パートナー通信 No.83
- 1. 2021年6月/No.83(通算99号)
- 2. 特集「子どもの意見表明権」①生徒から学び、生徒と楽しむ
~高校生徒会活動~竹島さち子(埼玉県・上尾市) - 3. 特集「子どもの意見表明権」②子どもたちは権利の主体です
=the child as a subject of rights
-意見表明権と参加-加藤 彰男(群馬子どもの権利委員会代表) - 4. シリーズ「『第4・5回最終所見』を読み解く」②一般的実施措置に関する勧告芦田 朱乃
- 5. 第8回 かがやき食事会
- 6. 会員からのお便りパートナー通信No.82の感想・近況
- 7. かわいい「ひな人形」をありがとう!JOYクラブ 関口 信子
- 8. 子どもの最善の利益をめざす
全国各地の活動を(勝手に)紹介No.3
特集「子どもの意見表明権」①生徒から学び、生徒と楽しむ
~高校生徒会活動~竹島さち子(埼玉県・上尾市)
はじめに
私立女子中高(東京)に33年勤め、この3月に退職しました。最後の2年は高校生徒会の主顧問として生徒と楽しい学校生活を送ることができました。その様子を紹介します。
生徒の声を実現する試み
生徒の声を学校に反映する活動こそ、生徒会役員が一番力を入れるべきことと考えます。これは役員もそう思っているところで、役員選挙ではそう述べる生徒が多いです。
しかし、実際は毎年恒例の学校行事の準備・運営などをしているうちに任期が終わってしまうことが多かったようです。
そこで私は、生徒が希望してきたこと、提案してきたことを一緒に考え、実現できるものはしていく、という基本姿勢で関わってきました。
① 文化祭でのステージ企画
旧校舎の時には行われていたのど自慢などの企画の復活を生徒が望みました。 新校舎になり、文化祭当日に小学生への学校説明会をするため、場所がなくなったのが一因でステージ企画がなくなりました。受験生への広報活動が在校生の活 動より優先される傾向があることに異議も持っていたので、生徒と一緒に企画案を練り、職員会議で認められることとなりました。生徒の案が優れていて、また教員や学校の考えにも耳を傾け、何度も変更した案作りをする生徒たちの柔軟さと熱意に学ぶことが多かったです。
② 目安箱の見える化
生徒の要望が、巣箱のような「目安箱」に入れられるようになっていたのですが、あまり活用されていませんでした。他校の生徒会役員との情報交換会で、訪問した学校の廊下のホワイトボードに生徒の要望が書かれていることを目にし、痛く感激した役員が同じような改革をしたい、と申し出ました。役員会でその方法を考え、ホワイトボードではなく、書いた紙を透明のポケットに入れる形で実現しました。(写真)こうすることで、いわゆる不平・不満ではなく、学校の問題をみんなで解決するために気づいたことを書く、という方向性がはっきりしました。
寄せられた文に関して、役員が積極的に関係する先生に質問に行き、その回答を書くようにしていきました。
社会に働きかける活動
① コンタクト空ケース回収
他校との交流で、コンタクトレンズの空ケースを回収して再利用に役立ててもらう活動を知りました。メーカーを問わず同じ原料で作られていてリサイクルしやすいそうで、回収作業は障害者の就労支援にもなり収益は視力障害の方のために使われるとのことで、参加することになりました。かなりの数が集まり、生徒が参加しやすい活動でした。沈滞しがちな静的な日々の生活の中で、雑談しながらアルミシールをはがしたり、学校中の回収箱を回ったりと身体を動かす動的な活動ができて良かったです。
② ベトナム募金
他校でベトナムに海外研修旅行で行って枯葉剤被害者の話を聞いた役員が始めたベトナム募金に、協力することになりました。私自身、ベトナムのことには関心が高く、ベトナムに行く予定もあったので、募金を届けることになりました。役員はより多くの生徒に参加してもらうために、教室で教員からの呼びかけもしてほしいと、パワポを作成し、職員会議でプレゼンしました。
