パートナー通信 No.87

群馬子どもの権利委員会2022年度総会・2部学習会
ネット・ゲーム依存とその予防
Aki行政書士事務所 代表 田中友里

 ネットトラブルとは例えるなら「目に見えない交通事故」ともいえるでしょう。ネット上のトラブルは子どものその後の人生を左右するほど甚大な被害となることがあるからです。例えばゲームのやり過ぎで依存症になり学校へいくことができず引きこもり状態が10年以上経過してしまうこともありますし、ネット上の投稿が問題となって炎上し、その情報が一生ネットから消すことのできない「傷」を負うこともあります。いじめも今はS N Sなどネットを介して行われており、ネット上のいじめや誹謗中傷が人の心にどれだけダメージを与えているか、みなさんもニュース等でご覧になっていることと思います。
 このように子どもにとって少々の失敗や挫折は成長段階の過程として必要な経験と捉えることもできる一方で、このネットトラブルは交通事故同様「一度でも経験させたくないもの」ではないでしょうか。ではどのようにしたら未然に防ぐ事ができるのか、その予防法と対策について皆さんと学習をさせていただきました。

 前回のパートナー通信(No.86)でも私の活動を紹介させて頂きましたが、子どもたちをネットトラブルの被害から守る「親子のための保健室」の取り組みの中から、7月3日の群馬子どもの権利委員会総会後の2部学習会では、子どもたちのネットを利用することによる依存の問題を中心に取り上げました。当日の流れは以下の通りです。

  1. ネットトラブルは依存の問題含め5つに分類できる。  
  2. ネット依存の問題は社会性と自尊感情を育むことで予防できる。それは同時に他の全てのネットトラブル予防となる。  
  3. 自尊感情を育む方法は親子の対話。子どものどんな感情も否定せず受け入れてもらえるという安心感から育むことができる。(これは子どものどんな要求も飲むという意味ではありません。)  
  4. 子どもの権利条約の精神を親子の対話に活用する事が大切。  
  5. ルールを設ける上で大切なのは「なぜルールが必要なのか」の理解と、子どもの意見を尊重すること、問題が起こる前に話し合うこと。  
  6. 子どものどんな意見も受け入れることで、言いづらいことも話してくれる関係になる。何かあった時も被害を最小限にすることができる。

 まず1.について、私はネットトラブルを
①ネット依存
②コミュニケーショントラブル
③法律上のトラブル
④「騙されること」によるトラブル
⑤課金トラブル
の5つに分類して考えており、それぞれの原因やそれによる被害状況などを簡潔にお話ししました。特に今回のテーマである①ネット依存については被害の実態とその症状や対処法についても依存症専門医の見解も紹介するなど、医療と連携して依存予防の教材を作成した経験なども踏まえた内容としました。

 2.については依存症専門医の提唱する「ゲーム依存になりにくいタイプ」を基に「社会性と自尊感情」というキーワードに辿り着き、そしてそれがその他のネットトラブル予防にも有効なのではないかということについて、それぞれのネットトラブルの原因などをもとに皆さんにも考えて頂きました。

 そして、3.の自尊感情を育むというのが今回の学習会の重要論点です。自尊感情を育むことがなぜ依存予防になるのか疑問に思われる方もいらっしゃるかと思いますが、例えば子どもがデバイス利用のルールが守れなかった際に「なんで約束が守れないの?」や、子どもの「学校行きたくない」に対して親の「何言ってるの!」という反応は同じ親の立場として理解できる一方で、子ども側に立って考えてみると「私の気持ちをわかってくれない」「こんな私はダメな子だ」と問題の改善には向かいません。
 ここで子どもの権利条約の「意見表明権(子どもの意見の尊重)」を用いて考えると「なぜ約束が守れなかったのか一緒に考えよう」や「学校へ行きたくない気持ちだったのね。どうしたの?」という【気持ちを受け止める姿勢】が大切です。ありのままの自分を受けてもらえる安心感が自分は必要とされているという自信になり、自尊感情に繋がります。これがネット・ゲーム依存の予防に大切な「自己コントロール力」にもなりひいては社会人となった後にも役立つスキルとなります。

