パートナー通信 No.85

シリーズ「『第4・5回最終所見』を読み解く」④H.教育、余暇、および文化的な活動
(第28条から第31条)関口 信子

職業訓練とガイダンスを含む教育

 今回の勧告では、いじめ防止対策推進法および学校におけるいじめの発生を防止する反いじめプログラムとキャンペーンのもとでいじめに対抗する実効的な措置を実施すること、あまりにも競争的な制度を含むストレスフルな学校環境から子どもを解放することを目的とする措置を強化することなど、ますます課題を増すいじめ問題と学校環境についての改善を求める内容となっている。
 過去3回の勧告では、過度に競争的な教育制度が子どもの心と体の健康に否定的な影響(いじめ・不登校・自殺等)を与えることへの懸念を指摘し、学校システム全体を見直すことを勧告していた。
 しかし、今回の勧告では、日本の子どもたちの受ける学校ストレスは一層強まっているという認識のもと、「あまりにも競争的なシステム」を含む「ストレスフルな学校環境から子どもを解放する」ための対策強化を政府に強力に求める勧告となっている。
 それは、「競争(competitive)」を形容する言葉の変化からも読み取れる。1998年の第1回最終所見では、highly competitive (激しい競争)という競争の強さで表現されている。次の2004年の第2回最終所見では、excessive competition (度を越した競争)と免脱の程度を示す表現となり、2010年の第3回最終所見ではextremely competitive (極度の競争)と、最大級の表現で競争の強さを印象付けた。そして今回の第4・5回最終所見は、overly competitive (あまりにも競争的)となり、行き過ぎを指摘する意図を含む「このままで良いのか?」というニュアンスとなっている。「ストレスフルな学校環境からの子ども達の解放」は今すぐに手を打つべき対象へとバージョンアップしている。
 これまでの勧告は、学校システム全体の見直しで抽象的な制度改善で焦点化しにくかったが、今回の勧告では子どもの置かれている学校環境の具体的改善を求めた。この課題を国連のSDGs (2030年までの達成目標)の ターゲットに直結させて位置付けた点が画期 的であると言える。
 SDGsが求める「質の高い教育の提供」の課題の実現目標のひとつである「安全で非暴力的、包括的、効果的な学習環境を子ども達に提供する」というターゲットの具体的目標に「ストレスフルな学校環境から子どもを解放」することが位置付けられた。いじめ、不登校、自殺など、子どもたちのストレス指標の数値の低下につながるようなより具体的で実効的な取り組みが政府にも市民側にも求められている。

乳幼児期における発達

 今回の勧告では、保育をHの章に位置付け、「乳幼児期における発達」というタイトルで、包括的に保育問題が取り上げられた。国連は、教育分野と同様の問題性を保育分野にも認めていると解釈できる。
 勧告では、政府が進めている待機児童の解消を理由とした保育に関わる指定基準の緩和・後退及び市場化に対し、国連が警鐘を鳴らした。幼児教育・保育の無償化は国家の責任として検討しなければならない課題だ。

休息、余暇、リクリエーション活動、および文化的、芸術的活動

 31条は、休息、余暇、遊び、リクリエー ション活動、文化的生活、および芸術に関する6つの権利が謳われおり、条文からこぼれた権利の寄せ集めと揶揄されたり重要に扱われなかったりしたという経緯がある。そこで国連子どもの権利委員会は、2013年、ゼネラルコメント(総合的解説)No.17でそれぞれの権利の定義を明確にし、重要性を解説した。
 今回の最終所見では、31条の内容が独立して勧告され、ゼネラルコメントNo.17で到達した国際的水準にたった理解の必要性や子どもたちに十分な余暇と自由な遊びの時間を保障する必要性、子どもの遊び・余暇・文化芸術活動の保障に向けて継続的に十分な予算を伴う政策を立案することなどが勧告された。
 政策立案とその実施の必要性が指摘されたことは、今後の取り組みにとって重要な視点が提起されたもので一歩進んだ実効性のある勧告となっている。


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