パートナー通信 No.69
2・21 子どもの貧困問題を考えるフォーラム 学習支援-行政等に期待すること共催:教育ネッットワークぐんま・ぐんま教育文化フォーラム・群馬子どもの権利委員会
2月21日(火)、子どもの貧困問題を考えるフォーラム「学習支援 - 行政等に期待すること」を開催ました。群馬県および県内全市の福祉・子ども関系部署と教育委員会に案内を送りましたが、群馬県及び6市1町から14名の担当者、民間から9団体11名の方を含め、約70名が参加しました。
民間と行政の連携をどうすすめるか
「子どもの貧困」の問題は、私たちの活動にも大きく関わる課題であり、一昨年と昨年の5月に、県内の学習支援、子ども食堂、外国にルーツを持つ子どもたちへの支援などに取り組んでいる団体の意見交流の場を設定してきました。その中で、民間の取り組みと行政との連携の進め方について、課題も見えてきていました。今回は最初に、生活困窮者自立支援対策としてこの「連携」がとてもうまく進められている大泉町「学習支援サロンStudy Spot」の取り組みの報告を受け、多くのことを学ぶことができました。
◆行政の側から:
大泉町福祉課長 金井隆治さん
生活困窮者自立支援法の施行を受け、大泉町の子どもの状況はどうなっているかと、県内自治体では初めてと思いますが、子どもの生活実態調査を行いました。その結果に基づき、町の課題として、「子どもの居場所づくり」「子どもの学習支援」「食料・食育支援(子ども食堂)」「一人親家庭への就労支援」の4つを挙げました。
多文化共生の視点から「活きな世界のグルメ横丁」という子どもの遊び場・居場所づくりに取り組んでいた「NPO法人わくわく広場の会」に、県の学習支援事業への声がけをしました。
学習支援事業の立ち上げに当たっては対象者が限定的なものなので、募集・勧誘は保健福祉事務所と町で連携して家庭訪問や面談を通して知らせたり、「現況届け」手続の通知にチラシを同封するなどしました。
開始前には、NPO、県の担当者と町の福祉課、子育て支援課、教育委員会で3回ほど事前打合せを行ったり、私たちのほうで「太田女性ネットの学習支援」の視察も行いました。
毎週金曜日に実施していますが、その都度福祉課の担当者が出向いて、出席状況、町への要望、連絡事項など細かくやり取りをしています。また6カ月経過したところでNPOと福祉課・子育て支援課・教育委員会で、実施の状況や子ども一人ひとりの支援計画など情報の共有を図りました。
今後は、途中で来なくなった子どもや、支援のなかで気づいた子どもの様子から、そのような世帯への支援が必要と考えられる場合は、情報提供・共有を丁寧に行い、行政からも関わっていけるような形で進められるといいのかなと考えています。
◆NPOの側から:
「わくわく広場の会」代表 岡本拡子さん
本職は高崎健康福祉大学人間発達学部子ども教育学科で幼児教育を専門としています。
貧困がなくならないという、このレベルを変えていくのはすごく難しい課題ですが、「行政との関わり」というテーマをいただき、ぜひお話させていただきたいと思い、やってまいりました。先ほど金井課長さんは、たいしたことはやっていないなどと話されましたが、本当は頭の下る思いです。今日は行政の方がたくさん見えているので、ぜひ参考にしていただきたいと思います。
2016年2月に発足したNPO法人「わくわく広場の会」は、保育・教育、障害者福祉、子育て支援、多文化共生、外国人生徒の日本語教育など、さまざまな分野で子どもに関わっている研究者の集まりといった特徴を持っています。大泉町の「活きな世界のグルメ横丁」とつながるきっかけは、「研究者は、外国人の多い町ということでたくさん調査に来るが、私たちには何も帰ってこない。現場に何を返してくれるの?」という町の方の言葉でした。何か実践的なことをやりたいね!私たちは保育の専門だから、子どもたちを集め、学生たちも行って、遊びのことをやろうよ! そして「遊びの広場」が始まりました。
子どもたちの安心・安全に責任を持つためにと、NPO法人にして、大泉町にご挨拶に行ったところで、当時の福祉課長さんから県の事業に応募してみないかと紹介されたのが「貧困対策としての学習支援」事業でした。
学習支援…できるかな? 中学生…わからないな!とほんとうに及び腰でした。何回も何回も話し合いをしましたが、「研究者は現場に何を返してくれるの」の言葉が私に決断をさせてくれました。私たちは多文化共生の町づくりや乳幼児に関わりたい、中学生の学習支援などできるかどうかわからないけれど、その前に町の皆さんや福祉課の皆さんが私たちに望んでいることをやってみましょう、となりました。
貧困の背景や調査データ、閣議決定や大綱はスライドのとおりですが、国の重点施策の「教育の支援」の中に「学校をプラットフォームにした総合的な子どもの貧困対策」とあります。これが大きな課題です。付随して「食事の問題」もとても重要だと思っています。
