パートナー通信 No.92
- 1. 2024年1月/No.92(通算108号)
- 2. 年頭のご挨拶 代表 加藤 彰男
- 3. 活動報告 4年目のお米プロジェクト 事務局長 芦田 朱乃
- 4. 群馬子どもの権利委員会30周年
みんなで楽しもう!「子どもまんなかフェスタ」 フェスタ実行委員 清水紅 & 関口信子 - 5. いつも子どもの笑顔と成長を願って
――「連絡会」の事務局を担って思ったこと―― 群馬県保育問題連絡会 石川芳子 - 6. パートナー通信91号「人権と教育を希望に」への返信
ジャニーズ問題から人権と性教育を考える 小林 美代子 - 7. 会員からの寄稿「笠懸図書館に自衛隊がやってくる」の問題について
群馬県高等学校退職教職員の会 須田 章七郎 - 8. こどもぺえじ
- 9. 会員からのお便り パートナー通信No.91の感想
- 10. 世話人会だより みんなで遊ぼう! あおぞら学校
芦田 朱乃
いつも子どもの笑顔と成長を願って
――「連絡会」の事務局を担って思ったこと―― 群馬県保育問題連絡会 石川芳子
1、「コロナだからしょうがないよね」という思いを考える
<コロナ禍の「保育」は>
2020年の年明けから、全国各地でコロナウイルスの感染症が猛威を振るい始めました。全国で一斉休校が実施されるなか、保育所は原則開所が求められます。給食室の職員が全員コロナ感染で出勤できなくても、お弁当持参で登園するよう保護者にお願いしました。毎日消毒と検温、子どもたちの食事も向かい合うことなく机を並べ、お昼寝もどこに誰が寝ているかメモを取りながら、感染対策を徹底した保育でした。それでなくても忙しい日常に、コロナ感染拡大という初めての緊張を伴う事態を受け止めることは、未知の経験でした。
園長は、非常事態宣言が出された当時は、「感染者からの連絡に携帯電話を離せず、トイレやお風呂にも持参していた」「自治体担当者との連絡は24時間対応だった」と振り返ります。
運動会や遠足、保育参観、クラス懇談会、プールや水遊び、スキーや海の合宿、夏まつりやバザーや、また卒園式や入園式などの方法には、ずいぶんと知恵を絞って開催していました。保護者会役員や各クラスの保護者と相談しながら、「どんな時にも子どもたちに楽しい保育生活を」と、努力の日々を過ごしていました。
「コロナだから仕方がないよね」との言葉がつい頭をよぎります。普段でも忙しい仕事の毎日では、「何もできなくてもしょうがない」との弁明で済ますことはできますが、「コロナ禍でもできることはなにか」を各園の職員会議で話されたと聞きました。
以前現役時代にある恩師に「保育士は身体全身が教材。表情や態度や声の調子まで子どもは受け止める。そのために季節の変化に心をとめ、たくさん歌い、本を読み、空を見上げ、木々の姿や地面の凹凸を感じること」と言われたことをいまだ忘れていません。
このコロナ禍の保育は、子どもたちを抱きしめ、みんなで手をつなぎ、集まって本を読み、友だちができなかったことができた時に一緒に飛び上がって喜んで輪になることなど、ほとんど自粛することばかりでした。マスク越しに子どもたちに思いを伝えることは難しいことでした。それでも運動会の内容の工夫と時間短縮、保護者の参加を二部制に、海や山の合宿保育も貸し切りにして実施し、その時その時の思い出を子どもたちと共有することを大事にしていました。幼児期の日々変化を見せる成長を思えば、自粛だけの保育で済まされることではなかったのです。このことは、コロナ感染拡大以前の保育の内容が豊かで、どんな状況になっても対応可能な保育実践の積み上げがあったこと、それを考え合える職員集団が存在したことだったと思います。
<給食は生きるちから>
急な発注やキャンセルも相次ぎ、時には献立を変更して、在庫の食材で調理することもあり、「今日は何食作るのか」「ある食材で作ろう」など大変苦慮する毎日でした。近くのスーパーに買い出しをすることもありました。
子どもは給食が大好きです。自園方式の保育園では、その日の献立の匂いが園内に広がります。友だちと楽しく過ごし、その後のおいしい食事は無くてはならない保育の一環です。なによりも、朝7時から夕方7時までの長時間保育を保障するのは、安全でおいしい食事があることが大切で、コロナ禍で子どもの生活が豊かに過ごせたことは「給食室の存在」が大きかったと思います。
<保育園は保護者とともに>
2023年5月にコロナ感染症が5類に区分され、季節インフルエンザと同様の取り扱いになり、マスク着用も個人の判断となりました。
コロナ感染拡大の3年間で、園と保護者会との共同の行事実施には制限がありました。保護者会活動の困難さもありました。保育園行事に直接参加する、バ
ザーや保育参観や各クラスの懇談会などは、「ホールなど広い場所で」「バザーは小規模で子どもが楽しめるもので」「やっぱり楽しいことはしたい」と努力を尽くして開催していました。3年という年月は保護者とともに「保育園」は存在することを知る機会を失い「保護者会活動」の経験なしの保護者が今はいます。
2023年になっていま、「やっぱり対面で集まろう」と、「保護者会長交流会」が呼びかけられています。やはり、「子どもも元気で大人も一緒に過ごしたい」という意見が出され実現の運びとなりました。来年には全ての園に呼びかけて、イベントが開催できないかと保育センター保護者部会の集団が動き出しています。
