パートナー通信 No.66

2024年10月14日

玉村町立中央小学校 「玉村町日本語教室」視察レポート 関 口 信 子感想:石橋 峯生、小林美代子、藤井 幸一、今村 井子

 外国にルーツをもつ子ども達は、学校でどのように過ごしているのだろうか?公立学校での支援はどのようになっているのだろう?という素朴な疑問や関心から「玉村町日本語教室」の設置校である玉村町立中央小学校に視察のお願いをしました。
 当時の学校長である伊藤光子先生より快諾を頂き、平成28年2月19日に群馬子どもの権利委員会のメンバーで訪問させていただきました。
 伊藤校長先生とは旧知の中で、明るく人情味に溢れ、子どもや保護者、職員からも信頼される肝っ玉母さん的な校長先生です。今回の視察は、短い時間でしたが、子どもの育つ背景から将来までを見据え、成果を上げている日本語教室の奮闘と子どもの人権を大切にした多文化共生の学校生活の話を伺うことができました。
 視察に参加した子どもの権利委員会のメンバーも説得力のある伊藤校長先生のお話に引き込まれ、たくさんの感想を寄せてくれました。それらの感想とともに視察の様子をお伝えしたいと思います。

○「玉村町日本語教室」の概要について

 平成20年に設置され、管内の小中学校に在籍する外国にルーツをもつ児童生徒が対象で、日本語の未修得や日本語が不自由なことによる不登校傾向や精神的不安定への支援など、日本語学習だけでなく精神的な支援も行っています。
 指導職員は2人で、日本人の先生とブラジル人の先生がいます。ブラジルの先生は、ポルトガル語、英語、日本語が話せ、日本語のお便りを英語やポルトガル語に訳して学校のことを知らせています。
 また、児童生徒の状況によってボランティアの支援が入ることもあり、ちょうど視察日は、「ようこそ、先輩」で中央小学校の卒業生である高校3年生3人がボランティアで参加していました。
 指導内容は、コミュニケーションのための日本語日常会話指導、学習のための日本語指導、日本で生活するためのソーシャルスキルトレーニング(あいさつ、お礼の仕方、謝り方、仲間の入り方、誘い方、聞く態度、断り方などの練習)、日本人児童生徒との多文化共生のための学習などとなっています。
 その他、来日してすぐは学校の施設、一日の流れ、きまり、コミュニケーションのための簡単な日本語の音声指導など、日本の学校生活に慣れることをねらいとし、不安を和らげるようにするなど、居場所的な役割を果たしながら段階的に日本語が修得できるように指導内容が組まれています。
 中央小学校では、外国にルーツをもつ児童生徒と日本人児童が、ともに学ぶ環境を生かし、さまざまな違いに気づき、お互いに認め合える場面を作って多文化共生の素地づくりをしているそうです。(例:3か国語の学校内掲示物、運動会アナウンス、スローガン、道徳、人権学習、お国紹介など)
 小学生時代から多文化共生の環境があることは、一緒で自然!という偏見のない世界観が小さいころから育つと思われます。
 また、放課後学習支援も行っており、下校時間まで、日本語教室において補充学習も行っており、熱心な支援体制が伺えます。
 外国の子ども達も環境はまちまちで、メイドさんのいるような裕福な家庭もあれば経済的にも大変な家庭もあるようです。国によっては、就学義務もなく、物事の考え方や習慣も違っていて日本の学校教育について理解してもらうことに大変な努力をされているようです。さまざまな大人の事情に翻弄されながらも精一杯生きている子ども達の姿に思わずエールを送りたくなりました。
 校長先生は、そんな背景から将来自己を確立し、しっかりと仕事について暮らせるよう、将来を踏まえた指導をしっかりと考えておられました。ブラジルに行けば日本人、日本にいればブラジル人と言われるような根無し草にならないようアイデンティティを育てることが大事であり、自分の国に誇りをもちながら暮らしてほしいと願い、授業では、自分の国のことを発表したり、食べ物や民族衣装を紹介したりする取り組みをしているそうです。  
 また、日本語教室を卒業して立派に暮らしている人を招き、将来の道筋が立てられるように話を聞く機会も設けているそうです。
 平成27年度の通級児童生徒数は、18名ですが、視察日は、在籍校の6年生を送る会の練習や学校行事が入っており、日本語教室には中央小学校在籍の児童4名が国語の授業を受けていました。9月に来日したという3年生が漢字を書いているのには、驚きました。これもしっかりとしたマンツーマンの個別指導が行き届いているからだと思います。
 児童玄関の縦割り活動の掲示物にも感激しました。6年生一人ひとりが下級生とグループを組み、意見を聞きながら楽しい活動をリードします。子どもの意見を尊重し、子どもに託す縦割り活動は、正に子どもが主役の活動であると感じました。

○石橋 峯生

◈玉村町立中央小「日本語教室」を訪ねて

  • ①先ず感じたことは、教室がいい!ということ。教材がいろいろ準備されていた。
    「こんなにいい教室があるのか」と思った。学習が始まる。生徒が5人、先生が6人。これは、日本の学校にはないと思った。
  • ②校長先生の話…「日本語を教える」ことは、ただ教えるだけではなく、その子が育ったその国の文化を知らなければはじまらない…これは、大事なことだと思った。
  • ③玄関に展示してあった―子どもの活動組織と意見―これは、見事だと思った。しかし、この実践は、現在の日本では難しいと思った。 子ども達一人ひとりが主人公になって活動する学校ができたら―それこそ子どもの権利条約が望む学校で、素晴らしい学校―日本の学校が目指すべき学校だと思った。

