パートナー通信 No.86
子どものネットトラブル予防専門サイト
「親子のための保健室」
『新しい予防教育』としての法教育
Aki行政書士事務所 代表 田中友里
今、子どもたちのネットを介した様々なトラブルが社会問題となっていることをご存知ですか?
その内容は多岐に渡り、最も身近なものにネットを使いすぎてしまう依存の問題があります。ゲーム依存(この場合のゲームはオンラインゲームを指します)、スマホ依存、S N S依存、これらをあわせて「ネット依存」といいますが、このネット依存の問題は大人でもギクリとくる方がいらっしゃるのではないでしょうか。アンデシュ・ハンセンというスェーデンの精神科医の著書「スマホ脳」の中でも"スマホは私たちの最新のドラッグである"と例えられているように、大人がネットの誘惑に振り回されている現状からみても、脳の発達過程にある子どもたちへの影響は更に顕著に現れることが心配されます。実際に横浜市の調査では小学生の10人に1人はゲーム依存気味であるという結果も出ています。この問題は年々低年齢化しており、それには昨今のコロナ禍による生活様式の変化やG I G Aスクール構想による小学1年生からのタブレット支給などの環境も影響があることと思います。
依存の他にも誹謗中傷をしてしまう・されてしまう、違法行為を動画撮影しネットにアップしてしまうなどの違法の問題、L I N Eいじめを始めとしたコミュニケーションの問題、オンラインゲームのガチャやスキンの購入、ライブ配信者への投げ銭など金銭感覚がなく利用してしまう課金の問題、そして詐欺メールやなりすましなどの所謂、騙されてしまう問題の5つに分類することが出来ます。
ネット上のトラブルはこの5つのどれか、または複数が組み合わさり起こっていますので、それを理解することで予防方法がみえてきます。
今あげたようなトラブルは問題となってからの対処が困難です。また依存の場合は精神科の病院、違法の問題は警察や弁護士、といったように対応先が全て異なるので複雑です。
このようなことからも予防の必要性を訴え、ひとつの窓口で全てのネットトラブル予防を目指すのが、私の運営する「親子のための保健室」です。ホームページから問合せをいただき、オンラインや対面でお悩み相談を受け、子どもたちをネットトラブルから守るための対策を一緒に考えます。
具体的には子どもにデバイス(スマホやタブレット、パソコン、ゲームなどのインターネットに繋がる機器)を持たせる際の「デバイス利用のルール」の決め方のアドバイスをし、その後親子で話し合っていただきます。そして親子で決めたルールを「親子のための契約書」という冊子にまとめてお渡ししています。この「親子のための契約書」は法的な効果はありませんが親子間で実際の契約体験を通して社会のルールを身につけることができ、親子間で納得して合意した上で約束を取り交わすことでお互いに責任を持って約束を守る意識が高まる効果が期待できます。
話し合いのポイントとして、例をひとつご紹介すると【なぜルールを決めるのか、どのような危険から守りたいのか】をきちんと子どもに伝えてもらいます。例えば依存症という自分でゲームを辞めたいと思っても辞められなくなってしまう病気があること、オンラインゲームで知り合った人に連れ去られてしまったという事件があったことなど具体的に話します。この「なぜ」の部分がきちんと子どもに伝わることで子ども自身がルールを受け入れやすくなります。ルールを一方的押し付けると子どもは反発し、そしてルールが嫌いになってしまいます。ルールの範囲で楽しく安心して遊べることを経験すると、将来は自ら目標を達成するためにルール設定をできるようになります。そのための練習の場になれたらいいなと思っています。
そしてもうひとつ、「ネットを利用する前に知っておきたい社会のルール」も親子で一緒に学んでいただきます。
社会のルールとは具体的には法律を指しています。子どもに法律を教えるの?と疑問に思われるかもしれません。昔は子どもに法律を教えるという感覚はなかったと思います。しかし今の子どもたちは小学生からネット社会に足を踏み入れます。ネット社会も一つの「社会」といえますのでここでも社会のルール=法律が適用されます。私たち大人は経験則でこの社会のルールを身に付けていますが、子どもたちは違います。社会のルールは知らないけれどネットを利用する子どもたちにこそ法律をわかりやすく、身近なものとして教えてあげたいと思っています。また今年4月より成年年齢引き下げとなり、より一層子どもたちが法律を学ぶことの必要性は高まることと思います。
また法律をただのルールとして伝えるのではなく「法的なものの考え方」も伝えるようにしています。これを【法教育】といい、この考え方を取り入れることで親子が対等な目線で話し合い、親が子どもの意思や権利を尊重した姿勢で接することで、子どもとの社会性と共に自尊感情を育むことを促しています。
例えば親子の会話の中で子どもの「ゲームをしたい」という気持ちを親が「何言ってるの!」と頭ごなしに否定すること、日常生活で見受けられることと思います。しかし子どもからすると、ゲームをしたいという素直な感情を抱くことを怒られる、否定されてしまうと自分の意見を言わなくなり、親への不信感を持つ要因となります。法教育では「気持ち」の部分は受け入れ、受け入れた上でどうしたらいいかを一緒に考えます。子どもの気持ちを否定しない親の姿勢は、ネガティブな感情も親に言えるという安心感に繋がります。そして万が一、トラブルにあった際も真っ先に親に相談できるため、被害を最小限に抑えることができるのです。
そして先程ご紹介した「親子のための契約書」の作成過程でこれらの要素を網羅することができます。10の家庭があれば10通りの環境の違いがあり、適切なルールも変わってくるはずです。これが正解というものはありません。また、子どもは学年が上がるごとに生活環境や交友関係も変わりますので毎年更新することをお勧めしています。ネットとの関わり方は親もまだ手探りの状態だと思いますので、その時々で「子どもにとって一番いいことは何か」を子どもの意見を聞きながら一緒に考える。ということが大切なことだと思います。そのきっかけ作りになるのがこの「親子のための契約書」です。子どもを縛るためではなく守るため、親の愛情を伝えるためのツールとしてご活用いただければと思います。
そしてこれらの子どもの接し方について「子どもの権利条約」の精神を取り入れているところが私の法教育の特徴です。実は法教育というのは「法律の条文と法的なものの考え方を教えること」なので本来、条約である子どもの権利条約を取り入れることはないのですが、私は「法」という括りであるということと、日本の子どもたちに関する法律(児童福祉法など)は「子どもの権利条約の精神」に則り作成されておりますので、子どもたちのための法教育に特化している親子のための保健室では子どもの権利条約を用いることが妥当であると考えています。
このように「親子のための保健室」では法教育の要素を用いて親子間のコミュニケーションのサポートや、子どもたちが法律を知ることで社会のルールを学び、「自分で自分を守れる強さ」を身につけてもらうことを目指しています。また、社会のルールを知ることは大人になってからも大切な知識となります。社会人向けの研修でもこの法教育と法的なものの考え方を「コンプライアンス研修」「リスク管理研修」として実施させていただいております。この考え方の基礎を子ども時代に身につけることは社会人となった先を見据えても有効な経験となります。
そして法教育は「守る」だけではありません。G I G Aスクール構想やeスポーツ選手の育成等積極的にネットを活用するためにも取り入れていただくことで効果を発揮します。これが「新しい予防教育」として認知していただけるよう働きかけを行っています。
私は行政書士として、1人の母親として、社会に出ていく子どもたちの自立をサポートすることで一人一人が輝ける社会に向かっていくためにこれからも法教育の普及に力を入れて参ります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。