パートナー通信 No.69
地域の活動紹介 初めまして!
「ひこばえ無料学習会」です 高橋 英代(ボランティア講師)
はじめに
こんにちは。このたびここに、「ひこばえ無料学習会」についての寄稿をさせていただけますことをたいへん光栄なことと感じております。心より御礼申し上げます。
最初に「認定NPOひこばえ」のことと「無料学習会」設立の過程について紹介をさせていただきたいと思います。
「ひこばえ(蘖)」とは伐った根株から出る新芽のことです。自分の『新しい芽』を大切にして生きていけますようにとの願いから命名されました。「ひこばえ」では、DV(家庭内暴力)・虐待・性被害等で傷つけられた人々が心身の尊厳を回復し、新たな人生を歩みだすための安全・安心の場を提供し、自立に向けての総合支援を行っています。2009年にNPOとして設立されました。それから5年世の中には経済的格差の嵐が吹き荒れ、内閣府からも、貧困家庭の子どもは6人に1人の割合で存在し、母子家庭の子どもの2人に1人は貧困であるという発表がなされました。国としてもこの現状を放置できず、平成27年から生活困窮者の自立支援政策に乗り出したのは周知のとおりです。
時を同じくして、女性と子どもを支援している「NPOひこばえ」でも、面前DVにあってきた子どもたちの心のケアをしながら勉強を身につけていけるよう、母子家庭を対象に「無料学習会」設立の準備が始まりました。両親のDVを見てきた子どもたちは、自分が 虐待されたのと同じ精神状態になります。自 分のせいでこうなったと自分を責めます。子どもたちには何の罪もないのに、いい子にして、この母親を守りたいと真剣に思っています。
また、事情があって離婚をした母子家庭の母親は、毎日子どもを食べさせるために精一杯忙しく働いています。でも、思うような生活環境が得られません。子どもたちも好きな習い事をしたいとか、勉強がわからないとかは言えず、不満を持ちながらもいい子にして家にいます。家にいられず外のグループに身を置いてしまう子もいます。不安*なのです。自分が放り出される恐怖と戦いながら、今日一日生き延びることに必死なのです。勉強するどころではありません。
この子どもたちに、自信をもって社会に羽ばたいていってもらいたい。そのために、いま私たち大人ができることを提供していこうと、そんな願いの下、2015年4月、前橋市に「ひこばえ無料学習会」がオープンしました。
お詫びと訂正:
掲載当初、「不安*」の「不」が抜けていました。お詫びして訂正します。(係)
無料学習会スタート!
「ひこばえ学習会」は小学生対象です。1年目は毎週土曜日の14:00~16:00、「前橋プラザ元気21(前橋市中央公民館)」の会議室を借りて始まりました。現在は前橋総合福祉会館の会議室が活動の拠点です。初日は5人のお子さんが参加してくれました。いまは1年生から6年生までのお子さんたち10人~15人が通ってきてくれています。
「ひこばえ学習会」は、傷つきやすいお子さんたちの心のケアにも重点を置いています。そこを大切にした独特なカリキュラムを作りました。開始時間になるとまず、皆で輪になって座り「始まりの会」というのをします。自分の名前と学年、今日やりたい事(勉強)を発表してもらいます。それから毎回質問を1つします。「あなたの一番好きな動物は?」とか「夏に食べたいものは何?」とかです。ときには理由も言ってもらいます。講師も参加して話をすることで、話の仕方、自分の紹介の仕方などが学べますし、友だちのことをよりよく知ることができます。学習に入る前の心の安定にたいへん役立っています。
勉強は前半と後半に分け、途中の休憩時に少しだけおやつを食べます。子どもたちにとってはお楽しみの時間です。会の最後には、また皆で輪になって座り「終わりの会」をします。今日やったことと今の気持ちを発表してもらいます。講師も自分が担当した子がどんな勉強をしていて、どんなところが難しかったかなどを話します。こうして一人一人が取り組んだ学びを皆で共有し合うことで仲間意識が高まります。そして子どもにとっては、自分が頑張ったことを(家庭ではお母さんだけですが)ここでは複数の大人が聴いて「頑張ったね」と言葉をかけてくれるので、納得と安心をして自信をもって次の学習へと進んでゆくことができます。
学習会がスタートした初めの頃は、世間一般にある学習塾のような雰囲気でした。子どもたちは明るく礼儀正しいですし、勉強道具やノート・文房具などはきちんと持ってきます。この子どもたちのいったいどこに、貧困とか心の傷とかが隠れているのだろうかと、疑問に思いました。しかし、その答えはすぐにやってきました。学習会や大人に慣れてきて自分の本性を出したいという気持ちもあるのでしょう。だんだんと、「忘れた」と言って勉強道具を何も持ってこなかったり、短時間の集中も続かず、席を立ったりという子が続出し始めました。勉強している子たちの前で紙飛行機を飛ばしたり、突然部屋を出て行ってしまったり、下を向いて一日中絵を描き続ける子もいました。友だちと一緒に同じ課題をしていても、自分だけができないとプイっと怒りだす子、外に出て講師をにらみつける子、突然情緒不安になって泣き出す子など、子どもたちはさまざまな表情を見せ始めました。それは、「こんなことをしても、あなたたちは僕を(私を)受け止めてくれるのか?」と大人を試しているようにも見えましたし、何か得体のしれない怖いものにおびえているような、そんな眼差しにも見えました。
