パートナー通信 No.70
第二部 共同企画
「子ども食堂」と子どもの育ち
2015年度の総会・第2部企画で「子どもの貧困対策と学習支援」の問題を取り上げて以来、3回にわたってシンポジウムを継続開催して、学習支援に取り組む多くのNPOやボランティア団体が集い、県や市町村の行政担当者も参加して、成果とこれからの課題を明らかにしてきました。
その中で、子どもたちの「食」の問題がさまざまな場面で指摘されていました。子どもの成長・発達にとって、「食べること」は欠かすことのできない基本的な権利であり、今年度の総会第2部企画では「子ども食堂」の取り組みを取り上げることにしました。今日の政治・経済がもたらす構造的な「格差と貧困」が子どもたちの生きる権利を脅かしている実態を明らかに、地域でのさまざまな取り組みの交流をすすめることができました。参加した皆さんの報告や発言をダイジェストして紹介します。
今年度の第2部企画も「ぐんま教育文化フォーラム」「教育ネットワークぐんま」と共同で開催し、子ども食堂実施団体、県・市の行政担当者、市民あわせて65名が参加し、交流を深めました。
はじめの報告から
◆あかるい未来ネット・菊池さん
貧困家庭の話や孤食の現状を知り、何か始めなければと感じた人たちが集まって、平成27年3月に立ち上げました。同年12月から月1回のペースで開き、今年の6月で16回目です。子どもは無料、大人は200円を頂いています。最近では90名を超える方が食べにきてくれます。
当初の課題は支援を必要としている子どもたちとどうやってつながるかだったのですが、1年半続けるにつれて、貧困の問題だけではないと感じています。80歳代のボランティアスタッフが「いつも一人で食事をしているけれど、美味しいと言ってくれる笑顔の子どもたちと一緒に食べられると楽しい」と話しています。子どもたちはもちろん、赤ちゃんを連れたお母さんや一人暮らしの方、車椅子で来られる方などさまざまです。
昔と違って、現在の貧困は見た目には分かりにくく、何度も一緒にご飯を食べて少しずつ信頼関係ができて初めて自分の問題を話してくれるのではと思います。誰が来てもいい。悩みも話せる、温かい場所であり、交流の場が必要だと考えています。
生きていくうえで必要な知識を教えてくれたり、勉強を支えてくれる大人がいないなどの状況では、大きくなっても苦しい状況から抜け出すのは大変です。子どもたちが、生まれ育った環境に左右されることなく、自分自身で未来を切り開く力を身につけなければ、貧困の連鎖は止められないと思うから、学習支援の場所も考えなくてはと思っています。
他の市町村では行政主導で支援を行っているところもありますが、館林でももっと行政とつながって、一カ所でも多くの居場所が増え、支援の輪が広がっていくと良いと思います。
◆ひだまり子ども食堂・今村さん
3年前からAnnakaひだまりマルシェでファミリーサポートセンターの子育て支援事業を続けています。かなり幅広く、子育てに関わる悩み相談を受けるようになりました。なかには生活がかなり困窮されて、ファミサポ支援だけではこの家族は救えないと思われる場合もあり、なんとか助けられないかという思いをもち続けていました。たまたま子ども食堂の取り組みを知り、子どもの「食」を通して、また、地域に居場所をつくるということが自分にしっくり入ってきたので、東京の「子ども食堂サミット」にも参加していろいろ学んで来ました。
実は、私の息子もいじめで学校に行けなくなり、息子に対峙するのがとても大変でした。その時に、助けてくれたのが地域の大人たちだったのです。いろいろな声がけに支えられ、自分がなぜ行けなくなったのかということにも向き合って、学校に行き始めたのです。そこで改めて感じたのが、子どもの貧困の問題には、経済的なことだけでなく、子どもたちの社会的な関係性の貧困がとても大きいのではないかということです。
1回目を迎えるときには、子ども食堂がプチブーム的になっていて新聞社の取材もあり、多くの人に知ってもらうことができました。最初は、新聞報道で貧困というレッテルが貼られたり、来てくれたママたちに迷惑がかかるのではと不安がありました。生活がとても大変でも、一生懸命働いて子どもを育てているということが正しく伝わることを願い、ママたちに率直に語ってほしいと頼みました。当事者は本当に大変な暮らしをしているのですが、それは恥かしいと感じたり差別を受けるような問題ではない、と心にとめてほしいと思っているからです。
