パートナー通信 No.67

文部科学省と市民との
意見交換会に参加して
小泉広子(桜美林大学)

「子どもの権利条約市民NGO報告書をつくる会通信」No.6, No.7より一部編集して転載

 国の施策の細かいところまでは、マスコミの報道などを見てもなかなかつかみにくい現状にあります。日本政府による国連子どもの権利委員会への「第4・5回政府報告書」の提出を前に市民NGO連絡協議会が取組んだ文科省との意見交換の要点が報告されましたので、「つくる会」の了解を得て転載します。地域の現実を伝える「基礎報告書」の重要性が一層明らかになりました。年内完成を目指して頑張りましょう。

(編集部)

 去る3月29日に文部科学省と子どもの権利条約NGO連絡協議会との意見交換会が開催されました。文科省側からの要請により、事前に市民・NGO側からの質問を提出し、当日、1時間という制限された時間の中で、各担当者が回答するという形式で、会議は進められました。

事前に提出した主な質問

1.学力テスト政策は、第3回最終所見パラ70に示されたいじめ不登校などの子どもに悪影響を及ぼす、過度に競争主義的な教育を助長するものではないか。2.人権教育として、子どもの権利条約教育の実際。道徳等におけるカリキュラム化、教員養成機関における必修化の可能性はあるか。学校における性的差別の解消のための人権教育や措置。3.体罰が高い水準で推移しているが、体罰を解消するための方策として、学校暴力に対する包括的な行動計画を策定する必要性。体罰に代わる「非暴力的な代替措置」として、文科省はゼロトレランス政策を想定しているのか。4.いじめの原因、また、第3回最終所見で指摘された「子どもの意見の取り入れ」など子どもの権利を反映したいじめ防止策について。5.特別支援学校在籍者増加のデータと、教室不足等に対する文科省の認識。軽度の知的障害、発達障害のある子どもへの対策について。障害を持つ子どもの意見表明権。6. 福島原発事故以降における福島県の学校統廃合数、不登校数、いじめ件数、精神的健康に関するデータ開示とその評価。東日本大震災、福島原発事故に対する文科省としての子どもへの支援策、放射能対策。7.少人数教育については、概算要求すらされておらず、教職員の基礎定数の拡充ではなく、加配定数のみ要求するのは何故か?少人数学級は教師と子どもの荒廃した関係の改善策になるのではないか。8.教基法の徳目の教科書検定基準への組み入れや、道徳の教科化、儀式における 「国旗」「国歌」の扱いについて、子どもの思想良心の自由がどのように考慮されてきたか。高校生の政治活動について。9.給付型奨学金制度の導入を含め、初等・中等・高等教育の無償制を拡大・導入するための検討は行われているか。社会権規約13条の留保撤回と公立学校授業料無償化法改正による所得制限設定は、整合性がとれていると考えられるか。

文科省側の主な回答(番号は質問に対応)

1.学力テストは、教育指導の改善のために実施されるものであり、結果の公表については、数値のみを一覧するなど、序列化や過度の競争を招かないよう配慮している。
2.人権教育としての子どもの権利条約の位置づけについては、平成6年の文科省の通知により周知。教員養成課程における子どもの権利条約の扱いは、各大学の判断。74%を超える大学で人権問題の科目があり、50%を超える大学で性差別に関する科目を設置。
3.についての記述はありませんでした。>
4.いじめ対策への子どもの関与の現状については、いじめ防止対策基本法上の基本方針の策定における子どもからの意見聴取、早期発見のためのカンケート、いじめ防止に積極的にとりくむリ-ダーの育成がある。自殺防止のための取組みを含め、法の実施の徹底は学校への研修を通じて行う。
5.特別支援教育の現状については、特別支援学校への在籍者は毎年3000人程度増加。教室不足については、文科省も毎年調査を行い、図書室をつぶして教室にしたり、教室をカーテンで間仕切りしている実態を把握しており課題として受け止めている。教室不足は年々解消されているが、現在3000教室が不足、自治体の取組みを要請。特別支援学校教員免許の保有率は現在72.2%であり、この割合を上げる必要がある。通常の小・中学校の教員に対しても、研修を通じて特別支援教育のノウハウや知識を身につける必要。教員に非正規化は、教育委員会の取組に求められる。文相は可能な限り正規雇用がよいと述べている。障害のある子どもの意見表明の保障は、就学先決定手続における総合的判断過程における関与、障害者差別解消法の施行にあたりその対応指針の中で意見表明が難しい子どもに対しての親や関係者の意見の尊重などの配慮を示している。
6.東日本大震災以降の福島県の学校統廃合状況は、毎年10校程度であり、これは、人口減少による全国的な平均数と同じである。いじめ・不登校の数も増えているが、学校の認知力にもこの数は左右されるので、増加の理由は不明である。
7.少人数学級の実現については、文科省としても、きめ細かな指導のために有効な施策であると認識しているが、厳しい財政状況の下、いじめ、不登校、特別支援教育、貧困等の優先的課題があるため、限られた定数措置の範囲内で的確に対応するため、その他の定数措置で予算化をした。今後、基本定数の拡充の可能性を含めて検討中。
8.道徳の教科化は、従来の心情理解に偏った読みとる道徳から、多様な一人ひとりの考えの尊重や議論する道徳への転換が図られたものであり、子どもの思想良心の自由を制限するものではない。国旗国歌問題との関係については、学習指導要領では我が国のみならず他国の国旗国歌の意義、尊重も規定しており、社会、音楽、特別活動を通じて学校で実施することとなっており、この事態をもってして、児童生徒の内心まで立ち入るものではない。学校における指導上の課題として、人権侵害のないよう適切に指導する一方、学習指導要領に基づいて指導することが求められる。
 高校生の政治活動について、文科省はQ&Aを公表したがその意図は、公職選挙法の趣旨を若い人の意見を政治に反映することと理解する一方、高校は学校教育法に定める目的を達成するべく生徒を教育すべき公的施設であり、必要かつ合理的な範囲内で政治活動を制約可能であるとするものである。
9.社会権規約13条と公立学校授業料無償化法改正による所得制限は、低所得者に対する保障を厚くするためであり、教育の機会均等に資するものである。

 以上の文科省側の回答後、市民側から多数の質問、意見表明の希望がありましたが、時間を理由に、数名の質問・意見表明しか認められませんでした。例えば、道徳の教科化に関し、学習指導要領の解説のどの部分から、考える力を養う教育を目指すものであると読み取れることができるかなどの質問も出されましたが、十分な議論ができずに終りました。
 最後に堀尾会長より「意見交換の場が設定されたことに感謝するが、時間が短くて残念であった。直接教育にかかわる人間と政策主体との間のパイプとして今日のような意見交換は重要である。例えば、学力テストによって、学校現場で何が起こっているのか、どういう問題が現実に起きているのか、きちんと調べた上で、競争にならないようにやっていると本当に言えるのか考えて欲しい。教育を国家政策を実現する手段という発想ではなく、一人ひとりの人間的成長発達を助ける仕事としてとらえ、市民との具体的交流をこれからもして欲しい」という意見が述べられました。

 参加した感想としては、文科省の回答からは、子どもの権利条約や第3回最終所見を真摯に受け止め、この間の施策に反映するという姿勢が見られませんでした。また、教育条件整備のサボタージュを、財政状況や国と自治体の役割分担を理由に正当化する回答が多く、財政を規律する子どもの権利保障の解明がますます重要であると感じました。


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