パートナー通信 No.90

特集②子どもアドボカシー制度と
子どもアドボケイト 子どもアドボカシーセンター☆ぐんま☆ 豊島美和

1.子どもアドボカシー制度と子どもアドボケイト

 子どもアドボカシー制度をご存知ですか?アドボカシー(英語:advocacy)とは、ラテン語に由来する言葉であり「声を上げる(voco)」ことを意味します。
 アドボカシーという言葉自体は以前からあり、弁護士や介護士の中では、擁護する・弁護するという意味で使われていますが、わたしたちは、声を上げることという理解としてとらえています。
子どもアドボカシーとは、自分で声をあげるのが難しい子どもの話を聴き、子どもが話したいことを自ら話せるように支援したり、意見や要望を伝えるサポートをする取り組みのことです。
 そして、その子どもアドボカシーを担う人をアドボケイトといいます。自分の想いや考えを交えず、子どもの声をそのままマイクやスピーカーを通したように大きくし必要な大人に届けることを担っています。子どもの小さな声を大きくして届けるマイクのような活動を行うことから、アドボケイトの声は子どもの声そのものであるととらえられています。
子どもの権利条約の中の「参加する権利」の中に「自分の意見を自由に伝え表す事が出来るという権利(子どもの権利条約12条)」があります。この権利を保障していく取組が子どもアドボカシーという取り組みとなります。

2.届かなかった声、救えなかった命

 日本は、2019年の第4回・第5回結合定期報告書審査の総括所見にて、「子どもの意見の尊重」について緊急の措置が取られる必要があると考える項目の1つとして勧告を受けています。
 同年、2019年1月、野田市小4の女の子が児童相談所に保護され家に帰りたくないと訴えたのにも関わらず結果的に家に帰されてしまい大切な命がなくなってしまうという事案が発生しました。翌年、広島県では、お母さんと離れたくないと訴えながら離されてしまい手紙等のやり取りをすることもできず、一時保護所内で自死してしまったという事案が発生しています。2つの事案とも子どもの声が重要視されていないために救えなかったという事案として問題視され、再発の防止が叫ばれています。
 その一方で、児童虐待の相談対応件数が急激に増加しており、児童福祉司1人あたりの対応件数が増えているため、子ども1人ひとりの声を聴くことが困難になっている状況です。
 また、子ども側からすると、自身の感情や思考が抑圧された経験や、「過去に相談したけれど何も変わらなかった」という思いのために、声を上げにくい状況にあることがわかっています。
 このような状況の中で、子どもアドボカシーは以下の4つの理念、6つの原則を掲げて、子どもが声を上げることをサポートしています。

4つの理念

  • セルフアドボカシーが本質である
  • 子供は権利行使の主体である
  • 子ども差別への異議申し立てである
  • アドボカシーはライフスタイルである

6つの原則

  • エンパワメント
     自分で話ができるように 誰もが持っている力を発見し その力を使って発揮する
  • 子ども主導
     アドボケイトの意向や価値観を交えず子どもの表現された許可と指示のもとのみに行動する
  • 独立性
     子どもがより声を上げやすい環境をつくるため、行政や施設、里親、親など、子どもの養育に責任を持つ機関から可能な限り独立して設立され運営される
  • 秘密を守る
     子どもの同意なしには漏洩しない。ただし子ども自身や他の人に「重大な侵害」が及びことを防ぐために必要な場合にはこの限りではないことも子どもに伝える。情報を破棄するときはその旨を子どもたちに伝えることを保証する
  • 機会の平等
     性別、人種、年齢、障害、セクシュアリティを理由にアドボカシーサービスへのアクセスと効果的な参加を妨げられないようにする
  • 子どもの参加
     「私たち抜きに私たちのことを語るなかれ」障害者権利条約の本質だが、アドボカシー活動に子どもが参加することにより、活動は子どもたちにとってより魅力的で効果的なものになる

3.子どもアドボカシーの構造

 子どもアドボカシーは、子ども本人を中心として、それを以下の4つの立場が取り囲む構造を作るのが大切であると考えられています。

  • フォーマルアドボカシー(教師・福祉職員・心理士)
  • ピアアドボカシー(友人・同じ背景を持つ人)
  • インフォーマルアドボカシー(親・養育者・近所の人)
  • 独立/専門アドボカシー(アドボケイトなど)

 子ども側からすると、自身と利害関係が強い立場の人には本音を話しにくいと感じる傾向にあること。相手を傷つけたり、関係をぎくしゃくさせたりしたくないという気持ちが働いて、本音を伝えることが難しくなること。話す相手や置かれた環境によっても、子どもの伝えたいことが変化する場合があるためです。
 たとえ相反する声が上がったとしても、どちらも本当の声であることから、4つの立場がそれぞれ補完し合いながら、子どもの声を聴くことが大切です。

4.子どもアドボカシーとの出会いとこれから

 耳をふさぎ目をそらしたい気持ちになるくらい「子どもへの虐待」というニュースが日々メディアで取り上げられるようになる中で、自分には何ができるのだろうかと考えていた時、「子どもアドボカシーを知ろう!」というYouTubeを観て「子どもアドボカシー」という取り組みがあることを知りました。

 それを機に子どもアドボケイト養成講座の受講をし、2021年から「子どもの声からはじめよう」という団体で子どもアドボケイトとして活動をはじめています。活動を通して子どもの声を聴くことの大切さ、子どもアドボカシー制度の意義を学び、現在は群馬県でも子どもアドボカシー活動ができるよう取り組んでおります。
 2022年6月15日、正式に子ども家庭庁設立法・子ども基本法が成立し、こども政策の実施や評価に、こどもの意見が反映されるようにすることが義務付けられ、2024年には、社会的養護を受けている子どもたちから意見を聴く制度が本格的にはじまります。子どもを権利の主体とし、子どもの意見を尊重して対応を考えるというところで制度としては大きく前進したといえます。しかし、虐待や貧困、いじめなどの暴力に苦しむ子ども、声を上げられない子ども、声を上げることをあきらめている子どもが沢山います。群馬県における2021年度の児童虐待相談件数は1909件となり、確認可能な97年度以降で2番目に多かったことが県のまとめで明らかになっています。このような現状を踏まえ、地域に住む全ての人が、子どもアドボカシー制度を知り、この制度を、子どもにとってより良い仕組みとなるよう考え意見を出し合い進めていくことが大切であるとともに群馬でも子どもアドボケイトの担い手を増やすこととても大切であると考えています。
 全ての子どもにアドボカシーを届けることを目指し、子どもアドボカシー制度の推進をしてまいります。


inserted by FC2 system