コロナ禍での活動
① オンライン文化祭
せっかく盛り上がってきた生徒会活動でしたが、3,4,5月の休校期間中は何もできませんでした。学校が再開したその日、文化局長がやってきて、文化祭はどうなるのか、やらせてほしいと懇願しました。しかしながら、再開しても部活はできず、準備もできないため、例年通りは難しく、それでも中止ではなく、オンラインで、感染防止をしつつできる範囲での文化祭にすることにしました。
文化祭実行委員や役員はしっかり切り替えて、オンラインでできることを考えました。そのためには生徒会役員や実行委員のGoogle Classroom、そして全生徒がメンバーになる生徒会Google Classroom の立ち上げを行い、それを活用することになりました。
フォームで文化祭テーマ投票を行ったり、表紙絵を集めたり、企画への参加をしてもらったり、各部や有志の作品を投稿してもらったりしました。 生徒会役員が企画したモザイクアートでは、思い出の写真を集めて文化祭テーマの「ソレイユ(ひまわり)」を完成することができました。
文化祭実行委員企画では、自分たちの悪い所を改善すべく、「永遠に実施されることのない校則を作ろう」と「道で3人以上で広がって歩いている人は騎馬戦の隊形で登校すること」「100デジベル(電車の高架下くらい)の声で話したら、3階でコサックダンスして体力消耗」などの妙な校則も生み出していました。
「新型コロナウイルスの影響で揺れる教育。 当事者・現場の声を挙げましょう」とか、 「世界各国・地域の女性首脳のコロナ対策への意見・感想募集」というものもありました。
② オンライン役員選挙
役員選挙は各自が撮影した動画を繋げて放映し、フォームで投票する形にしました。投票率のことを考えて、学校で投票させようと考えてくれた先生方もいましたが、選挙管理委員の生徒から、タブレットでは、投票が見えてしまうので良くない、との声があがり、家での投票になりました。言われたから投票するのではなく、自分の意志で投票するという経験にもなり、そちらの方が教育的だとの判断もありました。投票率は51%くらいでした。そのことも生徒たちに知らせ、今後の投票に活かしてほしいことを伝えました。
③ オンライン役員会
「会議ってこういうことだったな」と生徒のオンライン役員会を見て学ばせてもらいました。職員会議では、挙手して賛否を問うことがなくなって久しくなっています。コロナ禍では一層です。でも生徒の役員会ではそれぞれがお手製の〇と×の紙をあげて、ひとつひとつ合意を得ながら話を進めていました。多数決で終わりではなく、〇の人の意見と×の人の意見をそれぞれ聞いていました。高2は高1への配慮もしていて偉いな、と思いました。ただ、時間がかかることは確かで、時には進行の優先順位などこちらから発することもありました。
3学期にまた休校になり、オンラインで生徒が楽しめる企画がないかを役員会で考え始めました。じきに学校再開になったため実施できませんでしたが、試しに役員で行った「物持ってくるしりとり」は愉快でした。各自、家の中のものを持ってきてしりとりをするわけです。オンラインの集まりの始めのアイスブレイク(和らいだ雰囲気づくり)にお薦めです。
④ オンライン目安箱
3階ラウンジに見える化した目安箱に加え、生徒会Google Classroomにも目安箱を設けたいとのことで始めました。「マスクで苦しいので授業中、飲み物を飲んでも良いようにしてほしい」「修学旅行が中止になったが何か代替行事がほしい」「エレベーターに割り込む人がいる」「ゴミ箱が撤去されて不便」「休日に自習室を解放してほしい」「化粧をゆるしてほしい」「シトラスリボンプロジェクトに参加しよう」等々いろいろ出てきました。どれを優先して扱うかを役員会で話し合い、行動し始めたものもあれば、クラスで話し合うとか、中央委員の意見を聞くとか、他の委員会や有志と協力するとか今後を探っていこう、と止まっているものもあります。