1年間やってきて、地域や全国の方がたから、食品がたくさん届いたりと、本当にありがたい支援をいただいています。今はクチコミで数家族来ていますが、実はヘルプを出したい家族がまだいらっしゃると思います。そこではやはり行政と手をつながないと、網の目のように這わせた支援は難しいと思います。最近は、子どもが歩いて通える場所で、何か特別な場所ではなく、日常的に子どもを支える居場所があることを目指したいと思っています。
◆高崎子ども食堂・矢沼さん
資料もお配りしてありますので、昨日の子ども食堂についてお話します。高崎子ども食堂は月曜日と金曜日に「一般食堂」として、大人500円、子ども300円を頂いて、どなたでも来て食べていただけるようにしています。これが大事な資金となります。皆さんがお支払いいただいたお金で、ちょっとご飯を食べるのが苦しい方に食事を提供させていただいています。おコメや野菜、お肉などは寄付していただいています。
支援の形は、子どもさんに1か月500円の「パスポート」を買ってもらいます。パスポートを1枚買っていただくと15回までは何時来ても大丈夫ということになります。大人の方には1回300円で6枚綴り1500円という回数券を買っていただきます。
事情によっては、大人の方でもパスポートにしたり、家族5人で1枚のパスポートを買っていただきます。もしかすると厳しいこともあるかもしれませんが、無料ということにはしていません。現在21名のパスポート会員がいます。お金を払って食べてくださる方がたが21名を支えていることになります。その方たちを「食べるボランティア」と呼んでいます。
ボランティアスタッフは現在5人で、週4回の営業を何とかまわしていますが、そのうち3人がほぼ毎回、後の2人が融通して入ってくれます。専業主婦の方が早やめに来て下準備をしてくれるのでありがたい存在です。メニューはメインが1品、副菜2品にご飯とお汁です。片付けに協力してもらえるよう、食べ終わって食器を下げてきた人にデザートを渡すようにしています。2か月に1回ぐらいで大きなイベンントを開催しています。バイキングで食べ放題にして、大人500円、子ども300円ですが、たくさんの方に来ていただけるので大事な運営資金の収入になります。
交流・討論の発言から
- ☆自宅を開放して家族でやっています。近所の子どもたちを集めてお節介のおばさんがご飯を出しているという感じです。隔週の月火、1回に1~2組で2~6人ぐらいです。地域の学校にチラシを配りました。ネットを見てという方もいます。(みどりこども食堂)
- ☆群馬中央医療生協として子どもの貧困問題に取り組んでいますが、桐生では子ども食堂にしました。取り組みの3つの柱は「食事と遊びと笑い」です。共立診療所の2階で行っています。1回目(4月)は44人(子ども12人)が参加しました。教育委員会に相談して地域の小学校・幼稚園の全児童にチラシを配りました。団地のお年寄り4人が、一人で食べているのでこういうのができて良かったと、続けて参加してくれました。行政とのつながりが重要だと思います。本当に困っている子どもたちに声が届けられるか、子どもでも大人でも孤食の問題に対応できるかなどが課題になると思います。団体加盟と個人会員という形にしていて、現在ボランティアスタッフは24人です。地域の複数の企業から炊飯器が寄付されました。(あいおい子ども食堂)
- ☆子どものいじめ問題を学童や児童館などのイベントでバンドで活動しています。喫茶を考えましたが、子ども食堂の広がりでボランティアを集めやすいと考えて半年前から準備を始めています。小さい子どもでもてくてく歩いて入れるとところがいいと、いま慎重に場所探しをしているところです。(あつまれ前橋スポット)
- ☆焼肉店を営業していますが、場所と食材を提供しながらお手伝いとして関わっています。子ども食堂の取り組みと言ってもさまざまなビジョンがあると思いますが、私たちは「孤食の子どもたちの受け皿」、そして「お母さんの保健室」、この2点からブレないように心掛けて、月1回で進めています。いちばん大切なのは、対象とする人に情報が届いているか、届いていて環境が整っているかではないかと考えています。流行でイベント的に始めたのではと揶揄されるむきもありますが、5年10年やるんだという形で始めました。ボランティアスタッフには地域の活性化の取り組みやイベントなどしている人も多くいます。場所を探している方には私たちのネットワークがお役に立てると思います。(まえばしこども食堂)