さて、「学習支援サロンStudy Spot」ですが、1カ月ほどの準備期間を経て2016年7月から、毎週金曜日午後6時~8時までとして始めました。9時まで開けているのですが誰も帰ろうとしないので勉強も9時までになりました。場所は大泉町教育研究所分室を無料で使用できています。支援対象は生活保護世帯や1人親家庭の中学生となっていますが、お友達や兄弟も来ていて若干緩やかにしています。学習支援の責任者は日本語指導の塾の先生、支援員は元教員に担当してもらい、学生ボランティアがたくさん参加しています。
支援を始めて気づいたのですが、子どもたちは、本当はすごく勉強したがっているのです。結果的に中学生対象になったことも意味があるのです。いろいろな条件が重なって将来の夢も描けない、勉強も良く分からない。でもなんとか勉強して進学したい。友だちに連れられてきたペルーの女の子が「勉強教えてくれるんですか、うれしい!」と言うのです。ボランティアはほぼすべて一対一で関わることができていて、子どもたちがどこでつまづいているか把握して苦手克服に取り組める。成績がだんだん上がってる。そういう進歩がすごく嬉しい。「分かる」ことが大きな自己肯定感につながるということを学生たちが丁寧に関わって伝えてくれています。大学生の強みなんですが、子どもたちにとってすごく近い目標になれる、学生の姿が子どもたちの未来像として具体的に映るのです。子どもたちは自分の気持ちを言葉でうまく表現できない。起きた問題に対する解決の道はいろいろあるという選択の仕方を知らない。だから、感情豊かに子どもと接することを心掛けていると、学生たちは言います。
学習支援の成功に不可欠なのが「自治体との連携・地域とのつながり」と「専門家との連携」です。大泉町との連携は金井課長からもお話がありましたが、県との事前相談から始まって、場所の確保や設備の準備、関連部署の連絡調整の積み重ね、対象世帯への戸別訪問と案内、参加申込みの受付。そして、時には福祉課の方が母親と2時間も話相手になってくれるなど、保護者へのきめ細かな、粘り強い対応と子ども一人ひとりの情報の共有に心がけていただき、本当にありがたいです。町役場の皆さんに守られていると実感しています。県、自治体、NPOが互いの立場の理解に努め、十分に話し合うことも大切です。
自治体福祉・教育行政に期待する
参加いただいた自治体の中で、これから具体化するという桐生市や藤岡市は、福祉課を中心に子ども課や社会福祉協議会、教育委員会などが連携して検討を進めています。具体的には、対象者をどの範囲にするか、財政や規模をどうするか、開設場所と数や送迎をどうするか、家庭状況にどこまで関われるかなど、既に開設している支援活動が課題としてあげていることと共通する内容が出されています。
渋川市は平成29年度から、生活保護世帯の中学生全学年、児童扶養手当受給の中学3年生を対象に、家庭訪問家形式で開始する予定です。
安中市は、市で指導員3名を直接雇用し、市有施設を使い、毎週日曜日の午後に2時間程度、ボランティア7名も参加して実施しています。対象は枠を絞らずに希望者を受け入れて、現在33名が登録していますが、生活困窮世帯の子どもは10名弱という現状です。これからは委託事業の形も含めて教室数を増やす方向を検討中ということです。
伊勢崎市は、支援員を2名雇用し、週3日間で家庭訪問の支援を行っています。対象は小学校5・6年生と中学校全学年の範囲となっています。支援の内容は、親子面談を行い、生活改善、学習意欲の喚起や勉強の仕方、進路相談、学力向上のための「交換ノート」などです。財政的には2分の1の補助でやっていますが、支援員の人件費がそのほとんどになっているそうです。
沼田市からは教育委員会社会教育課の方が参加されました。沼田市では子ども課が担当して1カ所で実施していますが、広い自治体なので1カ所ではすべてをカバーできないという問題があります。また、教育行政として携わる場合には、ここで話されているような支援も必要だが、教育における全体的な平等性に立った支援がどういうものか知りたいという発言もありました。
県の担当者からは、子どもの貧困の9割以上が1人親家庭、その中でも母子家庭の問題が大きい。社会保障や労働問題など難しい課題でもある。対症療法かもしれないが現状は放置できない。県内では6~7割の自治体が取り組んでいて全国平均よりも上で活発なほうである。税金を投入する事業なので、国の方向性や県民の意向に沿わなければならないが、行政だけでなく民間の力を借りながら、子どもたちが将来の夢を見られ、親が関わり、地域のボランティアも地域を見直すきっかけになるような事業を目指していきたい、との発言がありました。
学習支援教室が望むこと
☆単一の教室だけでは子どもの貧困は解決できない。今、小学生対象だが、中学・高校生対象の団体とも連携して情報交換ができ、多角的に子どもを捉えて、解決のための日常的な取り組みができるような仕組みが作られると良い。(前橋市・ひろせ川教室)