○小林 美代子

◈玉村町日本語教室について
 中央小学校に設置されたこの教室は、他の町立小・中学校と綿密な連携のもとに、とてもスムーズな運営がなされているように思われました。外国にルーツをもつ児童・生徒とその保護者に対する行政サービスの在り方も、コンパクトな自治体ならではのきめの細かさも感じられました。

◈伊藤校長先生のお話で印象深かったこと

  • ○日本語教室の目的は、まず安心できる居場所づくりです。外国にルーツをもつ子どもたちにとって、教室も地域も、「マイノリティー」、「異なる存在」としての緊張感があります。そこから解放されて、ありのままの自分を受け止めてもらえる場所であることが大切です。
    子どもたちは、玉村町に来るまで、母国等での社会環境、生活文化、家族関係などの影響を受けながら成長し、そこで培われた言語、感性、学力、習慣を呈しているわけですから、そのことを理解し、その上で本人の気持ちに寄り添い、思いを汲みとり、生活全般への気配りをすることが大切です。
     
  • ○保護者、親ごさんへの教育について
    家庭訪問や交流会などを通して、子ども本人、保護者、学級担任、日本語教室担当教師、日本語指導講師、卒業生、在校生、ボランティアなど、幅広い面談、交流、連携を通して、具体的な指導と支援がなされています。ぐんまフラワーパークへ出向いた際のお話は、臨場感満点で、ハラハラ、ドキドキ、ワクワク…でした。
  • ○基本的な学習、基礎学力の修得と共に、成長にともない、自らの思考を支えるための日本語をしっかりと身につけて欲しい、母語も日本語も中途半端という状態にならないように、将来は立派なバイリンガルとして成長して欲しいと願っています。と同時に、現実には、家庭での親子間の心配事もあると、子どもの日本語修得が進み、思考や感情を深く支えられるようになっても、保護者(親)の側が母語のみでいると、言葉を介してのコミュニケーションに支障が出て、親子が断絶状態に陥ることも懸念されます。お話を伺っていて、一人ひとりの子どもの過去、現在、未来へと縦横に向き合おうとされる、校長先生の熱意とおもいの深さにジワジワと引き込まれて胸がいっぱいになりました。

◈実際に日本語教室を見学させていただいて
パキスタン、中国、東南アジアの国々と、子どもたちの母国は別々ですが、「異なる者」としての空気は全く感じられず、何とも明るい笑顔で、楽しそうに学習に取り組んでいました。指導講師お二人の他に高校生ボランティアを交えて、マンツーマンの対応です。個々のレベルに応じて、それぞれがリラックスムードでした。正に安心できる居場所がそこにはありました。個人的なことですが、教室でのエリカ先生を目の当りにしてとてもうれしかったです。

◈これからますます多様化する社会の中で、多言語、多文化の共生は、待ったなしの現実です。「異質なるもの」として排除するのではなく、共存、共生への努力こそが平和的で多様な価値の創造へとつながると信じています。

○藤井 幸一

 私は、自宅を午前8時に出発して、玉村中央小学校が見えているのですが、学校が工事をしているので周りをぐるぐる回り、やっと学校に着きました。
 まず、校長室で校長先生が、日本語教室について話をしてくれました。ブラジルでは学校の掃除をするという習慣がないが日本の文化を学び、掃除もしているという。
 日本語教室の参観では、日本人の先生1人、ブラジル人の先生1人、ボランティアの先生が3人いました。ボランティアは、高校3年生で進学先も決まり、卒業までの間、"ようこそ、先輩"で来ています。指導者が5人もいる学校は、日本には、他にはないと思いました。
 子どもたちは、2年生3人(ブラジル、パキスタン、中国)、3年生1人(フィリピン)でした。ブラジルの児童は、ボランティアの方が採点して100点取れたので喜んでいました。児童の中には、経済的にも厳しく、歯科検診による治療のすすめなど、診察について理解できないこともあるとのことです。
 予算については、大変であるが、町の予算で教材や本などが買うことができるようです。
 フィリピンの児童は、7月から8月にかけて自国へ里帰りするそうです。
(※外国人は、父母のどちらかが外国人を含めて18人。昔は、ブラジルが多かったが、今は、アジアが多く、全部で7カ国の児童がいる。日本語は喋るが、日本語が書けないのが問題である。児童と保護者を含めて教育していかなければならない。) 校長先生の話を聞いて、大変素晴らしい教育をしていると感心しました。

○今村 井子

  • まず、外国籍の子どもがもともと「通学義務がない」ことに驚きましたが、年々、教育を受けさせたいという外国籍の親が増え、意識が高まっていることはもっともなことだし、それを支える体制が必要だと思いました。
  • 外国籍の子どもがもつであろう意識、「バイリンガルで育つことが、両国の懸け橋になるということ」「自分のルーツがどこか」を考えるためには、きちんとした言語を学ぶこと、しゃべれるだけではだめなこと、言語を通して考える力を養わなければということが、学ぶことの原点にかかわる問題であると、きちんと校長先生が考えをもたれて話されていたことが印象的で、非常に重要だと感じました。
  • 町というコンパクトにまとまりやすい地域であることは、皆が地域の問題に気づきやすいという利点だと思いました。顔の見える支援ができることは、みんなの理解を得やすいことだと思いました。
  • 児童の活動を縦割り集団にし、意識的にすべての上級生に役割を持たせ、責任のある仕事を担う体制にしていることも、みんなが主役になれる機会を作る良い取り組みだと思いました。
  • 今の親は、お兄さんお姉さんみたいで、自分のやりたいことを優先する余り我慢をしない。親を教育することも必要。あくまで、子ども優先ということを、「困り感」を共有しながら丁寧に話すことをしているという。今の時代を象徴しているような言葉だと思いました。

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