パートナー通信 No.91

世話人会だより人権と教育を希望に 清水 紅

① 無知と時代遅れな思考

 2023年3月に入り、ジャニーズの児童虐待、性加害がSNS(インターネット媒体)で徐々に大きく取り上げられている件を知人男性と話した時、「子どもの人権問題だ!ありえない」と怒り心頭の私に対し、「はあ?」という様子で、「良い思いしてるんだから(酷い目に遭うのは)当たり前だよ」と言い捨てた。
 別の友人男性は「死んだ人にどうしろっていうの?会社の人がやったわけじゃないでしょ」そんな話は聞きたくない、と言った態度。
 もしや、同年代の男達は児童性虐待についてこの程度にしか考えていないのか、「人権という思考が更新されていない、昔のまま」と、愕然とした。

 ジャニーズファンの別の女性は告発した被害者を「彼だって元カノにDVしていたらしいよ」ジャニオタ(ジャニーズファン)にあるあるのセカンドレイプ発言…(被害者への責任転嫁、また、嘘つき、金目当てなど、酷いことをSNSに書き込む等)
 熱狂的なジャニオタから被害者への誹謗中傷が異常なのは周知の事実だ。今回、自担(自分の担当歌手)、「推し」(熱烈に好きなアイドル)や、ジャニーズ事務所が被害を被る、などと、非難の過激さが増している。

 他方、韓国ではタレントや歌手にハラスメントがあるとファンが怒って事務所に猛抗議する。欧米の子どもへの性加害の嫌悪は到底日本の比ではない。アメリカでは児童性加害者は一生、自由を制限される。加害者が確認ができるよう居場所をインターネット上で死ぬまで表示、晒される。

 なぜ、日本人は性被害に無知で甘いのか。かく云う私もその一人だった。

 8歳で被害にあった服部吉次さんの体験を聞き、自分の無知にハッとした。女性や女子児童性被害に紛れてしまった、「男性も、男子も、男児も被害に遭う、同じ苦しみがある」ことに思いが及ばなかった。人、(老若男女、LGBTQ+)は尊厳を踏みにじられた経験をすれば同じように傷つき心が壊れる。
 服部さんは警鐘を鳴らす。家族以外の男性が家に泊まる、と言った場合、「女児の部屋に一緒に寝たら」とは誰も考えないが、簡単に「男児と一緒に寝たら」と言える。彼はそうして、その後100回もの被害にあった。そして、その経緯を姉に話したが、「汚い、そんな話やめて」と否定されてしまった。「もし、父親に話していたらジャニーズ自体なかったかも知れない」と悔やんでいる。服部さんは未来の犯罪を止める為にも「何かあったら誰かに話して」と真剣に訴えている。

② ジャニーズというカルト

 たくさんの子どもの中からジャニーズJrに選ばれ、テレビやコンサートで、雲の上の存在だったジャニーズグループの後ろで歌って踊る。スポットライトを浴びて光り輝く夢の世界、スターの優越感を味わう。
 歌手、アイドルになりたい。有名になりたい。お金持ちになりたい。
 被害児童は虐待後1万~5万円が渡される。それを母親に手渡し、「助かる」と感謝されていた逸話もある。一人親家庭が多いようだが偶然と言えるだろうか。2019年夏に少女たちへの性的虐待や売春斡旋の容疑で逮捕された、アメリカの大富豪ジェフリー・エプスタイン事件に似ている。被害にあった大多数は低所得層の少女達だったからだ。

 ジャニーズで、チャイルドグルーミング(性的虐待を目的に信頼を得るマインドコントロール)された子どもらは、性被害を耐えて勝ち残った、ジャニーズ帝国のヒエラルキー下、盲目的な兵士になっていったのではないだろうか。男子部活のような環境で、「秘密の掟」を集団で分け合い、結束を強くし、プライドを持って、ガッチリとジャニー喜多川を守る。そして、通過儀礼は年月と共に神の寵愛と神格化されていったように感じる。
 子どもの頃からジャニーズのルールで育つジャニタレ達(ジャニーズタレント)。学問や社会を知る機会も得ず、一般の感覚とはかけ離れた大人となる。胸をはってジャニーイズムを伝承し、児童性加害は受け継がれ、お気に入りの証、勲章に変わっていったのかもしれない。
 不本意にも若くして性体験を持った彼らの「何かしらの違い」は、女子を夢中にさせるジャニーズタレントの魅力になったのだ、そのようなことを某映画監督が言っていたが皮肉なものだ。

