パートナー通信 No.68

アレルギーの子供を支えてくれた保育所生活」― そして、「いま」 ももの木保育園元保護者 渡辺 千種

 渡辺千種さんから、小学校2年生の息子さんの様子を寄せていただきました。  渡辺さんからは、「群馬の基礎報告書」に「2014年全国保育所給食セミナー」で発表された内容をお寄せいただいています。その当時の息子さんの保育園での生活の報告と今の小学校での生活の様子をあわせて紹介します。

保育所のころ

(2014年11月第29回全国保育所給食セミナー「全体会」での発表から)

 息子は重度の食物アレルギーがあり、卵・乳製品・小麦等を除去しています。離乳食を始めた頃から湿疹が悪化し、病院を転々としました。最初はお米にも反応があり、この子は一体何を食べて生きていけばいいのだろうと絶望的な気持ちになりました。それまで食物アレルギーというものはじんましんが出来る程度だと思っていましたが、命に関わる大変なことだと知りとても不安な毎日を過ごしていました。けれど食べ物が限られているのにスクスクと大きく成長し、笑顔を向けてくれる息子を見て出来ることを考え、食べるものを工夫し前に進まなくてはと思いました。

 そんな中、ももの木保育園は食育を大切にし、園の方針も素晴らしいことを知りこの園でお世話になりたいと強く願うようになりました。ただ、この体質で受け入れてもらえるのか、安全に集団生活が送れるのか不安な気持ちもありました。そんな時「こういう困っている人にこそうちの保育園は手を差し伸べたいと思っているのですよ。」と言っていただき、食物アレルギーと知ってからずっと我慢していた涙が溢れ出てしまいました。そして念願叶い入園が決まり先生方と色々話し合いをする中で最初に感じていた不安はなくなっていきました。給食は全て除去食で対応して下さいます。なるべく皆 と同じ物を食べられるように工夫して下さり、メニューを見るだけで優しさがいっぱい伝わってきます。給食室からの美味しい香りにつられて毎日給食室を覗きに行き、メニューは何かなと楽しみにしていたようです。これがもし自分だけお弁当だったらこんな楽しみもなく皆を羨ましく思う毎日だったと思います。お昼ご飯とおやつが美味しいと輝く目で話してくれるので私も息子が通うようになってから気持ちがずいぶん変わりました。食物アレルギーだと毎日の食事が和食中心なので体に良く、この体質も個性の一つと考えられるようになりました。でもその裏での保育園側の苦労は並大抵のものではないと思います。大人数の中での除去食作りはどれだけ神経を使うか計り知れません。でもそれを苦とせず前向きに考えてくれるので本当にありがたく思いました。                

 ももの木保育園では園内外でのお泊り保育を行っていて、登山やスキーなど沢山の経験をさせてくださいます。園外での宿泊の際は給食室を丸ごと移動する程の調理器具を宿泊先まで運び給食の先生も泊り込んで作ってくださいました。また遠方での夏山、冬山合宿では先生方が宿泊先まで打ち合わせに行き、きめ細かくお願いしたり調味料などを送り安全に皆と同じものを食べられるよう対応して下さいました。おかげで安心して送り出すことが出来、息子も楽しい時間を過ごしたようです。毎日楽しく過ごした4年間でしたが、大変なことが起こってしま ったこともありました。

 おやつで小麦を使うメニューの時だけ代替品を持参することになっていて、その日のメニューはホットケーキを自宅から持っていったのですが、間違ってアレルギー用ではないものを持っていってしまったのです。それを食べてアナフィラキシーを起こしてしまいました。命を守るはずの親が大変なミスをしてしまったのです。館林市には小児の救急を受け入れる病院がないため、隣の佐野市へ搬送されました。救急車に乗っている20分が長く長く感じました。全身が真っ赤に腫れ上がり呼吸も苦しくてどんどんぐったりしていく姿は本当にかわいそうで只々無事を祈るだけでした。救急隊員がもっとスピード上げてと言った時の自分の動揺が今でも忘れられません。到着してすぐに注射や点滴の処置を受け大事には至らずホッとしました。アナフィラキシーという症状がすごく恐ろしいものという認識はありましたが、目の前でどんどん悪化していく様子を見て改めて恐さを感じました。息子の姿を見た先生方もとても驚いたと思います。でも保育園側はこれを機にもっと食物アレルギーの対応を見直し、改善していこうと言ってくださり園長先生、給食の先生、看護士さん、担任の先生と共に息子がお世話になっている群大の主治医のもとへ出向きお話を聞くことにしました。園でもその後何度も話し合いを行い、新たに見直すものとして専用の机と椅子の用意。布巾は毎日専用のものを持参する。その他オーブンもアレルギー用を用意。全てのものの準備が整ってから登園するということに決まりました。いつも充分に気をつけながら取り組んでくれている保育園に迷惑をかけてしまい、また息子に辛い思いをさせてしまったことが申し訳なくてしばらく自分を責める日々が続きましたが、序々に気持ちを切り替えエピペンを打つタイミングや毎日の食事の準備も更に気を引き締めていこうと思いました。

