Ⅰ 保育の現場から 1 子どもたちの笑顔に支えられて

2022年12月29日

金澤 真由美おひさま倉賀野保育園

 おひさま倉賀野保育園は、2006年度定員120名のところ、現在0歳児から5歳児まで142名の子どもたちが在園しています。
 保育園は今、さまざまなニーズを担う場になっています。そのひとつとして、「子育て支援センター的役割」があります。保育園だからこそできる子育て支援を目指し、給食の試食会、お父さんと遊ぼう、たんぽぽ広場、子育て相談、体験保育など、さまざまな企画を通して、お母さん同士が知り合う機会をつくっています。その他にも、一時保育(短期または短時間保育)を行っています。
 私は、現在5歳児クラスを担任しています。5歳児29人の子どもたちと担任2人の生活は、毎日がてんやわんやの大忙しです。もうひとりの担任・木村理恵さん(若い保育士)と笑い合ったり、泣いたり、喜び合ったり、時には親の苦情に2人して落ち込んだりしながらも、子どもたちと一緒にいることが楽しくて日々生活をしています。
 子どもたちは29人ですが、双子の子どもが2組いるので27世帯。そのうち心療内科に通院し薬を常用しながら子育てに頑張っている母親が3人、ストレスから入院し現在は社会復帰している父親が1人(現在、別居中)、聴覚障害を持っている父親が1人、母子家庭が2人、アメリカ人の母親が1人、発達に少し遅れのある子が1人います。でもそのことは私たちのクラスだけが特別なものではなく、どの保育園でも起こっている問題だということをお伝えしておきたいと思います。
 今回はその中で、3人の子どもたちのことをお話ししたいと思います。

* T君とともに

 T君のお母さんは、心療内科や児童相談所に通いながら、子育てをしています。
 保育園でのT君は、やんちゃでいたずらもすごいが、遊びをみつけていくのも上手。トラブルメーカーなところもあるので、友だちからも、保護者からも「T君が…」という苦情もいっぱいあります。その反面、散歩の途中橋を渡っているとき、「もうすぐ、ここから落ちて死ぬんだ」と言うT君の言葉に、担任2人はいつもヒヤヒヤしていました。
 あこがれの年長児クラス(らいおん組)になったT君とどんなふうに過ごそうか…担任2人の思いはどんどん膨らみましたが、子どもたちみんなにこれだけは…「かなちゃん(金澤)も理恵ちゃん(木村)もみんなのことが大好き。いっぱい!いっぱい!抱きしめたい!」ということになりました。

* T君とS君のトラブルが

  6月、T君のお母さんの病気が良くない状態のある日、夕方T君とS君のケンカが原因で、S君のお母さんをも巻き込んでのトラブルになってしまいました。その様子を迎えに来ていたT君のお母さんがずっと見ていたんですね。突然、T君のお母さんが怒りだし、T君の髪の毛をつかみ、保育園から引きずって帰ろうとしたのです。止めに入った担任に「T君がいつもそうやって、あばれたりするからお母さんはどこにも遊びに行けなくなったんだ。T君が悪いんだ。もう、こんな保育園来なければいいんだ」と言いだしました。
 お母さんと担任、担任の背中にいるT君、3人が涙でぐしゃぐしゃになりながらも、話をしていくうちに、お母さんの気持ちもやっと落着き、「大丈夫になりました。これから家に帰ってすぐに薬を飲みます。夕方はまだ飲んでいなかったから…」と言いながら、T君とお母さんは帰っていきました。後日、児童相談所のカウンセラーの方と連絡を取り合ったところ、その日の出来事をお母さんが話していました。「保育園であばれてしまったこと」「本当はT君を叱りたかったのではなく、S君のお母さんに腹をたてたこと」「T君を保育園から退園させようと思ったけれど、T君がどうしてもやめたくない!と言ったこと」など。T君もT君のお母さんもその後変わりなく、保育園に登園してきています。

* Uちゃんからのメッセージ

 Uちゃんのお母さんも心の病気で心療内科に通院しています。Uちゃんは2人姉妹のお姉ちゃん。お母さんはUちゃんのことはかわいくないけれど、妹のRちゃんはかわいいと、子どものいる前で言葉にしてしまいます。
 精一杯、背のびをしてお母さんの期待に応えようとするUちゃんは、家庭での姿と保育園での姿が180度違います。
 保育園に朝登園してくると、「おなかが痛い」と担任に訴えてくるようになりました。何日もそういうことが続いたある日、昼食が食べられなくなってしまいました。隣に担任が座ってもダメ!箸を持とうとしないUちゃんに、担任が一口食べさせてあげるとうれしそうに口を動かしはじめました。最後まで食べさせてもらって満足したUちゃんは、次の日からまた自分で食べられるようになり、「おなかが痛い!」と言ってこなくなりました。

* I君のお母さん

 5歳児のクラスになると、保育園では海合宿(1泊2日)があります。海がない群馬県で育っていく子どもたちに、海での体験をさせたいと大事にしている行事のひとつです。
 保護者の方にも付き添い(数名)をお願いしていますが、一緒に行事を体験することによって、子どもたち(自分の子どもだけでなく)の姿を見てもらいたいと考えています。
 今年は、I君のお母さんも付き添いとして行ってくれることになりました。I君のお母さんはアメリカ人です。もちろんI君自身も一目見て混血だとわかります。2歳児クラスの時、子どもたちが「I君のお母さんはヘン」と言って悲しませたことがありました。その時はI君のお母さんに声をかけ、生活の中でたくさんの体験をさせてもらいました。いまではI君のお母さんと仲良しの子どもたちです。海合宿の時、I君のお母さんに絵本を読んでほしいとお願いをし、日程の中に加えました。用意してきてくれた絵本は『ぐじぐじ』!英語と日本語!2つの国の言葉で読んでくれたお母さんの姿に、子どもたちは「あーおもしろかった」と口々に言っていました。I君のことを出かけた先できかれると子どもたちは、「Iくんは、おひさまほいくえんのらいおんぐみ!!」と答えてくれます。
 らいおん組の子どもたち29人が29とおりの自己主張!保護者の方もさまざまです。毎日の生活の中で、これでもか!これでもか!とたくさんの問題が起こるけれど…
 子どもたちとの生活は本当に楽しい!!大変だけれども喜びもいっぱい!!…と話し合っている担任2人です。保育園を巣立っていくまで、あと8ヶ月!!たくさんの体験を通して子どもたちの生活を豊かに!頭も体も心もかしこく!たくましく!成長していけるように、子どもたちのまわりにいるお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、地域の人たち、職員集団がともに手を取り合い、生活をしていけたらと思います。私たち担任2人も、まわりの人たちに支えてもらいながら、子どもたちとともに育ち合っていきたいと思います。

2007年の報告

Posted by gkodomo


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