☆準備期間がなく、予算も人も少なくて苦労した。市の基準は子ども5人に指導者1人だがこれでは絶対にできない。事故でもあったら大変。最低でも2人にしたので手当は半分でお願いした。運営費も絶対に必要で先に用意できないと困る。支援員を学生に頼れないので非常に大変である。行政には、しっかり話し合って計画を立て、お金を用意していただきたい。(太田市・すずらん学習支援員協会)
☆主にDV被害や性的被害に遭っている女性の子どもたちを支援する団体。面前で母親が暴力を受けるなどで心に大きな傷を負っていて、勉強もできない状態にある。財政基盤は赤い羽根募金や企業などの助成金に頼っている。(前橋市・ひこばえ無料学習会)
※【本誌P.6-8「地域の活動紹介」欄に詳しい報告を寄稿していただきました。】
☆多文化共生から外国人の子どもの支援をしている。日本語指導の支援なので、教育委員会や学校とも連携をしている。1つは県の委託事業として学校に入っていて、お金の面では「概算払いで」なのでとても助かっている。日本の子どもたちにも、放課後の学校を利用した学習支援ができるのではないか。継続していくには交通費程度でも支援者に保障できる財政支援が必要だ。これからは子ども課や福祉課とも連携して、貧困対策と学習機会の保障の両面からカバーしていけると良い。(伊勢崎市・いせさきNPO協議会)
☆主な財源は市の委託金だが、当然これだけでは足らず、企業や個人の理解を求めている。受け入れる子どもの数が増えれば増えるほど子どもたちが抱えている闇の深さ、家庭の中の困難な事情が浮かび上がって来ている。あまりにも想像を絶する苦しみを感じている。(太田市・太田女性ネット)
☆対象者の情報把握について、個人情報は教えられないが、一般の方も含めて多くの人が支援活動の存在を知り、さりげなく紹介できるようになると良い。新聞を見てくる場合が多い。行政には限られたお金しかないが、それをいかに活用するかだ。少額であってもどのグループにも分けて、子どもたちのために頑張ってくださいという気持ちがほしい。支援スタッフの確保のためにも、さまざま支援活動団体相互の情報交換と協力体制が組めるとよい。指導力を高めるためには徹底して研修すること。場所の確保のために行政は公的施設をどんどん提供してほしい。(高崎市他・学習塾HOPE)
フロアーからの交流発言
❤京都府のある小学校。小2の女の子は母親と2人暮らし。母はファミレスで働き、帰りはいつも遅い。女の子は母の仕事が終るまでバックヤードで待っている。帰宅しても母は疲れてすぐ寝てしまい、話をする間もなく、朝食も作ってもらえない。担任の女教師は、元気なく登校してきた女の子を「やあ、来たね!」と職員室に連れてゆき、ちょっとした食べ物を与え、歯磨きをさせる。授業参観に来た母親を「よく来ましたね!」とニコニコ顔で迎え入れ、「パン1つでもいいから朝食を」と話す。翌朝、生き生きとしながら登校した女の子から「これお母さんが入れておいてくれたの!」と、うれしい言葉。親との関わり方にもいろいろある。
❤退職教員で、学習支援の講師をしていた。貧困解決と子どもの支援はつながっている。子どもがしっかりした教育を受け、しっかり勉強していくことが、将来貧困から抜け出すことにつながる。子どもが未来に希望を持って生きていけることにつながる。行政にもさまざまな課題があるだろうが、財政的な支援をぜひお願いしたい。
❤自分たちの取り組みを「塾」とは言っていないのに、子どもたちは「塾」と言う。塾に行きたかった、親も行かせたかった、でもそれができない。その気持ちを大事にしてもらいたい。対象枠が広げられるようなところにも手を伸ばしてほしい。
❤私たちの取り組みが何を目指してアプローチするかで提案をしたい。それは「子どもの将来の選択肢を広げる」という視点だ。親の問題、発達や心理的な問題、学力の問題とさまざまあるが、子ども課、福祉課、教育委員会、そして民間の取り組みをつなぐときに、貧困対策という切り口だけでなく、子どもの将来を広げるという視点で、それを妨げるものを潰していくという目配りが必要はないか。
❤県議会議員だが、行政が熱心に取り組を始めたことを評価している。枠を決めた支援ではなくさまざまな形態に対応した援助を考えてほしい。縦割り行政の壁を感じる。枠を越えたプロジェクトチームをぜひ作って取り組んでほしい。
❤話を聞いて胸が熱くなる。貧困対策という切り口から世の中すべてが見えてくる印象がある。スクールソーシャルワーカーの存在が重要だ。子どもの生活をフォローできるプロの方がすべての学校にいてくれたらと強く願う。カウンセラーと一緒に群馬のすべての学校に一日も早く配置してほしい。学習支援にやってくる子どもが増えれば増えるほど深刻な問題を抱えることになる現実がある。あたかも上流のダムが決壊して濁流が流れてくるような事態。現場は、毎日身を粉にして対応しても、柄杓で泥水をかい出すばかりといった気持ちにもなってしまう。決壊したところをどうするかを皆で考え取り組みたい。
(まとめ文責:加藤彰男)