- ☆子ども食堂ではなく「くつろぎ子どもカフェ(親子で来てもらうカフェ)」を考えています。心のケアが必要な方、ちょっと誰かに相談してみたいという方、どこかに立ち寄って話を聞いてもらいたいという方などとつながりたいと思っています。私たちは17年間電話相談をしてきました。最近は相談も少なくなっていて、電話よりも対面式でできるといいねということでカフェをやることにしました。月2回、日曜日を予定していて、子育てくつろぎカフェとして一人親のお父さんお母さんに、お子さんと一緒に来ていただきたいです。スタッフには塾講師や教員もいるので、勉強もちょっと教えられたらいいなあと思っています。フードバンクさんのお陰でお土産付きもできそうです。(エンパワーメントぐんま)
- ☆行政との連携が重要とのお話がされていますが、大泉町から委託を受け、資金や場所も提供されて開催しています。自分が民生委員をしているので、困窮している方たちとのつながりもあり、福祉課や教育委員会などを通してチラシの配布もできます。2年ほど前からフードバンクや学習支援の大切さを学んでいて、何か取り組めないかと考えているところに、町の福祉課長からお話があり、皆さんに声をかけて総勢25名が集まりました。地域の企業からの支援などもいただいたり、知り合いに声をかけたりしています。(おいしいまごころネット)
- ☆館林の三松会です。皆さんが持ち寄った食材を使い、手作りの子ども食堂を運営していく方法がいちばん良いと思います。その中で食材が足りないとか、予算が足りないといった部分でフードバンクが協力したいと考えています。(フードバンク北関東・フードバンク前橋)
- ☆伊勢崎の馬見塚に古い家と広いお庭と畑もあって、自然栽培のお野菜とか子どもと一緒に畑を耕して、一緒に食事を作れる子ども食堂ができたらいいなと、いま準備中です。孤食の問題もありそうですし、赤ちゃんからお年寄りまで皆さんの居場所になれる場所作りをしたいと思います。広い庭で、身体をいっぱい使って、遊んで、ご飯食べて、家に帰ったらバタッと寝ちゃうような場所をつくりたいです。(伊勢崎市のCさん夫妻)
- ☆「あそびの学校」という、遊びを通しながら子どもの生活支援をやっています。5年前まで藤岡の中心市街地で駄菓子屋つきの居場所もやっていました。先月の総会で藤岡でもいろいろな団体と組んで子ども食堂をやろうという方針を立てました。子どもの貧困対策という点ではピンポイントで困窮家庭や一人親家庭につながるために行政無しでは進まないと思いました。やはり、子どもの遊びと食を結び付けたいと思っています。(三波川ふるさと児童館)
〔行政担当者からも〕
- ☆議会の一般質問の中で子ども食堂の実施について出され、実施に向け検討しました。太田市の例も参考にしながら、1~3月まで町の直営で業者が作ったお弁当を公民館で配布する子ども食堂を試験的に始めました。その後おいしいまごころネットさんにお願いして4月からの実施となりました。町としても出来るだけの支援はしてきたつもりですが、たいへんご苦労かけていると思います。これからもよろしくお願いします。(大泉町福祉課長)
- ☆今村さんがパネリストということで参加しました。立ち上げのときから付き合いがあり、このまま継続していっていただきたい。2店舗に増やしていくという話もあるのでサポートができればと考えています。(安中市福祉課)
- ☆この4月にこども福祉課の担当になったので、子どもの貧困の問題、子どもの生活実態を勉強しようと参加しました。館林では民間主導でやっているが、できるだけ支援を考えていきたい。(館林市福祉課)
- ☆この他に藤岡市こども課の方も参加され、感想用紙に貴重なご意見を寄せていただきました。
こういう会議の場に子どもがいない。子どもたちからの視点をもちたい…という発言に応えて
- ❤3歳ぐらいの子が2人来て「超絶美味しい!」と言ったんです。アンケートに「超絶美味しい」という項目を作ってくれって。
- ❤有機農法をされている方からいただいたニンジンをカリカリ食べて、「エーッ、これほんとうにニンジン?甘~い、美味しい!」と。
- ❤最初はお母さんの影に隠れるようにして、挨拶もできない。毎回こちらから声をかけ続けると、お母さんより先にニコニコと入ってきてくれる。
- ❤苦手な食材と聞くと、一口で終るぐらいつけてやる。「全部食べられたよ!」って食器を下げに来る。その時の晴れやかな顔、達成感でいっぱい。
- ❤初めて会ったお子さん同士でもすぐ仲良くなる。一度は男の子部屋・女の子部屋ができてしまい、親そっちのけでワイワイ楽しそうに食べていた。子どもって垣根がない。
- ❤慣れてきた子どもに「またね!」と声をかけると、
「オウッ!」とか「じゃあね」とか「また来るよ」とみんな一言って帰る。そのうしろ姿がすごく好きなんです。
(まとめ文責:加藤彰男)