パートナー通信 No.67

「頑張った夏休み!
 ひろせ川教室子どもの夏まつり」 「ひろせ川教室」ボランティア 関口 信子

 この10月11日、群馬県社会福祉協議会主催で生活困窮者支援における学習支援事業等実施団体の情報交換会が行われました。行政の委託事業も含め、16団体が参加し、県内でも支援活動の広がりをみせています。それぞれが課題を抱えながらの運営で、早急に行政を含めたネットワーク化と課題改善のための対策の必要性を感じているところです。
 その中の一つである「ひろせ川教室」は、群馬中央医療生活協同組合が前橋・広瀬小学校の生活保護・準要保護世帯の子どもを対象に今年2月から開設した無料学習支援塾です。医療と学習支援の両面のサポートであり、教育委員会や学校へも積極的に出向いて連携した運営の努力を続けています。
 スタッフの方々も医療の仕事を持ちながら奮闘しており、私も医療生協の会員であることから学習支援塾ボランティアとして参加してきました。
 子どもの貧困問題は、子どもの権利条約の4つの柱である「生きる権利、守られる権利、育つ権利、参加する権利」の視点からも考えなければと思っています。学習支援も、単に勉強を教えるというのではなく、子どもに寄り添い、人生に寄り添い、支え合いの精神で子どもと一緒に生きる力を育むことが大事だと考えます。
 ひろせ川教室は、1年から5年までの20人近くが通ってくるにぎやかな子どもの居場所的要素の強い支援塾です(6年生は放課後の活動があるため、今はお休み中)。小学生は、勉強以前に自分を受け止め、相手をしてくれる存在を求めているような気がします。放課後は、思い切り遊びたいのだと思います。宿題を広げても集中が長く続きません。宿題もドリルや漢字練習などマンネリ化していてやる気が失せるのも分かる気がします。最近は、ドリル用のノートまであり、子どもが自分なりに工夫して書くこともなくなったようで驚きです。親切に用意された中で、指示された通りに学習する受容的な日常?どこで子どもの個性や独自の学習スタイルが育つのか?と複雑な心境になります。
 教材も工夫しないと!と思いつつ、準備が間に合わないのが現実です。なんとか、受容的な状態から主体的な方向へ向かわせたい。自分たちで考え、チャレンジする機会を持たせたいと思いました。

大人主導から子どもの主体性を引き出す支援へ

 夏休みになり、3時ごろから教室が開くのを待っている子どもたち。普段ではできないことにチャレンジできるのが長期の休みです。思い切って子どもたちに「休み中にやりたいこと」を聞いてみました。
 子どもたちからは、様々な意見が出てきました。

  1. ① ポップコーンを作りたい
  2. ② おにぎりを作りたい
  3. ③ 自己紹介や発表がしたい
  4. ④ カルタ大会がやりたい
  5. ⑤ トランプがやりたい
  6. ⑥ 手作り工作が作りたい

子どもたちから自己紹介が出たのは驚きでした。
子どもたち曰く、
「だって俺たち、知らない子もいるもん。」
なるほど、子どもたちの声に納得です。
 そこで、子どもの「やりたい!」や「願い」をかなえる夏休みプランを立て、体験的学習を取り込んだ「ひろせ川子どもの夏まつり」を提案しました。

  1. ①ポップコーンづくりは手作りおやつで!
    (食育やトウモロコシの科学を学ぶチャンス!)
  2. ②おにぎり作りは「セルフ子ども食堂」で実施!
    (火を使わず、自力で作って食べる力が育つ)
  3. ③自己紹介・発表
  4. ④カルタ大会は、「ひろせ川子どもの夏まつり」を開催!
    (計画や準備など、目的意識をもって活動できる。企画力や発表力も育つ!協力してやり遂げる体験になり、仲間意識が育つ)
  5. ⑤トランプ遊びは、休憩時間に!(思い切り遊ぶ)
  6. ⑥手作り工作
  7. ⑦雑巾縫いは、手作りワークで実施!(工夫する力や創造する力が育つ)