あとで、この子たちの置かれたそれぞれの家庭の事情(DV・母親の男友だち・離婚による母親の重圧など)を深く知った時、この子たちは本当に、勉強どころではない心の状態なのかもしれないと知りました。また、隠れた貧困というのでしょうか、こんなこともありました。
ある小6の女の子は、他の6年生の子たちに比べるととても小柄です。勉強は一生懸命する子でよく出来ました。あるとき、この子が休憩時間になると急いでおやつのところに行く姿を見て、もしかしたらお腹がすいているのではないだろうか、と思うようになりました。急遽お母さんと面談をしたところ、このお家の家計がたいへんな状況であることが分かったのです。食材も満足に買えず、服や生活用品も他からの貰い物でしのいでいるということでした。NPOからもできるだけの物品支援をして、その他(民間や公的な)支援も受け入れるようお母さんに提案しました。でも、お母さんとしては、「困ってはいるが、子どものためには公にできない」という複雑な心情の吐露がありました。子どもの名前が知れて学校や周りから、どんな目で見られるのか、それが怖いのだと話してくれました。このお母さんからは、お子さんが中学に入るとき、準要保護申請を出したが制服が買えないという相談もありました。いろいろ調べて、リサイクルの制服が貰えるところを教えたり、また個人的にもさまざまな伝手を頼って、何とか入学前に制服一式を揃えることができました。こうして、子どもたちの厳しい状況を垣間見て、こんな身近にこのような子どもさんたちがいたということを知った時、今までの自分は本当にのほほんとして生きていたのだと思いました。とても衝撃的でした。TVや新聞などで、子どもたちに忍び寄る格差や貧困について知ってはいたものの、どこか自分とは違う世界のことのように感じていたのです。自分の目で見るということがいかに大事かということを思い知らされました。学習会の子どもたちのことがとても身近に感じられるようになってきました。
心のケアと二年目の歩み
1年目後半からは、勉強と並行して「心のケア」というプログラムを積極的に取り入れるようになりました。それは主に、『遊び』と『心の天気』というワークです。休憩時間に、子どもたちは大人と外に出て鬼ごっこをしたりして走り回ります。このときは、男性ボランティアスタッフと学生さんたちが大活躍です。思いっきり外の空気を吸ってくると、子どもたちの顔は生き生きとしてきます。大きな声で笑います。気持ちの切り替えも上手にできるようになりました。 『心の天気』とはフォーカシングを応用して、自分の心の中の気持ちを、お天気や心象風景を描くことで表現する作業です。晴れが良くて雨が悪いということはありません。土砂降りや雷の日もあります。子どものどんな気持ちも批判・否定をせず、ありのままの気持ちを大事にします。子どもたちが自分の中にある『なにかもやもやした気持ち』を絵で表現できた時、ほっとしたような表情を浮かべることがあります。氷がとけだすかのように、自分や家族のこと、幼い時の家族の思い出などを話し出すお子さんもいます。傷ついた子どもたちのケアは早ければ早いほど回復につながるのだそうです。子どもたちの心に丁寧に寄り添いながら、安定した学習姿勢が身につくよう、全力で取り組んでいます。
昨年夏には、県の母子会主催の無料学習会が玉村町にも立ち上がり、講師と運営を「ひこばえ」がお手伝いをしました。玉村教室も随時10名以上のお子さんが参加してくださり、盛会のうちに第1回目(7月~2月の8か月間)が終了しました。6月からは第2回目(8か月間)が再スタートします。
前橋教室は3年目に入ります。夏はバーベキュー大会、秋はハロウインパーティー、冬はクリスマスパーティー、3月は学年末修了パーティーと、イベントも積極的に取り入れています。修了パーティーでは、卒業する6年生のために、講師全員で心をこめて書いた寄せ書きを贈ります。今年の修了パーティーは皆でカレーを作って食べました(写真)。
子どもも大人もすべてを子どもも大人もすべてを忘れて楽しめるイベントタイムは、誰もがホッと気持ちを休めることのできる大切な心のオアシスタイムとなっています。
今後の「ひこばえ学習会」の課題は、ボランティア講師不足の解消と、固定の学習会会場を見つけることです。また会の運営資金は企業などからの助成金が頼りの状況です。子どもたちの幸せな未来のために、多方面からのあたたかなご助言・ご支援をいただけると嬉しいです。本日はお読みいただきまことにありがとうございました。