 そういえば、知人女性が、高校生の娘が見合わない大金を使いたい、と言って困る、と嘆いていたことがあり、よく聞くと、「友達とジャニーズのコンサートに行って、自担のグッズがどうしても買いたい、他の子はもっと買っているのに…」それで親に2、3万円くれと言っているのだ。
 彼女は離婚しており、ビル掃除の仕事で節度ある生活をしている。それを娘さんも分かっているだろう。
 買って応援、貢献するのが不文律。永遠に色々なグッズを買うサイクルにハマる。ファンクラブに入らなければコンサートチケットは買えない。ファンになるとグッズ購入の割り当てなどもあるらしい。こうして老いも若きもジャニーズに貢ぐシステムに組み込まれる、まるでカルト宗教のようだ。

③ 魂の殺人

 この一件で分かったのは、日本社会は性暴力の、深い闇に突き落とされるような、恐ろしさを知らなすぎるということ。心の複雑な傷は心療内科に通ってもなかなかよくならない。
 深掘りすればたくさん学べるので、他人事にせず、本やインターネット、YOUTUBEなど見て自分自身で研究してほしい。そして、いかに悲惨か周り中に伝えてほしい。

 PTSD・心理的外傷後ストレス障害:鬱、パニック、再体験、不安や緊張がずっと続く状態に陥ったり、症状が混ざった状態が起こる。精神がイライラ、ピリピリし疲弊して集中力もなくなる。
 身体の病と同様に、脳まで変化し、考え方や価値観、世界観にも影響が出る。何より人を信じられなくなり、自己肯定感もなくなってくる。生活も、毎日も、人生も変えられてしまう。もう、前の自分はいなくなる。
 だから「魂の殺人」と呼ばれるのだ。

④ 不作為と言う名の組織的犯罪と隠蔽事件

 これは子どもの権利を、尊厳を、命を踏みにじる、ジャニーズの組織的犯罪とメディアの隠蔽事件だ。国連人権理事会の作業部会は被害は少なくとも数百人に及ぶと言っている。5桁になってもおかしくない、とも聞こえてくる。会社も、新聞も雑誌も、テレビも関係者みんな知っていた。分かっていた。
 どす黒い大人の世界を経験し、見せつけられ、使い捨てにされたあどけない顔つきの子ども達、夢を追う青年達。警察に話した。事務所に電話した。マネージャーに相談した。先輩に言った。だが誰も助けてくれなかった。

 バブル崩壊、リーマンショック以降も、順調に潤沢な金を呼ぶジャニーズビジネスに日本中が忖度して、子どもへの犯罪を見て見ぬふりをした。私も気にかけなかった。そして60年以上もおぞましい慣習が続いてしまった。そこに「子どもは大人に守られて育つ」と言う人権などない。当事者の話を聞けば聞くほどに、「不作為=見て見ぬふり、何もしない」を良しとする、この国にがっかりするばかり。
 2023年9月、ジャニーズが暴かれ、大々的にめくれて本当に良かった。真摯な謝罪と賠償で当事者の心が少しでも穏やかになるといい。良い医療にも結びつくように、と祈る気持ちだ。メディアはカルマ(行為の結果)のブーメランを受けるだろう。詳細な検証をして変わってほしい。

 子どもの頃から「子どもの権利と性暴力の本当の怖さ」を教えれば、知れば、性加害も性被害も減るのではないかと思えるのが希望だ。

⑤ 全てのメディア、ジャーナリストを生業とする大人へ

 頑張ってたくさん勉強して、立派な仕事について、偉くなって、自分の国の子どもを守れないなら、悪い世の中を作るなら、勉強なんかするな。偉くなんかなるな。夢を、心を青春をないがしろにされた沢山の子ども達。私は怒っている。ものすごく怒っている。私にも。あなた達にも。

かけがえのない いのち、人権、自由を子どもに
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