パートナー通信 No.88

『ちいきとこども』誌より転載こども家庭庁とこども基本法
 

柳沢治信(少年少女センター 全国ネットワーク代表)

 今年6月に国会で可決されたこども家庭庁設置法案とこども基本法について、少年少女センター全国ネットワークの機関誌『ちいきとこども』32号で主要な読者である青年指導員や若い保護者向けに書かれた解説的な論考を、転載する許可をいただき紹介します。

 『子ども政策の司令塔』となるとされるこども家庭庁設置法案が6月15日に参議院本会議で可決成立し、それと同時にこども基本法も可決されました。
 昨年の12月21日に「子ども政策の新たな推進体制に関する基本方針〜こども真ん中社会を目指すこども家庭庁の創設〜」を閣議決定した岸田内閣が翌1月17日の首相施政方針演説の中で「子ども政策を我が国社会のど真ん中に据えていくため、『こども家庭庁』を創設する」ことを掲げて急速に議論が進められました。
 このこども家庭庁の発案をたどると自民党若手有志議員による「Children Firstの子ども行政の在り方勉強会」がこどもに関する様々な部署を一本化する「こども庁」をつくることを提言しています。
 ところが菅義偉首相は二階俊博幹事長を本部長とする「こども・若者」輝く未来創造本部を立ち上げ自民党内の伝統的家族観を重視する党内保守派と言われる人たちの意向に配慮して「こども家庭庁」にしたといわれています。
 発案から1年足らずで可決され、来年の4月から発足する「こども家庭庁」は内閣府の外局として、子ども政策の司令塔になると同時に、文科省が担当し続ける教育以外の子どもに関わる施策に関する事務を一手に掌握する組織となります。
 首相の直轄組織として厚生労働省や内閣府の子ども関係の部局はほぼすべて新組織に移管されますが、具体的に何をするかは明確になっていません。  条文は9条から成り所掌事務は第4条 に27項目挙げられていますが、既に現行制度の下で行われている所施策の羅列にすぎません。
 こども家庭庁の創設理由は何かを、この法案の最後に付記されている提案理由を読むと「こどもが自立した個人として健やかに成長することのできる社会の実現に向け、子育てにおける家庭の役割に重要性を踏まえつつ、こどもの年齢及び発達の程度に応じ、その意見を尊重し、その最善の利益を優先して考慮することを基本とし、こども及びこどものある家庭における予育てに対する支援並びに子どもの権利利益の擁護に関する事務を行うとともに、当該任務に関する特定の内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けることを任務とするこども家庭庁」を、内閣府の外局として設置することとして、「その所掌事務及び組織に関する事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」とされています。
 特徴的なことは、「子育てにおける家庭の役割」「こどものある家庭の福社の増進」「こどものある家庭における子育てに対する支援」と「子どものある家庭」が協調されていることです。
 こども家庭庁設置法案に合わせて(4/5)自民党と公明党の共同による議員立法として提案された「こども基本法案」は、第1章 総則(目的)の第1条で「この法律は、日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり(–中略–)社会全体としてこども施策に取り組むことができるよう、子ども施策に関し、基本理念を定め国の責務を明らかにし、(–中略–)こども施策を総合的に推進することを目的とする」ものであると規定しています。自公(与党)による法案は(立憲民主党と維新の党も法案を出している) 20条からなる本体と11条から成る付則で出来ています。そして、提案理由として条例案の最後に「こども政策推進会議を設置すること等により、子ども施策を総合的に推進する必要がある。これが、この法律案を提出する理由である」と書かれています。
 第1条の目的に「日本国憲法及び児童の権利に関する条約の精神にのっとり」と明記されたことは一定の評価に値しますが、これを読むとわかるようにこの法律は旧教育基本法のように「権利の理念法」として子どもの権利を具体化するものでは無く、政府が子ども施策の大綱を作り地方自治体に計画を実施させる「施策推進法」となっています。
 法案の第5条では、地方公共団体の責務として、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、子ども施策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、その区域内のこどもの状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」と書かれています。
 国連子どもの権利委員会から繰り返し指摘されている日本の子どもが置かれている過酷な過度な競争教育には一切手を付けない上に何をするのか明記されていないこども家庭庁とこども基本法で「子どもの権利条約の具体化を図ること」はできません。
 子どもの基本法案の基本理念は6項目でできています。それを読むと、確かに表現は変えていますが、子どもの権利条約の4つの原則は盛り込まれていますが、表現が変えられており、5と6の項目では子どもの養育は家庭を基本として行われ、父母その他の保護者が第一義的な責任を有するとの認識のもと云々とあり、子どもを権利の主体と位置づけ、大人と同様一人の人間としての人権を認めるとともに子どもの生存、発達、保護、参加という包括的な権利を社会全体で具体化、実現しようとする子どもの権利条約とは矛盾したものとなっています。
 また、日本は、権利条約を批准しているのに敢えてこの4項目に絞りほかの条文に触れていないことにも大きな疑念が生じて仕方ありません。僕にはこの先に自民党が1979年に出した家庭基盤の充実に関する対策要綱以来連綿として模索し続け、2012年に家庭教育支援議員連盟が安倍晋三首相(当時)を会長として発足したこと。そのもとで作られた自民党の家庭教育支援法案(なぜか今は見ることができない)との関わりが気になって仕方がありません。
 最後になりますが、『子どものしあわせ』誌の7月号がこども家庭庁とこども基本法の特集を組んでいます。ぜひお読みになってください。また、その中で増山先生が紹介している日弁連の「子どもの権利基本法の制定を求める提言」はB4版で27頁あるものですが、大変参考になりますのでお読みになることをお勧めします。

『ちいきとこども』誌

 地域に根差した少年団や子ども組織・活動づくりに取り組む全国の実践を交流する、少年少女センター全国ネットワークの機関誌です。子どもの権利条約や「子どもを真ん中に」の理念をベースにした多様な取り組みが、子どもたちのカラー写真とともに生き生きと報告されています。
 年2回発行、頒価500円。群馬子どもの権利委員会を通じて購読できます。ご希望の方は感想ハガキなどでお申し込みください。


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