パートナー通信 No.94

報告総会2部学習会を振り返って世話人 田中友里

 令和6年度群馬子どもの権利委員会総会後の2部学習会では、「『こどもまんなか』というけれど、今、子どもに本当に必要なことは?」ということで長きに渡り子どもたちの支援活動を続けていらっしゃる御二方をゲストにお招きし、活動の背景や様子、そこから子どもの権利についてもみんなで考えるというものでした。内容が盛り沢山でしたのでここに書ききれないのですが、特に印象に残ったシーンや皆さんと共有したいことを私なりにまとめてみました。

 まず最初にお話しくださったのが群馬県内で2012年4月より現在まで無料学習支援を行なっているN P O法人学習塾H O P Eの代表を務める髙橋寛さんです。

HOPE髙橋さんの講演の様子

 経済的貧困を理由に塾に通うことができない子どもたちに個別指導の学習支援を行なっています。地域も拠点の高崎の他に前橋、安中、藤岡、玉村、甘楽…など広域に渡り対応しています。居場所づくりとしての「安心して学んで、食べて、しゃべれる場所」を目指していて勉強だけではなく子どもたちと直接接する中で安心できる場所としての必要性も感じ、地域で多くの役割を担っている活動でした。私が髙橋さんのお話の中で印象的だったのは「その子に合わせた指導」ということを何度もおっしゃっていたことです。学習意欲のある子どもにはハイレベル指導をすることや、その子に応じたやる気の引き出し方、学校での様子を聞く中でどの科目の何が分からないかを探るなど子どもたちとのやり取りも本気で、真摯に取り組んでいる姿勢がとても素敵です。もう一点、髙橋さんの「子どもが自由に意見を言う」ということを大切にしている姿勢も大変共感しましたので紹介させていただきます。今の学校教育は学習指導要領をこなすことに精一杯で、ある意味「子どもに意見を言わせないような授業」になっているのではないかという懸念があるということです。確かに子どもたちから都度異論、反論が出たら授業の進行が遅れることは目に見えておりそれを回避したくなる気持ちもわかります。家庭でも親が忙しい時に子どもが言うことを聞かないと困ってしまう状況があるのと似ているのではないでしょうか。でもそんな時に子どもの意見や主張を極力言わせないような威圧や雰囲気にするのではなく、最後まで聞くことやその通りにできないとしてもその理由を説明し子どもが納得することを積み上げていくことがこれも「子どもの意見の尊重」でありよりよく育つためのエネルギーになるのではと感じました。
 またボランティアでありながら個別指導というのは容易にできることではなく、各地域で多くの講師ボランティアを必要とします。その講師を引き受けてくれる人を探すことだけでも大変だと思います。講師同士での勉強会なども開催しているようで、それらをひたすらに続けてこられた中から感じることはどれも子どもたちを取り巻く環境の現状を映しているものだと感じました。

 次に2014年より前橋市内で不登校・ひきこもりなどの若者の居場所を提供するN P O法人ぐんま若者応援ネット「アリスの広場」の理事長、佐藤真人さんがお話しくださいました。

