を出すんだ!と翌日の学習参観での発表に臨みました。私は、今でも、この発表の時の子どもたちのいろんな表情や兵十の合唱の目つきや姿を思い出します。美しく迫力のある合唱劇でした。

長縄にチャレンジ

 「ごんぎつね」に取り組んだ2月。体育集会では「長縄」をやっていました。その初めての日、全校のリードをする立場にあった私は、みんなに声をかけて、さっさと外に出てしまいました。(長縄も持たずに…!)みんなもいつも通り、すぐに校庭に出て準備体操。(よしよし…)とながめていて、私は気がつきました。(長縄がない!)あわてて近くにいたA子ちゃんに頼むと、
「先生、平気だよ。W君が持ってきたよ。」
なるほど、W君がちゃんと縄を持ってみんなの所へ来ると、どんどんリードしています。なんと立派…。W君、3年生の時は、ちょっといばってズルなどしてわんぱくだったのですが、本当に友達思いです。
 ある日、机の中があまりにちらかっている子を私がしかって片付けさせていたら、しぶしぶ片付けをするその子をW君が近くに立ってじっと見ていました。そして、ちらかっている線引きなどを1つ、また1つひろって、黙ってそっと、その子の机の中に収めてあげていました。その静かな行動。何という優しさ。
 ところで長縄は、今までやっていなかったせいか、思うように回数はとべず、みんなしょんぼりして帰りました。みんな黙っていましたが、心の中で(もっととびたい!)と思っていたのでしょう。すぐに休み時間の練習が始まりました。
 そして…、
「先生! 今日401回とべたんだよ! 休み時間中やってたん!」
「ええっ! だれがとんだん?」
「みんな! ほとんど全員!」
「それに、S君が続けて入れるようになったん!」
「そうなんだよ! すごいんだよ!」
「ほとんどみんな、続けて入れるようになったんだよ!!」
「へええ~、どうやったん?」
「みんなで教えっこしたんだよ。」
聞いているうちに、本当にうれしくなりました。なんと仲良くなったのでしょう。続けて入れるようになったS君のことをみんなが喜んで、みんなが笑顔です。そして、20分休みの間じゅう、長縄を回し続けたのはH子ちゃん、M子ちゃんと聞いて驚きました。ぐんぐんとべる二人。体育集会の時の回し手を決める時、希望者がなかなか出なくて、
「私は、とぶ人の方がいいんだけどな…」
とふくれて、しぶしぶ引き受けたH子ちゃんだったのです。そのH子ちゃんが回し手に徹してS君のことを興奮して大喜びしています。ふーむとうなってしまいました。子どもって、どうしてこうも優しいのでしょう。
 体育集会最終日、回し手は、私とH子ちゃんでした。集会では、5分間のチャレンジ。クラス目標は、300回。みんな夢中で数えました。
「…98.99.100!」「1.2.…200!」「残り1分!」と係の先生の声がとびます。200回突破!「78.79.80!…90!91!92!…」みんなの声が高くなります。H子ちゃんの手が速くなり、私は、「落ちつけ! 落ちつけ!」と叫んでいました。
「95! 96! 97!!」297回!目標にあと3回届きませんでしたが、みんなで達成した新記録です!
「ヤッター!!」とみんなでとび上がりました。引っかかった子にドンマイ。大丈夫、大丈夫!と声をかけ、どの子も大事にし合って、チャレンジできたこと、力を合わせたことがうれしくてヤッターでした。
 長縄と言えば、もう1つエピソードがあります。1回目の体育集会の時、終ったその場でみんなで集まって相談。私が話をしていた時、S君がちがう方を見ていたので、友達が、 「S! ちゃんと聞きな。」
と注意しました。その後、あまりとべなかったなア…とみんなで教室に戻ったのですが、S君がトイレに入って出てこないのです。
 彼は、3年生の時は、うまくいかないことがあるとすぐにトイレに立てこもってしまっていました。4年生になって、ほとんどなくなっていたのですが。(あ、みんなに注意されて、へそを曲げたのかな。S!と強く言われたことが原因かな)と思いましたが、何事も話をしなければ解決はしないので、みんなでS君をぐいぐいと連れ出してきました。そして、泣いているS君をなだめて、わけを聞いてみると、
「…ぼくのせいで、みんなの目標が達成できなかったから…」と言うのです。なんと注意されてくやしい思いをしているのかと思ったら、全くそうではなく、自分が引っかかってしまったことの責任を感じていたのです。
 オレも、私も引っかかったよ。S君のせいじゃないよとみんなで話して笑顔に戻ってもらいました。あげパンとスヌーピーが大好きで、厚紙を集めては、みんなにスヌーピーの絵のしおりを作ってプレゼントをしてくれるS君です。