 息子と家族を支えてくれた保育園を今年3月で卒園し、小学校へ入学となりました。小学校では除去食の対応がないためお弁当持参の毎日となります。今まで皆と同じように給食を食べていたので、息子にとって自分だけお弁当という状況に戸惑うのかと思うと心が痛みます。最近「アレルギーじゃなければ良かったな」という言葉を初めて聞きました。大きくなって色々なことを感じ始めたのだと思います。けれど保育園で過ごした4年間という月日があるからきっと大丈夫。たくましく育っていってくれると思います。先生方に命を守ってもらいながら心も体も大きく成長しました。息子のことを「命の重みと大切さを教えてくれる大切な存在なのですよ」と言って下さいました。こんなにも温かい言葉をかけてくれる先生の元で育つ子供達はとても幸せだと思います。まだまだここまで対応してくれる園は少なく、周りにはお弁当を保健室で食べさせている所やエピペンを持っていると入園させてもらえないという話も聞きます。命に関わる大変なことなのでそれも分かります。けれど子供の気持ちにもっと寄り添い、特別扱いせず出来ることを考えて対応してほしいです。未来ある子供達の心と体の成長のために、ももの木保育園のように安全な食材を手作りで、そしていつも子供達のことを温かく見守り前向きに取り組んでくれる、そういう保育園が増えていってくれることを心から願います。重度の食物アレルギーを持った息子が私の元に生まれてきてくれたのもきっと意味があると思っています。この経験をいつか何かの形で役立てたいと思います。

 最後に息子と家族を支えてくれた先生方、そしてアレルギーのことを理解し協力してくれたクラスのお父さんお母さんとお友だちに心より感謝申し上げます。

そして、「いま」

 息子は現在小学校二年生になりました。
 食物アレルギーで主に卵、乳製品、小麦が食べられないので、毎日お弁当を持参しています。食育をとても大切にしてくれていた「ももの木保育園」では毎日美味しい給食を皆と食べていたので、入学してからの生活をどのように感じ、過ごしているのか気になります。

 入学前の話し合いで、温かい物を食べさせたいのでせめてご飯だけでもとお願いしましたが叶いませんでした。危険を排除するのはもちろん分かりますが、子どもの気持ちに少しでも寄り添ってくれたらと思います。また、食中毒の心配もあるので、夏場は冷蔵庫に入れてほしいいとお願いしましたが、今まで事例がないのでと断られてしまいました。同じ市内の小学校では冷蔵庫で預かり、電子レンジで温めてくれる所もあるようです。担任の先生は、給食のときの席や給食当番のことなど、きめ細かく配慮してくださっていると思います。けれど学校としての食物アレルギー児に対する心の面への対応をもう少し配慮してほしいと思います。

 食物アレルギー児が増加しているので、地域によってさまざまな取り組みをしている所もあります。月に一度だけ全員が同じ物を食べる日としてメニューを工夫している所もあるそうです。月に一度だけでもアレルギー児にとってはとても嬉しい日になるでしょう。息子は「お弁当を毎日作ってくれてありがとうって思うけど、やっぱりみんなと一緒に給食が食べたい」と言っていました。 

 館林市では、給食センターの建て替えの計画があります。センター方式ではなく、美味しい香が漂い、温かい給食、そしてアレルギー対応もしやすい「自校方式」を願っていましたが、センター方式に決定したようです。でも、アレルギー・ ラインを作る計画もあるようなので、建設にともない、市とお医者さんとアレルギー児の親で話し合いを行い、アレルギー・ラインを作ったという形だけではなく、きちんと安全に稼動できることを心から願っています。

 ものの木保育園では、アレルギー児にも他の子と同じ経験を積めるよう、いつも丁寧な対応をしてくださいました。毎日の給食やおやつ、お泊り保育も安心して経験させていただきました。子どもの気持ちに寄り添い、心も身体も大きく成長させてもらい、毎日、毎日、感謝していました。入学後は、保育園との差に悲しい気持ちになりましたが、小学校の対応は仕方がないと諦めていました。けれど、諦めるのではなく、要望はきちんと伝え、学校とコミュニケーションを取りながら声を上げていきたいと思います。息子はもちろん、これから入ってくるアレルギー児のためにも、自分でできることはしっかりやっていこうと思います。

館林市のホームページから
 「昭和46年の建築から約44年が経過し老朽化が著しい現在の学校給食センターについて、学校給食調理環境の改善を図り、より安全で安心な学校給食を提供できるようにするため、平成30年8月を目途に移転及び改築を行います。
 その整備手法として、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号))に基づくPFI方式を採用して実施することとしました。
※PFIとは、民間の資金と経営能力、技術力(ノウハウ)を活用し、公共施設等の設計、建設、改修、更新や維持管理、運営を行う公共事業の手法です。正式名称を、Private-Finance-Initiativeといいます。」

(編集部)


inserted by FC2 system