 早速、机上の勉強枠にとどまらないワーク的な学習と最終日のお祭りへ向けて準備が始まりました。 夏休みは4回の開催です。8月は、終戦記念日もあることからボランティアさんが「ひとつの花」の読み聞かせや戦争の話をしてくれました。子どもたちに語り継ぎたい戦争の話で貴重な学習になりました。
 手作り工作は貯金箱が作りたいというのでペットボトルを利用した「デコ貯金箱」に挑戦しました。それぞれが自由に星やクッキーのパーツを飾っていきます。楽しい活動には集中するもので、みんな真剣に作っていました。
 5年生は、雑巾縫いにもチャレンジしました。生活で使うものを作るのも意味深い学習です。コツコツと丁寧に縫い進める子、おやつを気にして大きな縫い目で仕上げた子などそれぞれの性格が出る作業でした。自分で縫った雑巾は愛着がわき、今はお掃除で使っているそうです。
 おやつ作りは食育を兼ねてポップコーンやベッコウアメ作り、マシュマロ焼きを行いました。ポップコーン作りでは、鍋一杯に膨らんだポップコーンに驚きと感激の声!この感動が心を耕すのだと思います。カレー味や塩コショウ味でいただきました。
 「子どもの夏まつり」プランでは、準備の話し合いの段階から、
「おれ、司会する!」「私、輪飾り作る!」など、
積極的な声が上がり、自主的に進めていました。子どもによる子どものためのお祭りなので、大人は黒衣となってサポートです。
「自己紹介の順番はどうする?」の問いに、「5年生からするよ。」の声。下級生がやりやすいようにと周りのことまで配慮する力が育ってきました。輪飾り作りに熱中した子たちは、折り紙をハサミで長く切り、輪をつなげていきました。こんな根を詰める作業が集中力を高め、頑張り抜く力になっていくのだと思います。輪飾りが数mもの長さになると教室の中で広げて自慢そうに見せてくれました。「すごいねえ!」と褒められ、みんな得意そうです。頑張った成果が形で見えることも達成感を倍増させてくれます。
 自己紹介準備は、自信につながる仕掛けとして自己紹介カードを用意し、自分の良さの気づきに使ってもらいました。「うーん、好きなもの?得意なもの?」と考えながら書いていました。改めて自分を振り返り、見つめることも大事だと考えています。

 セルフ子ども食堂は、おにぎり作りの体験です。子ども食堂の活動が全国的に広がっているように子どもの育ちの上では食べる支援は切り離せません。子ども食堂の活動には、いろいろな支援形態があると思いますが、食の提供の他、子ども自身に食べる力を付けていくことも大事だと考えます。エンパワーメントのアプローチです。そんな考えから「セルフ子ども食堂」と名付けましました。

ワクワクドキドキ!「子どもの夏まつり」

 さて、いよいよお祭り当日。子どもたちもワクワク気分でひろせ川教室に集まりました。子どもも大人も一緒になって会場準備です。頑張って作った輪飾りがお祭り気分を盛り上げ、「子どもの夏まつり」が始まりました。5年生の司会進行です。
 自己紹介では、照れながらも前に出て自分のことを発表してくれました。自分を表現すること、伝えることは、大事な意見表明へつながるものであり、子どもに育てたい力です。書くことが苦手なA君もその場の勢いでしっかり自己紹介することができ、子どもの秘めた力を感じました。スタッフやボランティアも自己紹介をして全員がひとつになり、温かい空気が広がりました。
 発表では、広瀬小学校の校歌をリクエスト。

「じゃあ、おれ指揮する!」という頑張り屋さんも現れてみんなで校歌を歌ってくれました。間奏の間は、心で歌って再び、スタート。校歌という共通項でつながり、「仲間」になっているのを感じた一コマでした。お礼に大人たちは、「幸せなら手をたたこう」を歌いました。
 次は、子どもの権利カルタ大会。動物狩りゲームでチーム分けをし、輪になって真剣勝負です。

「きみもたいせつ、ぼくもたいせつ」「まちがいなんてだれにもあるよ」など、子どもたちに届けたいことばが満載です。勉強ではなかなか集中できないB君も大活躍でチャンピオンになりました。多角的なアプローチが自信を付けるチャンスを広げます。子どもの権利カルタは、子どもたちも気に入ってお祭り後も楽しんでいます。ことばが心に残り、日常生活の合言葉になって活用されることを願っています。そして、最大の楽しみでもあるおにぎり作り。
 「お昼食べてないから早くおにぎり食べたい!」という子がいて生活状況が気になります。家庭環境・生活状況の把握は支援の基礎情報として欠かせません。鮭、シーチキン、塩昆布から好きな具材を選び、ラップの上からにぎって食べました。スタッフが用意してくれたかき氷も大人気です。かき氷機を自分で回して作りました。なかなかできない体験です。この自分でやる!という行為が大事です。ジュースやフランクフルトの差し入れもあって満腹。自分たちが主体的に関わったお祭りで、身も心も満たされた笑顔がいっぱいの夏まつりになりました。
 これからも模索は続きますが、ボランティアとして自分にできることは協力し、多角的なアプローチで支援を考えていきたいと思っています。


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