Ⅰ 保育の現場から 2 今を生きる子どもたちに必要なもの

2022年12月29日

竹村 悦子(つくしんぼ保育園)

 現在、男の子14人、女の子10人、計24人の年長児を、元気のいい若い男性保育士と私の2人で担任しています。
 いろいろな状況の子どもたちが、いろいろな環境の中で育ち、入園してきます。私たちは、共に生きる一先輩として子どもたちと接していきたい、個性を大切にしながら一人一人が自分をいっぱい出せる生活をしていきたい、保育園の生活が楽しい事でいっぱいになるといい、と願っています。

*Mちゃんのこと

 Mちゃんは2歳の時入園してきました。入園した時は自分から何もしようとせず、食事も取れず、お皿もスプーンも持とうとせず、食べさせてやる時期が長くありました。少し慣れてきた頃、「何ができて何ができないのか様子を見ていこう」と話し合いました。「水道は友だちに『開けてよ!』って、けっこういばって言ってるよね」「~って言ったら靴はいたよ」「トイレは自分で行ったよ」「ごはんの時、放っておいたらお皿持たないで口をお皿につけて食べてたよ。食べたい気持ちはあるよね」・・・いろいろな事が見えてきました。
とにかく自分でできる事を見つけてほめていこうと確認し合いました。ごはんはおにぎりにしてもらい(家でパンとおにぎりは持って食べると聞いたので)、お散歩でいっぱい関わり、一緒にいて楽しい、うれしいという信頼関係を持つこと、体をいっぱい使ってお腹すいた、食べたいと思わせること等、生きていくための基本を1つ1つ確かめていきました。
 ブランコも怖い、すべり台も怖い、芝すべりも怖い、山の下りも怖い。もちろん水は大嫌い。リズムでも全体でパーッと飛び出していくような勢いのあるリズムには出られませんでした。Mちゃんが怖いと思う時必ずそばにいて、出来た時にはみんなで大よろこび(あまりオーバーになると泣けるのでほどほどで)。スプーンを自分で持って食べはじめた時も本当にうれしかった。芝すべりもいつも大人の背中に、前にくっついて滑った。ほんの2mほどの芝の坂を、クラス中で足のひっぱりっこ、すべりっこ。同じところでくっついて、転がって、滑って、笑って、登って、怖さがなくなるまで、1時間でも2時間でも遊んだ。Mちゃんもその中で一緒に笑えるようになった。Mちゃんは変わっていった。やりたいという気持ちが増えてきた。怖いけれど、応援され、頑張って、できると最高の笑顔で笑った。
 Mちゃんはほんとうは芯の強い、明るくやさしい女の子だった。5歳児になった今、まっすぐ立ち、凛とした声で歌い、しなやかな体で跳躍し、側転をする。時々、私たちのおしりをペチンとたたきニコニコ逃げていく。自分の意見をたくさん言うようになった。でも、まだ新しい事に向かう時、不安になったり、熱が出てしまうことがある。応援はまだまだ続きます。

*M君のこと

 M君は0歳からいる子だ。お父さんがリストラされてから家族がうまくいかなくなった。お父さんの仕事も見つからず別居。一度は頑張ろうとしたがついに離婚に至った。その間のM君の心情は計り知れない。明るく、くったくのないM君にも身のおきどころがないのだろう、気にいらないと友だちを打ち、暴言をはいた。「どうしたの?お話しするんだよ。怒らない、ぶたないよ。お話しするんだよ」と、抱っこして話すとコックリうなづく。わかっているのだ。私たちもM君の気持ちはわかる。でも集団のルールを壊すわけにはいかない。M君を受けとめながら、M君が夢中になること事を見つけてやりたいと思う。

*24人の個性や育ち

 M君のように家庭の問題をかかえこんでいる子は少なくない。
 N君のお母さんは、家庭生活が精神的に大変になり入院をしてしまった。そのため離婚し母の実家に戻り、N君は祖母に連れられて2歳の時入園してきた。毎日大泣きだったN君を抱っこして庭を歩き回った。
 Rちゃんのお父さんは単身赴任。家庭が崩れはじめ、お母さんは子どもたちを連れて家を出る決心をする。私たちは見守ることしかできなかった。
 24人の子どもがいて、24人の個性や育ちがある。食の細いH君。野菜の大嫌いなE君。トマトが大嫌いで、1年かかってやっとプチトマトが1つ食べられるようになったU君。おひるねの嫌いなF君。すぐカッカして怒りんぼうのY君。口が悪くすぐみんなを怒らせるW君。どの一人を見ても一筋縄ではいかない。一緒に仕事をする保育士とどんなに小さな事も話し合い、子どもたちが日々頑張れる言葉かけをし、応援をし、みんなが楽しいと思える計画を立てていきます。2人いても日々全力投球です。

*どんどん悪くなる保育行政

 しかし、今、国は子どもたちをどう育てようとしているのか恐ろしくなります。保育行政はどんどん悪くなり、今、安上がり保育制度を目指す「認定こども園」なるものを実施しようとしています。現在、国の基準で4~5歳児では、1人の保育士に対して30人の子どもとなっています。「認定こども園」が実施されると、35人の子どもに1人の保育士でいいことになってしまいます。大変な事です。
 群馬では子どもたちにいろいろな経験をさせたいと、20人以上は2人の保育士が担任している園も少なくありません。つくしんぼ保育園も開園以来ずっと、4~5歳児は20人以上になると2人担任でやってきました。しかし、保育士が増えると給料が下がってしまうのが当たりまえのようになっています。倍の保育士がいれば給料は半分になります。園独自で身を削ってしか保育士を増やす方法は残っていないのです。
 子どもたちは、自然の中で、友だちの中で、いろいろな経験の中で育っていくのです。年長になるとたくさんの行事やお泊りがあります。たくさんの大人の応援とお金が必要なのです。
 国は、子どもの実態を知り、一人一人の子どもたちが質の高い保育の中で豊かに過ごせる制度を作って欲しい。私たちは心からそう願っています。 

2007年の報告

Posted by gkodomo


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