2、国の保育施策は、保育現場の求めに応じているか
<「こども未来戦略方針(2023年6月閣議決定)――異次元の少子化対策>
この方針の主な点は以下の①と②の2点です。
①75年ぶりに保育士配置基準の改善に言及しました。
1歳児6人に1人の保育士の配置を、5対1にすること。4・5歳児30人に1人の保育士を、25人にするとしていました。
◆12月7日の報道によると、年内に閣議決定するとしていた「こども未来戦略」に、こども家庭庁は、2024年度から、保育士1人で見る4・5歳児の数を、現行の30人を25人とする方針を決めました。1歳児は25年度以降に対応するとしていますが、確実な実施の保障はありません。1歳児の配置基準の改善も24年度実施を求めます。配置基準見直しにあたっては、加算対応ではなく、法令自体を改正しないと充分ではありません。
◆4・5歳児25人に職員1人の配置になっても、子どもが50人にならないと2人体制にならない仕組みは残ります。26人になれば、2クラス編成でそれぞれに職員が配置できるよう改善を求めます。
◆また、配置基準の改善とともに、処遇の改善が伴ってこそ、保育士の離職率を下げることにつながり、保育士不足解消の確かな手立てとなります。
②「こども誰でも通園制度(仮称)の創設」の問題点
「こども誰でも通園制度(仮称)の創設」は、多くの問題を持っています。2025年度から恒久化し、全国展開は26年度からとしています。本格実施に向け本年度から「試行施設」でのモデル実施が開始されます。
◆保護者の就労の有無を問わず、全国の自治体の、保育園や認定こども園などに入園前の6か月から2歳までの全ての子どもが対象です。市町村は関与せず、直接希望施設に申し込めます。多様な事業者が参入し市場化も見込まれています。
◆現在は1か月10時間まで利用可能で、この10時間の範囲で自由に申し込みできます。例:群馬の人が沖縄に旅行して、受け入れ可能な保育所があれば子どもを預けることができます。利用料金は、1時間300円とされています。
◆離乳食対応や障がいを持っている子の対応、短時間の保育でも保護者にゆきとどいた援助が求められ、日常保育の子どもとの関係など、現場にさらなる負担を強いる可能性が大きいです。1歳児の職員配置基準の改善もないままの実施に強い懸念が出されています。
私たちは、いつでも子どもの笑顔と豊かな発達保障を求めて保育を担っています。「子どもが好き」で保育所に働き始めても、長時間労働、低賃金の保育園では長続きしません。
3、国・自治体に向けて行動
<県内36自治体と懇談して>
私たちは、2009年の秋から全ての自治体と懇談を続けて15回目の秋を迎えました。今年は11月15日に群馬県との懇談で終了しました。主な要請項目は、保育士の配置基準の改善を求めるものでした。上記の政府の文書でも明記されていることもあって、各自治体の担当者も高い関心を示していました。「県の市長会を通して全国市長会へ配置基準の見直しを求めた」とある市の部長から発言がありました。すでに自治体単独のゆきとどいた配置基準を設けて実施している自治体もありました。各自治体の議会へ提出した「保育士配置基準の改善を求める国への意見書」採択は、国の動きもあって関心が高く、多くの自治体から意見書が提出されました。
<保育署名で街頭宣伝 署名を持って国会へ>
「保育制度の改善を求める国会請願署名」を今年も取り組んでいます。昨年度は、県内から62,328人の署名を国会に提出しました。コロナ禍ではできなかった駅やスーパー前署名行動、一期生から全ての卒園生に返信用封筒を同封して署名をお願いしたなど、多様な行動が取り組まれています。1枚の署名の力は微力かもしれませんが、毎年繰り返して「請願権」を行使することは、基本的な民主主義の営みです。「なぜ署名をするのか」と今年も学んで署名行動がスタートしました。このことは群馬保育問題連絡会の大事な運動の心棒です。
コロナ禍の「署名をお願いしてもなかなか」との消極的な行動が、今年は一歩前にでた署名行動となっています。11月22日の国会署名提出行動では、20人で国会議員会館をまわり、群馬県選出国会議員へ要請を行い、若い保育士が懸命に現場の声を届けました。11月23日の日比谷野外音楽堂の保育大集会には、群馬から40人が参加し、銀座を久しぶりに大きな声を出してパレードをして「楽しかった」「反応が良かった」との感想が出されていました。
4、先輩たちの仕事を引き継いで
群馬県保育問題連絡会に参加する多くの保育園は、1960年代に国の認可を受け、現在50年を超えて地域になくてはならない存在となっています。
私たちは、子どもの幸せと成長への権利の実現には、世界と日本の平和が欠かせないと、保育の抜本的改善を求めて歩み続けてきました。
いま、パレスチナのガザ地区を実効支配する「ハマス」が仕掛けた軍事作戦を機に、イスラエルは空爆と地上作戦を続けています。子どもたちはどうしているのか心配です。即時停戦を求めます。今後も私たちは平和でこそ子どもたちの幸せが守られると、憲法の理念に基づいて行動していきます。