二分の一成人式で自分を語る

 学習参観で「ごんぎつね」を発表した後、体育館でクラスごとに集まって「二分の一成人式」の一人ひとりのスピーチを聞き合いました。
 小さい頃から、そして4年生なった自分を見つめ、変わってきたこと、良くなってきたこと、自信をつけたことなどを話し、さらに将来のなりたい自分の姿を語るというものです。一人の友達がスピーチに出るたびにみんなの中には、ウフフ…という温かな笑みが広がりましたが、話の内容は、とても真剣でした。4-1は全員、原稿は持たずに語りました。中でもT君の話を聞いてびっくりしてしまいました。
「…今の自分のいいところは、みんながノートを書き終わっても、自分だけで終わるまで書いているところです。…」
彼は、書くのがゆっくりなので大量の板書はみんなと同じには書きあがりません。あまり負担に感じてはかわいそうだと思い、「途中まででいいよ。」とか、「後でいいよ。」などと声をかけるのですが、「ヤダ、今書く。」と言って書き続けます。 仲間たちもよくわかっていて、時には
「Tちゃん、給食はこっちに置いておくね。」なんて気づかいます。
 私は、てっきり、書くことをがまんしながらがんばっているとばかり思っていました。ところが彼は、最後まで一人でも書き終えようとしている自分を誇りに思っていたのです。何が優れていることか、T君の方がわかっていたのです。
 純粋で優しくて強い子どもたち。みんな友達のいいところをさがしながら、自分の良さをさがしながらここまで来て、友達を、自分を、大好きになっていきました。

さよなら 4年1組

 3月になり、いよいよ4年1組の終わる日が近づいてきました。同時にK君が転校していくのです。
 そこで、4年1組のお別れ会をしようということになりました。みんなが決めた内容は、ドロケイ、かんけり、4の1人権カルタ、いすとりゲームの4つ。関口先生がパウチを引き受けて下さった人権カルタができ上がって届いたのです。

「とっても大事 自分の意見」
「なっとうみたいに ねばろうよ」 H子
「にこにこ 楽しい 思い出づくり」 A子
「うれしいな きみが助けてくれたから」S男
みんな好きなカードです。
 かんけりに夢中になって時間を延長したので、いすとりゲームだけは、修了式のある25日になりました。

 ところで、この1カ月程、みんなの様子が変でした。私に内緒で何かしているのです。何かたくらんでいるようなのです。そしてある日、W君がそっと私の所へ来て、ひそひそ声で、 「これ、Kに色紙、みんなで書いたんだ。あと先生だけだ。」と言うのです。 

何と、家にあった色紙を持ってきて、K君にかくしてみんなで書いたというのです。 (なかなかやるねえ…)とうれしくなりました。
 ところが、たくらんでいたのは、もう1つあったのです。修了式も終り、いすとりゲームをしてK君に色紙もわたし、E君と握手して、さあもうさよならという時に、またまたW君が、 「先生、もう少しだけ時間とれませんか。」と改まっていうのです。

「え? 帰らなくちゃだよ。でもちょっとこの机、2階へ運んでくるよ。」と用足しに出て戻ってくると…。みんなが立って、半円に並んでいて、先生、そこに立ってというのです???私がまん中に出ると、Hちゃんがいきなり、「先生、これは、私たちの気もちです。受け取ってください。」なんて言うのです。 そして、S君がおずおずと私に手渡したのは、2つのカードの束でした。一人ひとりの言葉がぎっしりと書かれていました。びっくりして読んでいると、 「これから"たいせつなもの"を歌います!」と誰かが言って曲が流れ、送る会で歌った合唱が始まりました。でも、それは、いつもと違う完全な二部合唱! 一人ひとりがしっかりとパートに分かれて歌っています。
 いつの間に練習したのでしょう。(4年生は、いつも低音だけだったのに…) 自信にあふれた合唱に涙があふれてきました。 と、子どもたちもわーんと泣きながら歌い出しました。勝気なH子ちゃんもしゃくり上げながら歌っています。男の子も泣きながら歌っています。びっくりしました。こんなにみんなが泣くなんて…。いつも、にこにこ、ケタケタ笑って、元気な姿ばかり見てきたので。自分も泣いてしまいましたが、こんないい合唱に混ざらなくちゃ損だと思い、必死で歌いました。
 帰りの会で、日直さんが、連絡ある人はいますかと言うと、K君が手をあげました。そして、いつもは、とても穏やかな彼が泣きながら大声を出して、
「ぼくは、名古屋に行ってしまうけど、みんなは、がんばって下さい! ぼくも、向こうでがんばるから、みんなもここでがんばって下さい!」 ほとんど、叫ぶような発言でした。
 その後、ある子は涙をふいて、ある子はぐっと下を向いたまま、私と握手して、K君を囲んでみんなで帰っていきました。

…「牛島先生に、ゼッタイないしょだよ。」と頼みこまれて、音楽の時間に"たいせつなもの"の二部合唱を練習していたのだと、後でI先生が話してくれました。


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