⑤ 昼の音楽放送
食事時の会話が特に感染リスクが高いことがわかってきたため、「昼食時はアクリル板を立て、前を向いて黙って食べること、教員が見回ること」が学校の決まりとなりました。そこで、生徒会役員から、居心地の悪い空間にならないように、音楽を流すことの提案がありました。役員がリクエストフォームを作り、CDを貸してくれる人と連絡を取り、紛失、損傷しないようにするにはどうしたら良いかなど話し合って実現しました。高1役員が中心にやってくれるようにお願いしました。まだ距離のあった役員たちが良い仲間になってきたし、責任感を持ってやってくれるようになりました。生徒のリクエストはそれぞれ情感のある素敵な曲で私も楽しむことができました。
終わりに
これらの生徒会活動が楽しく進められたのは先生方の協力あってこそのことでした。生徒指導部長が同期の親友で、同じ学年を担当したときにはいつも相談に乗ってもらった尊敬する教員で、生徒の声を聞く姿勢、生徒を育てる姿勢があったこと。中学生徒会主顧問が理系で、オンライン文化祭を始め技術的なことでは彼女に負うところが多く、現状分析がしっかりしていて、気も合って、いろいろ話し合いながら冗談を言い合いながら、新しい試みに挑戦できたこと。過去に同じ学年を担当した先生方や、芸術科を始め生徒の情操を大切に考える先生方や若い教育熱のある先生方が積極的に参加したり応援してくれたりしたこと。
本当に充実した2年間の生徒会活動でした。ただ、いくつか気になりつつできなかったこともあります。①生徒会予算や会計報告が形式的になっていること―社会人になって属する団体や地方自治体、国の財政に関心を持つためには学校で、もっとそこに力を入れるべきでは? ②校則は守るもの、という見方ばかりでなく、より良いものを作るもの、そしてそれは生徒も十分意見を反映できるものであることを感じられるような活動ができなかったこと―リュックについてオンライン目安箱でかなり話題になり、生徒の意見を聞くフォームアンケートを作り始めましたが頓挫してしまいました。来年以降、さらに生徒会活動が発展していくことを願って現場を離れます。
- 生徒会役員としての活動は役員として何をすればいいのかわからず受け身の状態からのスタートでしたが、少しずつ自分の伝えたい事や相手の意見に対する改善点や提案を言えるようになりました。
- 今年はオンラインでの会議がたくさんありましたが、先輩方が普段から発言しやすい雰囲気を作ってくださっていたので、学年を気にせずみんなで意見を出し合うことができました。
- 学校行事に受身で参加するだけならその日の何時間かで終わります。しかし、生徒会役員として学校行事などに関わり運営する側になると、簡単に見えることも沢山の段取りや準備があり、想像以上にひとつのことを創りあげ、無事に行うのは大変なことでした。目安箱の活動では生徒がどんなことに困り、どんなことを望んでいるのか想像をふくらませることを意識しました。これからのことを予想して行動したり、他人のことを考えて行動することを学べたと思います。
- 生徒会役員になるまでは自分なんて約1500人の1人でしかないし学校の言うことに従うだけで意見が通る訳ないと思っていました。しかしオンライン目安箱の設置により学校と自分が何だか身近に感じられました。生徒と学校を繋ぐツールは必要だと思います。
- 生徒会役員として行事や学校生活に関わることで、行事一つ一つを作り上げていくことの大変さや、自分達と立場の異なる先生方・生徒との連携の難しさを知りましたが、その分生徒会活動で得た達成感や経験は何にも代えがたいものになりました。
- 生徒会役員を4年務めて分かりましたが、生徒会で求められる力は他では得られないものでした。学校はただ勉強するだけでなく、これから社会人になる上で大切なことを学ぶ場だということに気づけたのは役員だったからだと思います。当時は大変でも振り返れば楽しくて充実していたというのは素晴らしいことだと思います。