 4.は子どもの権利条約の精神とは具体的に何条のことでどのように捉えたらいいかということですが、今回挙げたのは

  1. 1) 第3条 子どもの最善の利益
  2. 2) 第12条 子どもの意見の尊重
  3. 3) 第13条 表現の自由
  4. 4) 第31条 余暇・遊び・文化権

についてネットやゲームの利用をする子どもの権利と依存やネットの脅威から子どもを保護する親の観点からどのように考えたらいいかを皆さんと検討しました。これが答えというものはありません。子どもの最善の利益ひとつとっても何が最善なのか難しい問題です。子どもの気質やその時の状況に応じて変わります。それでも「親子で一緒に考える」ということが共通認識を作り、相互理解となり、「これでいいのかな?」と考える習慣を作る事ができます。

 5.では実際に私が家庭のルールを決める際に行なっているアドバイスのポイントを3つにまとめました。

  • なぜこのルールが必要なのか、きちんと伝えること。
  • 子どもの意見は否定しないこと。
  • デバイス(スマホやゲーム)を渡す前に話し合うこと。

 ルールを決める上でもそれを守る上でも「なぜこのルールがあるのか」を子どもが理解することは重要です。交通事故の怖さを知ってはじめて「気をつけよう」という気持ちが生まれ交通ルールを守るようにまずは依存の怖さなどを伝えていただきたいと思います。
 その上で親子が対等な目線でどうしたらいいかルールについて話し合う。子どもの意見を否定しないというのか親の意見は一切言わないということではありません。意見が分かれた時に親側の気持ちも冷静になぜそう思ったか説明してあげてください。一方的に否定されない、丁寧に説明してくれる親の姿勢は子どもの意識にも変化をもたらすことでしょう。
 この後実際に私が利用している「親子のための契約書」等も用いながら参考例としてルールの決め方や項目についてご紹介しました。

 6.はまとめとして、今回色々お話しして参りましたが、最後にお伝えしたいのは「親はどんな時でも子どもの味方であり最後の砦であって欲しい」ということです。つまり日頃から子どものどんな感情や行動も受け入れる。時にはやってはいけないことをしてしまうこともあるでしょう。そんな時もまずは「そんなことがあったのね。話してくれてありがとう。どうしたらいいか一緒に考えよう。」の姿勢でいることでもしものときも被害を最小限に抑える事ができます。 これは現代のネット社会において特に大切なことであるように思います。親も先生も知らない「ネットの中」で何が起こっているのか…。全てを把握することが困難なのであれば親子の関係性の健全化が今最も必要な事なのかもしれません。

 冒頭に述べた通り、依存の問題含め、ネットトラブルは一度でも経験させたくない脅威となり得ます。予防することでしか守れない子どもたちの未来があります。この認識を私たち大人が共有することで子どもたちを取り巻く環境も大きく変わっていくことでしょう。そしてその具体的な予防策として「子どもの権利条約」の精神を親子の会話に取り入れることを提案させていただきました。
 これによりその家庭に合った独自のルールを話し合う事ができ、子どもたちの未来を明るいものにしていただければと願います。

 最後までお読みいただきありがとうございます。 参加者の皆様からいただきました感想をご紹介いたします。

「大人が実態を理解してない分野を詳細に把握し、整理して分析され、表に見えにくい現実を分かりやすく説明され、大変よく理解できました。予防についても的確で、現実的な方策を提言され、大変参考になりました。」

「身近にこの問題があるので、具体的に対応が聞けた!! 「法で」は目からウロコだ。田中さん、ありがとうございました。」

「予防教育の中で自尊感情を育てることを強調されていました。強く共感しました。子ども食堂が子どもの居場所となり、自尊感情を育てる場になっていると改めて思いました。」

「深刻な問題だということがわかった。資料が大変わかり易く整理されているので、身近な人に知らせてゆきたい。「戦争する国づくり」が進んでいる今、ネット・ゲームがこうした状況に利用されなければよいが。」

「とても勉強になりました。とても考えさせられました。まだまだ話し合いたかったです。」

「貴重な話が聞けました。家庭内で苦しんでいるご家族がたくさんいると思います。ぜひいろいろなところで話を聞く機会が持てればと思います。権利委員会としても企画していくとよいのではと思います。」

 ネット上で起こる問題や危険性について、多くの方に知っていただけるよう今後も活動して参ります。このような機会をいただきありがとうございました。


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