アリス佐藤さんの講演の様子

 佐藤さん自身が2度、計6年間のひきこもりを経験し、辛い思いをする中で同じ居場所に戻ってこられたということがその後の回復に大きく影響しアリスの広場も「戻れる場所がある」という安心感を感じて欲しくてこれからも続けていくという柔らかい物腰とは裏腹の強い信念をお持ちの方でした。そういった佐藤さんの背景があるためかアリスの広場は居場所としてだけでなく様々な体験活動や就労体験にも力を入れており、子どもや若者が社会に出るストレスを軽減できる取り組みをされています。「家でも学校でもない第3の居場所。社会へのステップとなる場」と仰っていましたが正にそうだなと感じました。子どもたちがアリスの広場に通う理由も「話し相手がほしい」という声が多いそうです。
 私自身の体験も踏まえて感じたことは例え家族であっても話しにくい内容やタイミングなどあると思います。私自身の幼少期を振り返っても「話す」言い換えると「自分の意見や気持ちを吐き出す」行為は親にはできない時期がありました。そんな時は私のことをよくわかってくれる友達や親戚の伯母さんなどに話した記憶があります。話し相手になってくれる人がいる安心できる居場所はそんな子どもたちや若者にとってかけがえのない大切な場所であろうと思います。
 小学1年生から受け入れており、ひきこもり状態から復学後のお子さんも来ているそうです。社会に出たあともアリスの広場に来る子もいるそうです。子どもの権利でも「安心・安全」な環境が大前提として必要とされていますが、家庭ではなく社会の中でその役割を担い実践しているのだなと感服です。家庭の中にいてもお子さんが孤立する事はあるでしょう。それは誰が悪いわけでもなく、成長過程のタイミングや親子であっても思いの違いによるところなど様々な理由で起こり得ることです。それを解消するために第3の居場所を見つけることや、安心して話せる相手を見つけることなど「不登校状態を解消する」ためではなく「心の孤立を防ぐ」ためにできること、という観点で子どもたちを見守ることも必要であると感じました。

 御二方とも10年以上子どもたちを支え続けた経験からの言葉なので一言一言に重みがあります。「変わらずにあり続ける」ことがどれほど困難なことか、私たちもそれぞれに感じるところがありました。子どもたちや社会の変化に応じて居場所としてあり続ける一方で絶えず工夫を続ける姿勢にも感動しました。子どもと共に過ごす活動をされている御二方は子どもを置き去りにすることなく、正しく「子どもまんなか」の活動だと思います。また子どものための活動をしている方々は普段交わることがなくとも、違う分野での活動であっても皆共通の想いがあるのだなと感じ、心強く温かい気持ちになりました。

 また、学習塾H O P Eは行政の委託を受けており、アリスの広場の活動は群馬県の「令和5年度群馬県ひきこもり支援のための広域的居場所づくり事業」の委託対象となっています。行政の助成金や寄付などが活動資金となっています。今後行政には積極的に支援を続けていただけるよう私たちも声をあげ続ける必要があります。ぜひ皆様のご協力もお願いいたします。
 地域に沢山のサービスや居場所があり、子どもたちが自分に合ったものを選び社会全体の中で守られながら健やかに成長していくことを願うばかりです。私も益々頑張ろうと気持ちを新たに決意するのでした。

橋さん(左)と佐藤さん(右)

≪参加者の感想≫

  • ◎感想:いろいろお話を聞けて良かったです。もっと情報交換・意見交換できる時間や場が欲しい。
     今の子どもに本当に必要だと思うこと:自主性。アウトプット。好きなこと、やりたいことをやれる自由な時間。自分を生きること(自己表現)。ゆとり。つながり(地域、社会)。一人ひとり尊重される温かい心の交流や人との関わり。家庭力(傾聴、甘えられる、受容)。教育のアップデート。
    (会外・都丸さん)
  • ◎感想:本当に子どものことを考えること(将来の日本を支えることができるように)。
     今の子どもに本当に必要だと思うこと:子どもの自主性
    (会外・髙橋さん)
  • ◎感想:大人(特に母親)も一緒に共にまんなかの気持ちも大事。
     今の子どもに本当に必要だと思うこと:大人に自然に甘えること。大人の顔色を見ない。
     今後の学習会テーマのリクエスト:子どもの本音ってどこで聞くことができるのか。
    (会員・南雲さん)
  • ◎感想:もう少し詳しく聞きたかった。違う場所でこんなに子どものことを考え、支えている人がいる。すばらしい。世の中捨てたもんじゃない。
     今の子どもに本当に必要だと思うこと:自由。遊び。時間。いろいろ気にしないこと。楽しむこと。好きなことを自分で考えて実行すること。あれもこれもしなくていい。
    (会員・清水さん)

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